ちくわまる いぬとくらせば(短編)

昔、犬を飼った事がある。

ばあちゃんは昔、近くの小学校で裁縫教室を開いていて、毎週火曜日は夜遅くまで出かけていた。
ある日、ばあちゃんが裁縫教室から帰ってくると、手には小さな子犬が抱きかかえられている。

「わぁ!!ばあばあ、これ」

「これね、小学校に捨てられてたんだって。酷い事する人がいるもんだね、、この子をウチで飼う事にします!」

「はぁ!?誰の許可のもとそんなことするんじゃ!!」

「だってかわいそうじゃない?飼いましょう!?ねぇ?」

「じいちゃんがいいっていうなら、いいと思うよ…」

「勝手にしろっ!!」

こうして我が家に犬がやってきた。
まず名前をどうするかを、従業員の皆で悩んだ。命名選抜組として、お酒をスポイトで直腸飲酒するスガさん、柔道ならば誰にも負けない、職人の癖に不器用な清水兄、最終学歴、中学校早退の三島さん、そしてボクが選ばれたが、なかなかいい名前が浮かばない。浮かばないはずである。この4名の語彙力と言ったら一年生の漢字ドリル程度である。

どうしようか、こうしようかと考えた挙げ句、
ボクが候補としてあげた「ちくわ丸」が見事採用された。

ちくわ丸は何となく胴の部分が焦げ茶色で、顔がしわっとしていた。
柴犬だった。いや、正直種類はよく分からなかった。柴犬のくせにブルドックみたいな顔をしていた。目がビー玉のようにツヤツヤしていて綺麗だった。

みんな、ちくわ丸を可愛がった。
みんなえさをあげたがって、触りたくて、抱きたくて、ちくわ丸は引っ張りだこになった。
ちくわ丸はボクたちのアイドルになった。

不思議な犬だった。吠え方が独特だった。
わんわんとは泣かなかった。ふんがふんがとなく犬だった。幼かったボクは気が小さかったから、もしちくわ丸がわんわんと鳴く犬だったら、恐怖心から余り親しみを持てなかったかもしれない。

ボクとちくわ丸は仲良しだった。

「チクチク〈ちくわ丸のあだ名〉を散歩に連れて行く役目は俺がするけん」

とあんなに飼う事を反対していたじいちゃんが独占してちくわ丸を散歩するという役目をになった。

「まったくこいつはバカ犬だ。歩くのが遅くて腹が立つ」

そう言いながら、じいちゃんは毎日散歩に連れて行ってくれた。

ボクも大きくなり、祖父母の家から離れた後もちくわ丸は祖父母の傍にいてくれた。大きくなっていくボクとは逆に、ちくわ丸は小さくなっていった。

どんどん歳を取っていった。そしてどんどんちくわ丸の目が、透き通って綺麗になっていく気がした。

中学校に上がったある日、家にばあちゃんから電話があった。

「あ…落ち込まんで聞いてな…チクチクな…チクチクな…死んでしまったけん…買い物から帰って来たらトイレの前で…寝ていて…もう起きんのよ…ごめんな…本当にごめん…」

ボクは、謝らないでと言った。その他にも色々話したが、何を話したかあまり覚えていない。
その日、ご飯を食べ、風呂に入ったとき、少し湯船で泣いた。

眠りにつくと、ちくわ丸が夢に出て来た。
あいかわらず、目が綺麗だった。
綺麗な心のいぬだった。

それから4年が過ぎ、祖父が、完全に大工業から定年を迎えた。その時の従業員さん、昔の従業員さんみんなで集まって、お食事会をした。ボクも参加をした。

みんな、年をとっていたが、あまり変わらなくてほっとした。話がちくわ丸のことになった。

「これから兄さん〈祖父の事である〉も定年なわけだし、坊ちゃんもおっきくなってしまったからな!犬でも飼えばどうですか?」

「そんなんいらん」

「またまた~さびしくなりますよ~」

「いらん、めんどくさい。死なれてみろ、めんどくさいといったらない」

ボクは正直、じいちゃんのその発言にカチンときたが、祝いの席。特段何もいわなかった。

帰りはひーちゃんという経理のおばちゃんがボクと、ばあちゃんとじいちゃんを車で送ってくれた。

外は雨が降っていた。土砂降りだった。

何気なく外をみているとばあちゃんが「あ、あれ」と外を指差した。そこにはホームセンターがあって、犬が売っているのが見えた。

「ね、みてみようよ!!」

とばあちゃんが乗り出し、ひーちゃんが同調した。ボクもいきたかった、犬をみたかったし触りたかった。

「いかんぞ」

とじいちゃんは言ったが、二人の女子パワーに負けた。

店頭で、あれこれとペットをみる。
そしてダックスフンドのかわいい子犬を飼おうとなり、レジを済ませようかとしたその瞬間、
祖父が急に走り出した。

ホームセンターの外に走り出したのである。
そとは土砂降り。傘もささずにもの凄いスピードで。

3人は唖然とした。というかお店にいる人みんなが唖然とした。考えてみてほしい。70歳過ぎたじい様が、猛ダッシュである。誰だって なんだなんだ?!となる。

ボクはじいちゃんを追いかけた。

何名か店員さん、お客さんも後に続いた。

追いかけるとじいちゃんは土砂降りの駐車場にへたり込んだ。

そして大きな声で泣き出した。

泣きながら、こういった。

「そんな…そんな…他の犬なんかいらん!!!ちくわ丸に会いたい!!!他の犬なんか飼ったら!!ちくが…ちくが泣くよ!!!!!!!
ちくわ丸が泣いてるよおおおおおお!!!!!!!」

ボクは人前で大号泣するじいちゃんを情けないなと思った。

それと同時にこの人に育てられ、
ボクは本当によかったなと思った。


ちくわ丸と2人とも仲良くやっているだろうか。丁度このくらいの季節の、雨の日だった。

思い出したので、書いた。

#短編
#小説
#プレーンに書く
#行間感情を意識する
#風景を書かない
#犬
#育児

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

もしサポートいただけたら、こどものおむつ代にさせていただきます。はやくトイレトレーニングもさせなきゃなのですが...

そんなあなたが、僕もスキ!
11

kazuho

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。