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名古屋生活

それにしても今年の夏は暑かった。

但し、名古屋の「暑さ」には、つねに大量の「湿気」が含まれているのである。

この地の湿気はまことに酷く、東京から移ってまもなく、幼時以来の汗疹が出て驚いたほどだ。
なぜ名古屋はかくも蒸し暑いのか、と尋ねても、名古屋人はニコニコと知らぬ気にて、「ベトベトでまったく嫌になる」と嫌味を込めても、笑顔のまま「喫茶店行こまいか」で「レーコー、二杯ちょっ」(冷コーヒー二杯頂戴)と、なるのである。

爾来、名古屋人は鈍なのでは、と疑っているのだ。タモリがいくら「エビフリャー」等叫ぼうが意にも介さず、「偉大なる田舎」をもって任じている連中である。
名古屋駅前もトヨタ方式で地味に抑えて脚光など浴びず(採算見合い、かつ上品ではあれど)、人口は理想的な200万台を保っている。お陰で、都心を車でスイスイと走れる大都会が実現しているのだ(むろん、名古屋人は賢く黙しているが)。

近頃はやりとかいう「名古屋メシ」なるものは論外としても、別格の名物も、焦がし過ぎた蒲焼を切り刻み、せっかくの白飯に濃いたれをまぶした上に並べて、さらにかき混ぜて食べるという「櫃まぶし」、煮立てた味噌鍋の中の半ゆでで芯の残るうどんを、ふうふう言いながら齧る「味噌煮込みうどん」(これは少々美味ではあるが)、甘い田楽味噌を多量にかけただけの「味噌カツ」(学生らに一番人気)等々、いずれも野趣に富み、グルメ気取りなどものかは、「どえりゃあ、うみゃー」となるわけである。(むろん、名古屋人はこれぐらいの悪口は意にも介さぬ、はずである)。

閑話休題、元の閑話にもどれば、なぜ名古屋の夏はかくも蒸し暑いのか。
すでに在名古屋40年となったが、十数年前にやっとそれらしき答えにたどり着いたのだ。
曰く、まず暑さは、名古屋の冬を凍えさせる伊吹颪(おろし)同様、山々を越えてくる西風のフェーン現象のためであり、また湿気は、伊勢湾が概して浅く(平均水深:伊勢湾16.8m、東京湾38.6m、大阪湾27.5m)海水が蒸発しやすいためなのだ、というのである。

単純にして明解、なるほどお説ご尤も、と納得して降参、その後もこの地で耐える事としたわけである。
かく理に叶った説明に納得し、即脱帽した我がざまは、まこと単にして純、かつ合理的にて、いっばしの名古屋人の資格ありか、とも覚えた次第。
よって従前通り、この空にして虚、質にして実なる大都会にて、なお「名古屋生活」続行中なのである。

秀吉辞世「露と落ち露と消えにし我が身かな浪速のことは夢のまた夢」等口中に唱えながら。今しばし、と。

(但し、秀吉は名古屋人に非ず、昭和4年迄名古屋編入叶わずにおかれた中村村の出であるという)

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