見出し画像

すぐきえるもの

 夢に死んだじいちゃんが出てきた。一緒に埼玉の伊奈の釣り堀に来ていて、金魚を釣っていた。いや、釣っていない。全然釣れなくて、暑くて、二人で釣れないねぇと話しながら、じっと金魚がかかるのを待っていた。

 途中、堀を挟んで向かい側に座っていた親子が、釣り堀の中に落ちた。子供は首まで水に浸かってびしょ濡れで、すこし気持ちよさようだった。子供は笑っていた。父親もはじめ煩わしいような顔をしていたが、すぐに大笑いした。釣り堀にいる皆、それを見て、にこやかに笑った。

 自転車で帰った。なぜか軽井沢にある別荘に帰っていた。さっきまで埼玉にいたのに。ぼくは後ろに乗っていた。このときはじめて、自分の体が小さいことに気がついた。夢なのかと思った。


 じいちゃんは自転車を漕ぎながら、「タイムマシンはな」といった。ぼくは「なあに?」と聞いた。チリチリと足元で回る車輪の音と、じいちゃんの、年寄りなのにがっちりした図体が切る風の音でよく聞こえなかった。

「タイムマシンはな、思い出せばいいんだよ」もう一度言った。

そうだねとぼくは言って、しっかりじいちゃんの背中につかまった。おちないように、はなれないようにしっかりつかまった。ふたりで軽井沢の並木を、軽快に滑った。

起きた時、思い出すのがタイムマシンというのを、ぼくはあいまいに実感しながら、ベットサイドの窓から、庭のアゼリアの花をじっとみつめた。

じいちゃんはもうどこにもいなかった。しかし見方によっては、
いたともいえる朝だとおもった。

もしサポートいただけたら、こどものおむつ代にさせていただきます。はやくトイレトレーニングもさせなきゃなのですが...