シテ:
さる程に二月六日の夜にもなりしかば
明日は最期の合戰だるべし
今宵ばかりの名残ぞと
親にて候経盛我等を集め
今様を謡ひ舞ひ遊びしなり

ワキ:
さては其の夜の御遊なりけり城の内に
さも面白き笛の音の
寄手の陣まで聞こえしは

シテ:
それこそさしも敦盛が
最期まで持ちし笛竹の

ワキ:
音も一節を謡ひ遊び

シテ:
今様

ワキ:
朗詠

シテ:
聲々に

地謡:
拍子を揃へ聲を上げ

シテ:
(キリ)
さる程に御舟を首めて

地謡:
一門皆々我も我もと舟に浮めば乘り後れじと
汀に打寄れば
御座舟も兵船も遥に延び給ふ

シテ:
せん方波に駒を控へ
惘れはてたる有様かな
かかりける所に

地謡:
かかりける所に
後より熊谷の次郎直実
遁さじと追っかけたり
敦盛も馬引っ返して
波の打物抜いて
二打三打は打つとぞ見えしが馬の上にて
引っ組んで波打際に落ち重なって終に
討たれて失せし身の
因果は廻り合ひたり敵はこれぞと討たんとするに
仇をば恩にて
法事の念佛して弔はるれば
終には誰も生るべし
同じ蓮のの蓮生法師
敵にては無かりけり跡弔ひてたび給へ
跡弔ひてたび給へ

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