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分解と統合(「ニュータイプの時代」/山口周) | きのう、なに読んだ?

山口周さんの新著「ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式」を、ダイヤモンド社市川さんからお送りいただき、読んでいた。ベストセラーになっているそうだ。

本書の内容はAmazonのページに詳しく書いてあるので、ここでは触れない。山口周さんは私の好きなタイプのインテリで、文体、論の運び、根拠となる古典や最新の研究の出し方など、山口周スタイルを楽しみながら読み進めた。一方、読みながら気になったことがひとつある。本書の構造だ。本書のカバーの見返しにあった図表を見てほしい。

表では「オールドタイプ」と「ニュータイプ」を、9項目に分解して対比させている。本書の主張の概要が一目で分かる、役に立つ図表だ。本書はさらに詳細に、24項目に渡って「オールドタイプ」と「ニュータイプ」を分解して対比し、それぞれの特徴を論じる構造になっている。

何が気になったかというと、本書は2つのタイプをいくつもの要素に「分解」して見せてくれているけれど、それらの要素を「統合」した姿ってどうなっているんだろう、ということだ。

分解と統合というテーマにはずっと関心を持ってきた。ここからは「ニュータイプの時代」を離れて、「分解と統合」とは何か、改めて考えたことを書いておく。(本書の感想は、また改めて。)

一般に、大きく複雑なテーマを分解して扱いやすくするアプローチは、とても強力だ。論理思考の第一歩では「MECE」、つまり「もれなく、ダブりなく」問題を分ける方法を教わる。本を紹介するときも、序盤、中盤、終盤と流れに沿って分解すると内容を要約しやすい。組織も、研究/製造/営業といった機能別、あるいは地域別、事業別、といった切り口で分解できる。事業では分解して仕事を進めることを分業という。

分解したものは、統合されないと本当には意味をなさない。課題をMECEに分けたら、それぞれの小さな課題に答えを出すだけでは足りなくて、それらを統合し、元の大きな課題に対してyes/no を示すことがゴールだ。本の紹介も部分ごとの要約では足りなくて、全体のテーマや主張を伝えたい。組織では、分業によって各部署から生まれた成果物が、統合されてはじめて一つの完成品として顧客に届けられ、一つの会社として矛盾なく動く。

分解がある以上、統合は必ず必要だ。最後にパーツを並べただけでは「統合」にならない。分業でできた半製品が積み上がるだけになる。けれど、分解や分業とくらべると、「統合」は軽視されがちではないか。分解に着手する最初の時点で、「統合」の仕方をイメージしておかないといけない。状況は常に動いているから、当初とは異なる形で統合していく場合もある。

分解はロジック、統合はアート。

事業では、下手をすると社長の直下の役員レベルですでに研究/製造/営業といった機能別に分業する体制になっている。顧客が手にするのは研究/製造/営業が統合されたひとつの商品だ。でも、社内で統合した姿を担当しているのは、なんと社長だけ。取締役会では、どの役員も自分の担当する機能の部分最適に偏重し、議論が並走してしまう。統合をイメージしない主張は、ただの陣地争いだ。社長、大変ですね。

家庭でも「統合」はすごく大事だ。稼ぐことと家事育児を分業するのが、これまでの多くの家庭運営の姿だ。さまざまな家事を家族で分業する家庭もある。複数の子を育児中の家庭では、一方の親がある子を、もう一方の親が他の子をみる、という分業もあり得る。それぞれのケースで、家族としての「統合」はどのようになされるのか。熟年離婚なんかは、「統合」がおろそかになった帰結と言える。分業の結果、「平行遊びのよう」に「私はあなたのものを触らないようにするから、私のも触らないでね、という状態」が生まれやすい、とメリンダ・ゲイツも指摘している。

「統合」はとても大切だ。そして大仕事になりがちだ。一方で、一定規模を超えることをなすには、分解、分業は不可避だ。とするならば、一つのアプローチは、大仕事である「統合」を担える人材の発掘と「統合」のプロセスづくりに力を入れること。別のアプローチは、「統合」が楽になるような「テーマの分解のしかた」をデザインすること。さらに別のアプローチとして、「統合」で悩まなくて済むよう「別のテーマ」として独立すること。事業で言えばスピンアウト、家庭で言えば離婚。こんなアプローチが考えられる。

いま挙げた3つのアプローチの中では、2つめの「統合」が楽になるような「テーマの分解のしかた」をデザインするというのが、クリエイティブで探索する甲斐があると考えている。こちらについては、いずれ、別の機会にでも。

今日は、以上です。ごきげんよう。

(photo by t-mizo)

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