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東京マラソンは集客ビジネスだ!


 3万6千人のランナーが東京を駆け巡る東京マラソン。私もこれまで何回かランナーとして参加し、今年もチャリティー・ランナーとして参加した。東京マラソン2007年からスタートして年々進化している。コース設定も東京都庁をスタートして、浅草の浅草寺、スカイツリー、銀座、東京タワーと東京の名所を巡っていく。昨年からはゴールをこれまでのビッグサイトから東京の顔である東京駅前に変更して、ゴールした時のランナーの感動もひとしおだ。

 海外のマラソン大会にも参加するとわかるが、日本人ならではの緻密な大会運営にはいつもながら感心する。ランナーの荷物の集配システムも完璧、迅速だ。沿道の給水、給食も充実しており、私は参加するたびに、途中エネルギー切れを心配するあまり食べ過ぎて、走る前より体重が増えるという珍現象まで起こっている(笑)。コース途中の簡易トイレもふんだんに用意されていて、以前は長蛇の列を作ってタイムロスをしていたのがだいぶ緩和されている。ニューヨーク・マラソンでは不足している結果、ランナーがやむなくコース外に隠れて用を足す光景まで目にした。

 さらにもう一つ加わったのが「世界一安全・安心なマラソン大会」だということだ。ボストンマラソンの爆破テロも教訓にして、セキュリティには相当手を打っているようだ。コース沿道の監視カメラも相当充実させている。さらにランナー一人一人の手首にはセキュリティーバンドを付けてセキュリティ・チェックも高度化している。

応援サービスに「地下鉄の縦割りの壁」 

 東京マラソンのランナーにとっての最大の魅力は、実は沿道の応援にある。走りながらの高揚感は応援あってこそ生まれるのだ。24もの沿道の会場ではランナーを応援する音楽演奏やダンスなどのパーフォーマンスで盛り上げる。東京の強みは全コースで途切れることのない、沿道を埋め尽くす200万人もの大応援だ。これは他のマラソン大会では全く及ばない。
しかも東京は地下鉄網が縦横に整備されている。応援する人々は応援したいランナーのペースをネットでチェックしながら、順次都内を地下鉄に乗って移動する。予め一日乗り放題の乗車券も配られている。ランナーのペースごとのモデル移動コースの案内情報もある。これこそ東京の強みを活かしたサービス提供で、まさに至れり尽くせりだ。

 しかしここに東京特有の問題がもったいない結果を生んでいる。このサービスは東京メトロが提供しており、掲載されている案内情報は東京メトロに関するものだけだ。都営地下鉄の路線情報の記載がない。ところがコース終盤は三田、品川方面を往復するコースで、ここを走るのが都営地下鉄だ。これが対象外になってしまう。もちろん一日乗り放題乗車券では都営地下鉄は乗れない。これこそ縦割りの弊害ではないだろうか。東京の人々はその違いを理解できても、地域外、ましていわんや外国人は理解不能で戸惑ってしまうだろう。

東京に必要なのは「複合戦略」
 ついに東京マラソンもニューヨーク、ボストン、ベルリンなどとともに世界の6大メジャーマラソンの一つにまで成長した。ここで大事なのは、世界の大都市で開催されるマラソン大会の意味だ。単にマラソンエリートの大会であるというだけでなく、大都市の集客ビジネスとしての仕掛けだということを忘れてはならない。世界の大都市はこの集客ビジネスで競争している。その競争力を左右するのが「国際性」だ。

 その点で、ニューヨークマラソンは群を抜いている。私もかつて参加したが、海外からの参加者が4割以上を占め、圧倒的に多い。海外からの参加者は単に走ることだけが目的でわざわざニューヨークに来るのではない。魅力的なニューヨークで過ごす楽しみ、観光の楽しみも併せて求めているのだ。
 そして世界的なマラソン大会で、人々が楽しむのはマラソン当日だけではない。その前後にアート・フェスティバルや芸術週間も開催され、街全体に高揚感が漂う。このような芸術文化の厚みを持っているのが国際都市の魅力だ。このようなことを踏まえて、特に海外からの参加者に一日でも長く東京に滞在させる仕掛けづくりが大事なのだ。そのことによってイベントによる経済効果も大きく増してくる。

 今回もオーストラリアからの参加者たちが「マラソン後、別に他のイベントがないので、明日すぐに帰国する予定だ」と話していたのを耳にした。ある意味もったいないことだ。

 東京マラソンも徐々に海外からの参加者も増えて、今や約13%にまでなっている。直前のマラソン関連イベントも増えてきた。しかし更なる飛躍のために必要なのは「複合戦略」だ。マラソンだけでなく、芸術文化イベントも含めた複合的な魅力を活用した集客ビジネスの発想がもっとあってもよい。そのためにはマラソンはマラソン、芸術文化は芸術文化で担当が違うといった縦割り行政も打破すべきだろう。


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