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【ライブレポート】2021/1/6 LINDBERG 30th Anniversary Tour『 NO LIND, NO LIFE ? 』東京公演

LINDBERGの30周年記念ツアー『 NO LIND, NO LIFE ? 』東京公演に行ってきた。本来なら2020年4月に開催されたはずのライブも、コロナの影響で延期。9か月後の2021年1月6日に変更されるも、再びの感染者数増大により開催延期、あるいは中止も検討されていたと思う。緊急事態宣言の発出が現実的となる中での開催決定。

政府より首都圏1都3県を対象に、明日1月7日に緊急事態宣言を出す方針と報道をされましたが、開催日となる本日、関係各所との最終協議の結果、本公演を開催させて頂く運びとなりました。
メンバーを含む関係者一同、ご不安を感じるお客様も多くいらっしゃることは十分に理解を致しておりますが、それぞれのご事情でご来場が叶わぬお客様がいらっしゃる一方、本日の公演を心待ちにされ、現段階でご来場予定のお客様も多くいらっしゃいましたため、このような結論に至りました。
FLIGHT-LINDBERGより
https://ameblo.jp/flight-lindberg/entry-12648527299.html

公式ブログにも運営サイドの苦悩がにじんでいる。実際、基礎疾患があるので参加を見合わせました、というツイートも寄せられていた。自身の感染リスクはもちろん、家族や職場のことを考えて不安に思う人もいただろう。ライブを観ることにこれほどの葛藤を抱える時代が訪れるなんて、1年前は思いもしなかった。

そしてLINDBERGのライブに特化していうならば、ボーカル・渡瀬マキは機能性発声障害によってしばらくの間、活動休止を余儀なくされていた。今回のツアーは30周年記念であると同時に、復帰ツアーでもある。病状はどこまで回復しているのか、歌声はどうなっているんだろう…!?

LINDBERGと出会ったのは中学生時代、「今すぐ Kiss Me」を知ったタイミング。そこからアルバム『LINDBERG V』くらいまで追いかけていた。その後のシングルもいくつか聴いていたものの、徐々に離れてしまい、ライブを一度も観ることなく、いつしかバンドも解散。

しかし2009年、LINDBERGが20周年を記念して1年限定で活動を再開する。京都大作戦に出演すると知り、まだ一度もライブを観たことがなかったので京都まで足を運んだ。10-FEETも大好きだったから最高のフェスだった。その後10-FEETのツアーにも出演。今はなき横浜BLITZに行く。「今すぐ Kiss Me」や「LITTLE WING」でダイバー続出。ビックリしつつも笑顔だった渡瀬マキがとても印象に残っている。


あれから11年ちょっと。病気と闘い、少しずつ歩みを進めながらたどり着いたこのステージ。一体どんなライブを見せてくれるのか、期待と不安で胸がいっぱい。

会場はLINE CUBE SHIBUYA、すなわち渋谷公会堂。解散ライブや20周年のライブを行った場所。入場時には検温と消毒。チケット半券裏に名前と連絡先を記入し、ライブ中のマスク着用必須。声出しNG、観客はひと席ずつ間隔をあけての配置でライブ中に換気タイムを設け、終了後は規制退場。徹底した感染症対策を施したライブだ。前置きが長くなったが、ここからは中身について触れていきたい。


開演時間を過ぎ、場内が暗転するとベース・川添智久、ドラム・小柳"cherry"昌法、ギター・平川達也、サポートメンバーのキーボード・佐藤"darling"達也が登場。最後に渡瀬マキがステージへ。


「Hello!東京!」という渡瀬マキの元気な第一声とともに「恋をしようよYeah! Yeah!」でライブスタート。

その歌声は、決して万全なものではなかった。高音域になると地声での発生は厳しく、裏を使って乗り切っている印象。裏返るかどうかのギリギリのラインで踏ん張るも、声は揺れている。

高校生の頃、LINDBERG現役時代のライブ映像を観たときに、CDと比べると声はちょっと不安定かも、と思ったことがあった。2009年で初めてライブを観た時も同じような印象を持ったのである程度覚悟はしていたものの、少し寂しさを感じたのが正直な気持ち。

続く「赤い自転車」も同じく、やはり歌声の不安定さが消えることはない。好きな曲を聴ける、楽しめる!という思いもありながら、時に弱々しく感じてしまう渡瀬の歌声に切ない思いも強くしてしまう。


MCでは11月から始まったツアーも今日がファイナルであると告げると

「これ以上感染がひろがらへんように」
「マスクの中で、無言で歌ってください」

「手振りとダンスで盛り上がってくれたら」
「ガッと掴んでみんなの熱い気持ち、倍返しやからな!」

とメッセージ。今このタイミングで半沢!?というのがまた渡瀬マキらしくて笑ってしまった。と同時に、少しこちらの気持ちが楽になった。ステージにいるメンバーたちはとても楽しそうにライブをしているのに、観ているこちら側が落ち込んでどうする、と。

3曲目「会いたくて-lover Soul-」でも、サビの《会いたくて 会いたくて》がかなり厳しく、今にも声が崩れてしまいそう。それでも潰れることなく歌いきった。彼女のパフォーマンスに対する印象が段々変わっていくのを感じ始める。

「JUMP」では1階客席にいる観客たちが曲に合わせてジャンプをする。3階席にいた自分は着席にて鑑賞していたので跳ぶことはなかったが、声は出さずとも全身で喜びや楽しさを表現する人たちを見て、熱い思いがこみ上げてくる。

エレクトロな演出で始まった「もっと愛しあいましょ」では両腕を使った可愛らしい振付で会場中が盛り上がる。渡瀬は今も変わらず、とてもキュートだ。ここにいる皆が彼女に夢中になっていることが伝わってくる。


次の曲が終わったら換気タイムに入る、という告知から
「普段頑張っているお父さんお母さん」
「お姉ちゃんお兄ちゃん」
「おばあちゃんおじいちゃん」
「すべてのベイベーたちに!」

と告げて前半ブロックの最後を飾る「Over The Top」へ。〆にふさわしい盛り上がりを体全体で浴び、ああ今自分はLINDBERGのライブに来ているんだ、ということをあらためて実感。

ここまでの印象として、楽器隊の演奏、特に小柳"cherry"昌法のドラミングに圧倒された。CDで聴くレベルの遥か上をいく圧と存在感。すでに還暦を過ぎているとのことだが、迫力は衰えることなく鼓膜まで突き刺さる。また、全体のコーラスワークも聴いていて楽しい。渡瀬の声を支え、歌をより豊かに表現していたと思う。

ギターの平川、ベースの川添ともにワイヤレスでの演奏となり、特に川添はその特性をいかしてステージ前方や上手下手を自在に移動し、派手なパフォーマンスでビジュアル的にも魅せる演出を披露。50代後半にしてなおアグレッシブなステージングは見事。


ここで換気休憩が入り、ホール内の扉が開かれる。観客もトイレに行ったりスマホでSNSをチェックしたりと思い思いの時間を過ごしていたが…少ししてなんと渡瀬マキと・佐藤"darling"達也がステージに現れた。休憩タイムではないのか!? ここから突然始まったのは、ふたりのユニットによるカバー曲ライブ。このツアーではそれぞれのご当地にゆかりのあるアーティストの曲を歌ってきたんだそう。しかし今日この渋谷公会堂では、渡瀬自身が小中高時代に聴いていたという曲を披露するとのこと。

客席を見渡し、同世代(40代~50代)が多いことに安心しつつも、10代の子がいることを知ると、置いてけぼりにするからね、と宣言。その宣言通り、このパートで歌ったのは都はるみの「北の宿から」、ピンク・レディーの「UFO」、そして彼女がアイドルになりたいと思ったきっかけだという存在である松田聖子の「SWEET MEMORIES」。基本ワンフレーズのみの歌唱だったが、驚いたのはその歌声だ。しっかりと出ている。高い音域も、多少の苦しさはあるものの伸びもあって綺麗。ミディアムテンポの曲をゆったり歌うことは喉への負担も少ない、ということだろうか。

キーボードと声というふたつの音だけで披露されたカバー3曲は、バンド編成とは違った魅力があり、曲の表現に必要なものは、決して音数だけではないことを示していたと思う。

ここで渡瀬自身による“影アナ”が入る。換気休憩が終了するので休憩されている方も、されていない方も席にお戻りください、という内容。これについてステージ上の渡瀬は、「このウグイス嬢、最高やな」「ちょっとしたサービスを散りばめております」と茶目っ気たっぷりに話す。圧倒的な可愛さだ…。

このカバー企画について、渡瀬は「もうやらない」と言っていたが、客席からの大きな拍手を浴びると「考えとくね」とひとこと。アコースティックでカバー曲アリのツアー、個人的には面白いと思うのでいつかぜひ実現してほしい。

このユニットによるパフォーマンスはラスト1曲。自分たちの曲を、ということで阪神タイガース・藤川球児選手引退時のエピソードに触れつつ「every little thing every precious thing」を歌う。ときおり震えるような声にもなりながら、むしろそれが曲の情緒を引き出しているようにも聴こえてきてとても彩のある歌になっていた。会場からはすすり泣く声も。

曲が終わると、楽器隊が登場しLINDBERGアコースティック編成に。曲前のトークでは、渋谷公会堂についての思い出話に花が咲く。最初にここでライブをしたのは「今すぐ Kiss Me」リリース後で、ライブ前、リハーサルを何度も行った後に「LITTLE WING」のPVを撮影したというエピソードも飛び出す。解散ライブ、そして1年限定で再結成した20周年時もここ、渋公で。ちなみに初の渋公ライブ時、自宅からの電車賃がなく、二子新地の部屋に落ちていたお金をかき集めて渋谷まで行ったという川添。「ライブ後はどうしたん?スタッフから借りたん?」という問いに「社長からお金たくさん貰った」と答えると他のメンバーたちが騒然とする場面も。

このあたりのエピソードは次のインタビュー記事にも収録されているので未読の方はぜひ。

初めて渋谷公会堂でライブをやる時も、トモちゃんは渋谷まで来る電車賃がなくて、部屋に落ちている小銭をかき集めて渋谷までなんとかたどり着き、帰りはスタッフから電車賃を借りて帰る、という感じで、ギャップがしばらくありました。
「【インタビュー】LINDBERGが30周年のアニバーサリー・ツアーを開催!」より
https://www.diskgarage.com/digaonline/interview/140823

コロナ禍の中、こうして会場に来てくれた観客への感謝を伝えて「電車やエスカレーターの、こういうの持たんと帰ってね」と、手すり等には触らないよう注意喚起する渡瀬。まるで親が子に語りかけるように、そこには愛情がたっぷりと詰まっていたように思う。


30年連れ添ったメンバーならではのエピソード満載なトークを経て、いよいよ後半ブロックへ。

アルバム『LINDBERG III』収録の「MODERN GIRL」という渋めの、それでも個人的に大好きな曲にシングル「君のいちばんに…」と90年代前半~中盤の曲が続く。さらに2009年の京都大作戦でも披露して大興奮した「POWER」も。こちらはアルバム『LINDBERG IV』収録曲。フェスのセットリストに組み込まれたこと自体驚きだった。LINDBERGのライブにおける定番曲のひとつだったのだろうか。ライブ常連の方がいたらぜひ教えてほしい。

この「POWER」の曲中、ちょっとしたお遊びが入り込んでいて、ステージ前方に椅子を用意し、ピンスポットが当たる中でそこに座った渡瀬が突然、瑛人の「香水」を歌うというパフォーマンス。アコースティックユニット時の発言「ちょっとしたサービスを散りばめております」のうちのひとつ? こういったおふざけも、来てくれた人をいろんな手段を使って楽しませたいという意味でLINDBERGというか渡瀬マキっぽさでもあるのかもしれない。

本編もいよいよラストスパート。自身のブレイク曲「今すぐ Kiss Me」、そしてタイアップ先から入れてほしいと要望のあった“頑張れ”という言葉は使いたくないと試行錯誤した中で生み出されたという「GAMBAらなくちゃね」を披露。

《とびきりの笑顔見せていたいけど》
《時々泣きたくもなるよ》
《戻りたいんじゃない》
《後悔じゃない》
《がんばらなくちゃね》

当時の景色とは違っていても、今の彼女の状況とも重なる部分があるのかもしれない。

本編の最後を飾るのは「BELIEVE IN LOVE」。誰もが知るヒット曲でありLINDBERGを代表する一曲でもあるので会場の熱狂も最高潮に達する勢いだ。平川もステージ前に出てきて観客を盛り上げていく。本人の代わりにローディーがエフェクターを操作するほど熱いプレイ。個人的な思い出も強烈な曲ということもあり、10代の自分がよみがえってきてグッとくるものがあった。30年の時をあっという間に超えてくる。

曲が終わりステージからメンバーが去るも、当然会場からはアンコールの手拍子が沸き起こる。通常、ある程度大きな会場での公演では、スタッフによる楽器の再調整などが入るためアンコール開始までしばらく時間がかかるものだが、今日の公演ではかなり早いタイミングでメンバーが戻ってきた。時間短縮もひとつの感染症対策なのかもしれない。

アンコールの一曲目に届けてくれたのは「種」という曲。3年前、声が出なくなってしまい、今も治療を続けている渡瀬マキ。発病時、またステージに立てるとは思っていなかったという彼女が、30周年のツアーを開催するにあたり、みんなで合唱したくて作ったという新曲だ。

《空に憧れるだけで》
《土の外に出られないNO》
《壊れた心は泣いてばかりいるの》

《花のように真っ直ぐ上を向いて》
《いつの日か咲けるかな》
《もう一度あなたに会いたいよ》
《それだけ信じてた》

直接的に結び付けるのは野暮かもしれないが、どうしたって彼女の状況を思い浮かべずにはいられない。今こうして“渋谷公会堂”のステージに立っているのは、まぎれもなくLINDBERGの渡瀬マキ。病を経て、30年前とも、10年前とも違う新しい彼女を見せてくれている。

ツアーファイナルの締めくくりは「ベイベーにとっても私たちにとってもテーマソングの曲!」という合図とともに演奏された「LITTLE WING」。ファンを公言する10-FEETもトリビュートでカバーしている、LINDBERGをリアルタイムで聴いてきた世代にはたまらない一曲だ。エンジンふかしすぎたのか、曲冒頭で小柳がスティックを落としてしまう場面もあった。それを見た瞬間、こちらのテンションがさらに上がったのは言うまでもない。

《小さな翼はびくともしない》
《夜の向こうにある未来探すよ》

《夢見る重さに負けちゃいけない》
《傷つく勇気を忘れちゃだめさ》

若い世代に向け、夢を持つこと、夢に向かって進むことを応援するような歌詞だが、今のこのLINDBERGの状況にピタリとハマる歌詞でもある。

ライブ冒頭、その歌声に寂しさを感じたのは、この10年のLINDBERGを追いかけてきていなかったからかもしれない。断片的に入ってくる記事だけを取り込んで理解した気でいたからだろう。

今日のライブを通して、彼女やLINDBERGのメンバーたちが病気と闘い、あるいは寄り添いながら出口を目指してともに歩んできていることが伝わってきた。寂しいと感じた震えるような高音も、いつしか歌への愛、歌を届けることへの情熱で溢れている、そんな歌声に聴こえていたのだ。

かつてを100としたときに、同じように100の歌声を今は出せないかもしれない。そのことでいろいろ言われることもあるだろう。でも、傷つく勇気を忘れちゃだめさ、とばかりに今の自分をさらけ出してステージに立つ。その姿が凛々しく、カッコよかった。


3年前は普通に声を出すことも、誰かと話すこともできなかったわけで、私はここまで来たよ、ここまでできるようになったよというふうに気持ちを切り替えて、ツアーにのぞんでいます。
「LINDBERG 渡瀬マキにインタビュー!」より
https://www.diskgarage.com/digaonline/interview/151004


気のせいかもしれないが、「LITTLE WING」終盤、渡瀬の声がギアチェンジしたように聴こえた。それは力強くて頼もしい歌声だった。


演奏が終わり、すべての音が止まっても、両手で何度も何度もガッツポーズを繰り返す渡瀬の姿が目に焼き付いている。

メンバー同士がディスタンスを保ちながらエアで手を繋いでお辞儀をして、ツアー終幕。最後、一人残ってステージを去る際にオフマイクで「また会おうね!」と叫んだ彼女の姿は本当に美しかった。

これだけのバンドにもかかわらず、ステージに組まれたセットはシンプル。いくつかの電飾と、ライブ終盤には火の特効もありはしたが、余計な装飾を排した構成は、今のありのままの自分たちを見せるんだという意図があったのかもしれない。


2021年1月6日。今の時点におけるLINDBERG最高のパフォーマンスを堪能した。これはまぎれもなくプロフェッショナルの仕事だ。いつか治療が完了し、万全の状態で再びステージに立って歌う姿を見れたらと思う。そして治療の途中でも、できる範囲で、無理のない程度で音源リリースやライブ開催などの音楽活動も期待したい。


今日のLINDBERGには愛と優しさと勇気が詰まっていた。5年後も10年後も思い出して、そのたびにきっとパワーをもらえる、そんなライブを体験できたことを幸せに思う。

セットリスト
01.恋をしようよYeah! Yeah!
02.赤い自転車
03.会いたくて-lover Soul-
04.JUMP
05.もっと愛しあいましょ
06.Over The Top

07.北の宿から(都はるみ)
08.UFO (ピンク・レディー)
09.SWEET MEMORIES (松田聖子)
10.every little thing every precious thing
11.I MISS YOU(アコースティック編成)

12.MODERN GIRL
13.君のいちばんに…
14.POWER (+「香水」瑛人)
15.今すぐ Kiss Me
16.GAMBAらなくちゃね
17.BELIEVE IN LOVE

EN.
18.種
19.LITTLE WING


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