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【漫画レコメン!】『敗者復活のうた。』

個人的おススメ漫画を紹介する企画「漫画レコメン!」の第3回は『敗者復活のうた。』です。

『敗者復活のうた。』
作者:劔樹人

かつて神聖かまってちゃんや撃鉄のマネージャーを務め、バンド・あらかじめ決められた恋人たちへのメンバーとしても活躍する劔樹人によるコミック。

若い頃はインディーズバンドとして活動し、そこそこ注目も集める存在だったが、フジロック出演の夢が叶わないままバンドを脱退し今は営業マンとして働く主人公・宮本。ある日、ふとしたきっかけで音楽熱が再燃。ギターを買い、メンバー募集の張り紙を見てとあるバンドマンに連絡を取ったことから、宮本の音楽人生が再び回り始める…。

音楽から離れていたバンドマンが、新たな音楽人生を手に入れる物語ですが、現役、そしてかつてのバンドマンだけでなくリスナーとしての音楽好きにも刺さるのではないでしょうか。作者がバンドマンであり、働きながらバンドを動かしてた経験もあるため、作中の描写やエピソードにはリアリティもあります。

仕事中にもかかわらず、次回リハのスケジュールについて執拗に催促してくるメンバー。「これはまずい」とLINEをブロックしてしまう宮本。仕事とバンドを両立する宮本と、無職のメンバーとの対比が見事なシーンです。

新たなバンドでの温度感の違いによるストレス、決別してしまった恩義のあるライブハウス店長との再会、初ライブに向けて練習の日々。しっくりこない名前ばかり挙がるバンド名会議…。気づけば平凡な毎日が色を持ち始めていく。何かを始めるのに遅すぎるなんてことはないと思わせてくれる作品でもあります。

趣味を愛しながら暮らしていた学生時代を経て就職し、日々の生活に追われているうちにあれだけ好きだったものとの距離ができてしまう。そんな人々に向けてこの作品は「いつかまた好きだったものと仲良くなれる時間はやってくる」と優しく語りかけてくれているようにも感じます。

映画『花束みたいな恋をした』で描かれた、大好きだったカルチャーから離れていく山音麦を見て、将来に絶望を感じた若い世代もいると聞きます。一方でライターのレジー氏が書いているように、好きなものとの距離感はその時々で変化するわけで、すべてを手放す必要はないのです。

働きながら好きなことをする、好きなものを愛する。そしてそのことが人生を豊かにする。仕事や人生の状況に応じて好きなものとの距離感に変化は出たとしても、決してゼロにはしない。

バンドや音楽好き以外にも共感と希望が得られるであろう本作、ぜひ手に取って読んでみてください。

作中に出てくるバンド、ジュースオブペインやつまみファクトリーがどんな音楽を鳴らしていたのかめちゃくちゃ気になりますが、映像化された際の楽しみとして取っておきます。

ナタリーで実施された劔樹人と後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の対談ではそのあたりにも触れられています。面白いのでこちらもぜひご一読を。


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