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課題の定義のしかた | きのう、なに読んだ?

「資本主義はどこに向かうのかーー資本主義と人間の未来」という本を編著者である堀内勉さんに頂戴した。まだ読んでる途中なんだけど、まずは堀内さんによる前書きが良かった。なんでかって、11ページある前書きすべてを「課題を定義する道のり」の説明に投入しているから。

堀内さんは1998年の金融危機の際は大手銀行の経営企画部門で、そして2008年のリーマンショックの際は大手不動産会社のCFOとして、難局に対峙した。その経験をきっかけに、根源的な疑問が次々湧いて「決着を着けなければ、この先ビジネスマンとしてやっていけない」ほどだったという。

われわれに執拗にまとわりついて離れない金融というものの正体は何なのか、そしてその前提にある資本主義とは何なのか、金融と資本主義は不可分一体のものなのか、資本主義とは人間存在にとってどのような意味があるのか、なぜ企業は成長しなければならないのか、なぜ収益をあげなければならないのか、(以下略)

仲間と議論を深める中で「今の資本主義社会を理解するためには、「人間とは何か?」という問題を、イデオロギーからではなく、より科学的な見地から深堀りする必要があると考えるように」なった堀内さん。生存科学研究所の自主研究として、深堀りの場として、公開講演会をシリーズ化させる。

「ビジネスの現場にいる経済人から見た、資本主義に対する基本的な問いかけ、『資本主義とは何なのか』「資本主義という仕組みは、我々人間の本性に合っているのか』という問題について、各界の英知が結集し、専門の立場から、包括的な議論をする。」これが自主研究の目的だ。

さらに、この問題を4層構造に整理されている。

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そして、この4層からなる「資本主義」の課題は、下の図のような様々な問題と絡み合っているという認識のもと、「旧来的な要素分解的な手法で議論するのではなく、常に相互の連関性に気を配りながら検証する。」という。

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このように、「何に白黒つけようとしているか」「その課題の構造をどうみているか」「どんな方法で解くか」「課題の前提や解の範囲をどこにおくか」といった要素をクリアにするのが、課題の定義だ。これは本を書くときだけではない。ビジネスでも同じだと思う。大きな課題であればあるほど、これくらい緻密に課題定義をしてから取りかからないと、数ヶ月、下手をすると年単位の時間と労力が無駄になる。逆に、この緻密さで課題定義ができれば、私の感覚値では仕事の1/3 から半分が終わったも同然だ。ちなみに、ビジネスデザイナーの濱口秀司さんは、インタビューなどを拝見する限り、課題設定が神がかってると思う。

また、課題の定義は、一人でうんうん考えたってできるもんじゃない。いろんな人の話しを聞いたりちょっと試しにプロトタイプを走らせてみるなど、課題の定義そのものに関する仮説検証が必要だ。堀内さんの前書きと、小泉英明さんのあとがきから、課題定義までの試行錯誤の足あとが読み取れる。

堀内さんの前書きの構造は、実は私が20年前にかかわったMcKinsey Global Institute のプロジェクトレポートによく似ている。

本文で、エグゼクティブ・サマリー(概要)に続く本文のいちばんはじめにくるのが「Objectives and approach」だ。ここでプロジェクトの目的、つまり何に白黒つけようとしているのか、どうやって決着をつけるのか、を明らかにしている。

当時の私は、自分の担当パート(食品加工業の分析)に手一杯で、「Objectives and approach」 は先輩たちが定義してくれた。定義してあったから、私たちチームメンバーが分業した分析結果をならべた時に前提がそろっており、全体を統合して洞察を深める作業にスムーズに入れたんだと思う。(*1) その頃は、ここが定義されていることの重要性にあんまり気づいてなかった。その後、課題の定義が不十分だったためにあとで大変になる、という経験もたくさんした。そこからふり返って、「Objectives and approach」が書けるくらい明確な課題定義をまずすることがどれほど大事か、徐々に腹に落ちた。

そんな経験があったものだから、この本の前書きだけで、うれしくなっちゃったのですね。

今日は、以上です。ごきげんよう。

(Picture by Magnus-Mat)


*1 課題を分業したあとの統合については「分解と統合」にも書きました。


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