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シャチと国後島、黒いリュック③

マッコウクジラの背中が見えた。

あの、顔面が四角い生き物。
私にはそういう認識。
背びれがスピノサウルスみたいだった。
潜るとだいたい一時間くらいは浮上してこないらしい。
スタッフの、「潜るときは必ず尾びれが最後です」
の声で、マッコウさんは海の底に消えていった。

彼とはLINEを交換した。
海のど真ん中でも電波は入った。
太陽の光が邪魔して、QRコードがなかなか読み取れなかった。
彼の手が、影を作ってくれた。
思わず手をじっくり見た。
整えられた爪。
触れはしなかった。

旅の途中で上司から連絡が入り、うっかり「知床なもので」と言ってしまった。
「知床!?写真見せてね」と言われたが、私のスマホには大量のシャチの背びれしかなかった。
これでもう安心だと思ったのはちょっぴりで、違う感情が旅の続きを楽しませてくれそうな気がした。

スタッフが、また浮上するタイミングで、マッコウクジラを探してくれた。
いた。
プロだなと思った。
また同じ体勢のマッコウ。
私のポニーテールは、風で崩れていた。
いつのまにか帽子はしまっていた。
「濡れちゃった」と言って、髪を解いた。
「湿気もありますよね」と彼は言った。

マッコウは、また尾びれを高く上げて、深海へと潜っていった。

第四話
シャチと国後島、黒いリュック④|AH (note.com)


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