男性に教えられた『仕事と家庭は両立できない?』

仕事と家庭は両立できない?-「女性が輝く社会」のウソとホント』(アン=マリー・スローター著)の日本語版解説を書かせていただきました。

著者は、ホワイトハウス高官というキャリアの一大チャンスを得て、二人の息子を夫に託して単身赴任しました。しかし、中学生の長男が問題行動を繰り返すようになってしまいます。葛藤の末、2年で退任することを決めました。この経験に基づき、スローターさんは『女性は仕事と家庭を両立できない!?』(原題:Why Women Still Can't Have It All)という論考を2012年に発表。フェイスブックCOOシェリル・サンドバーグさんの『リーン・イン』出版からまだ数か月という時期だったこともあり、たいへんな話題になりました。この論考を起点に、3年かけて考察を深め執筆されたのが、本書です。

私達が直面している問題は「男性/女性」の構図でも、「仕事と家庭」の両立(あるいは対立)の構図でも捉えられない。「競争」と「ケア」という、人間社会の発展を駆動してきた2つの面のバランスの問題なんだ。現代のアメリカの価値観では、競争に価値を高くおき、ケアの価値を低く見すぎている。それを「女性」「両立」の視点で捉えようとするから、どうしても「ウソ」が混じってくるのだ。ちょっと乱暴ですが、本書の主張の中核をまとめると、こういうことになります。

解説の執筆準備のために本書に目を通したタイミングで、原著を読んだ男性の友人と「この本の話をしよう!」と会うことになりました。彼は、海外MBAホルダーかつベンチャー企業幹部という「競争」に最適化したような属性を持ちつつ、家庭では、病気の影響でリハビリ中の妻と二人の子どもたちの「ケア」の主軸であり、多忙な毎日を送っています。

そんな彼に「それだけご家族のケアの責任を負ってると、イクメンって言われるでしょう?」と尋ねました。

「いや、自分から家庭の話をアピールしない限り『イクメン』なんて言われないよ。」

私は、はっとしました。男性である友人は、周りに家庭の事情を詳らかに知らせない限り、「ケア」の責任を負ってるなんて、周りは想像すらしない。恥ずかしながら、私はそのことに思い至っていませんでした。

私は、「子どもがいます」という軽いひとことだけで、「ケア」しながら仕事もしてエライデスネーという「賛辞」みたいなものや、周囲の配慮や理解をたっぷり頂いています。子どもがいるから仕事に影響が出る可能性があることや、同僚に協力や配慮をお願いしたいことを、細かく説明せずに済んでいます。それは、私が女だから。

それに対して友人は、私よりも重い「ケア」の責任を負っているのに、自然に周りから共感されるなんてことはありません。「子どもがいます」という一言だけで、男性である彼が夕飯時までに帰宅する必要があるかも、と周りが想像を働かせることは、ほとんどないのではないでしょうか。ですから、彼の場合は、私と同じように周囲の理解や協力を得ようとすると、たいへんな説明努力が必要になってしまいます。それは、彼が男だから。しかも、一見「ケア」と縁遠そうな学歴と職業の男性だから…。

「男性/女性」の構図では問題を捉えきれない。「競争とケア」のバランスの問題だと捉えないと「ウソ」が混じってしまう。著者の指摘する「ウソ」を自分も抱えていることに、私自身、気づけていなかったのでした。

この時の友人との対話がきっかけになって、本書に関する理解が一段深まりました。自分の価値観に「ウソ」が混じっていることも、少しは自覚するようになりました。そして、執筆を通して、さらなる「自分の中の『ウソ』」に新たに直面することになりました。その「ウソ」は、自覚はできたものの、かなり根深くて、まだ解消できていません。本書の原題はUnfinished Business。 まだケリがついていない、やりかけの仕事、という意味です。担当編集者に「もし解説に題をつけるとしたら?」とたずねられ、「私のUnfinished Business、です。」と即答しました。

仕事と家庭は両立できない?-「女性が輝く社会」のウソとホント』は、男女、既婚・未婚、子どもの有無などを問わず、ほんとうに、自分の無意識の思い込みについて考えさせられる本です。よかったら、手に取ってみてください。

(photo: Julien Reboulet)

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篠田真貴子

本の感想(篠田真貴子)

ときどき、本の感想を書きます。それをまとめたマガジンです。

コメント1件

昨日の「未来のおしゃべり会」参加者です。たくさんの気付きをいただいた中で、いちばんの発見が、こちらの「競争とケア」のお話でした。
上記の趣旨とは異なりますが、個人的には、日本の生産性の低さは、「ケアは無償」「ケアは弱者やルーザー(?)が提供すべきもの」という意識が根底にあるように感じています。
こちらの本も読んでみます。
どうもありがとうございました。
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