名前って変なものだなあ、と思う。

名前がつく以前はこの世に「ないもの」扱いされるし、名前がついたらついたで、同時にいろんな人の情報とか感情がくっついて本質がわからなくなる。
すごいめんどくさい。
例えば、ガン。
「ガンなんです」というと、「えっこの人死んじゃうの！？」みたいな視線を浴びるし、だからといって本人にとっては別に隠すことでもないと思ってるので相手の反応と自分の発言がチグハグになってしまう。
正直、私はガンではないし専門家でもないけどガンの人はたくさん見てきた。
一番多いのは、やっぱり皮膚ガンですね。
何しろオーストラリアは紫外線が強い＆美黒信仰があるので帽子も被らずにビーチで寝そべってる人が多い。
薬局でタン（日焼けクリーム）も売ってるし、日サロも好調らしい。
なので、皮膚ガンになる人はゴロゴロいるし一般的なので扱いも至ってカジュアルだ。誰も皮膚ガンだ！といって騒がない。
でも「ガンです」と言ったら、何かものすごく大変なことというイメージがあるし、ガン＝死ぬ病気という捉え方をする人もとても多い。
それだけ死のイメージがガンという言葉に定着してるということですね。

もう一つ例を挙げると、「オタク」という言葉がある。
オタクという言葉には差別的な意味合いがある。「向こうのお宅はさ〜」のように、”他所の人”という意味合いで使われてたのが、「趣味に異常に情熱を注いでる理解不能な人」になった説があるけど、これもやはり「一緒にしないでほしい」という気持ちの表れでしょう。「外人」と通づるものがあるなあ。
お前はあっち、俺はこっち、みたいな壁を自ら作る。

このようにネガティブなイメージがついた言葉を使うのは難しい。
言われた側がどういう反応を示すかで、その人のオタクに対するイメージがそのまま表れてしまう。逆に、こっちがどういうつもりでオタクという言葉を使ってるのか？相手にとってもこちらの意図がわからないので、どういう反応が正解なのかわからないだろう。

たとえ使う側に悪意がなくても、「オタク」という言葉を使うことによって立場を明確にせざるをえなくなる。
そして言葉はどんどん一人歩きして、ますます本質からは遠ざかる。
きれいだったり可愛い人やかっこいい人が「自分オタクなんですよー」という時にシーンとするのも、オタクに対するイメージと目の前にいる人間のイメージがかけ離れてるからだ。

オタクというのは「趣味に異常に情熱を注いでる人」なので、容姿は全然関係ないはず。
でも、実際にはオタクという言葉自体に根暗だとかキモいだとかネガティブなイメージがくっついてるので、オタクだという本人と、それを聞く周りの間にすごいギャップができる。


もー、めんどくさい！！

じゃあ名前がない方が楽じゃないの？というと、やっぱり名前がない以上は認識できないっていう、人間の能力的な限界があるのでなかなかそういうわけにもいかない。

でも理想をいうと、名前なんてなければいい。

セクシャリティーも、”男”とか”女”みたいな名前があるから勝手にイメージができあがって大変なことになってるんじゃないかと思う。

男も女もなくなって、一人一人が「個人」として扱われたらすごい楽じゃない？と思うんですけど、どうでしょう。

だって、女／男として生まれたからといって、死ぬまでずっとその性別で満足できる保証だってないし、さらに言うと性的対象が変わる可能性だって十分あるわけで。

そのたびに、呼び名がゲイになったりレズビアンになったりするのって混乱するじゃないですか。本人にとっても他人にとっても。
だからそもそも名前をつけなければ、混乱することもなくなる。

さらにいうと、名前って他人のイメージがくっついた形で受け取るしかないんですよね。
だからその人が例えば「オタク」についてネガティブなイメージを持ってる人から、「あの人はオタクだからさー」と言われたら、聞いた側はその言葉に含まれたネガティブなイメージごと受けとらなきゃいけない。
そういうのって目に見えないけど、確実に私たちの「言葉の持つイメージ」に蓄積されていく。
例え自分本人には偏見とかなくても１０人中、１０人からネガティブなトーンで「ああいう人はオタクだからさー」と聞かされたら、いやでもオタクに対してネガティブなイメージを持つようになるよね、って話です。
特に子供とかの、その言葉に対してなんのイメージも持たないまっさらな状態の子にはテキメンに効く。

だから言葉の取り扱いには注意が必要だし、受け取る側も言葉の本質と
受け取る際のイメージを切り離して考えないと、知らない間にステレオタイプになったりして、ますます本来の意味から遠ざかってしまう。

催眠術とかも、その言葉自体が怪しいじゃないですか。
どんなものだろう？って興味が湧く前に、反射的に「怪しいっ！」ってなって本質なんて全然見れなくなる。
普通に医療目的にも使われてるんだけどね…。

あー、言葉って、イメージって厄介！