hotaruコピー案

贈り物本屋『Hotaru』 の、名前が決まるまでの話。

はじめまして。
贈り物本屋『Hotaru』の名付け親で、MOSHPITという会社の代表をしていると申します。

今日は、贈り物本屋『Hotaru』が、Hotaruという名前に決まるまでの思考の道筋を振り返ってみようと思います。

単なる記録ではなく、お店やプロダクトの名前など、何かに名前をつける人の思考の一助になればいいなと思います。


まず、僕がこの企画に参加することになったのは、この企画の主催者である井上拓美くんが、過去の僕のつけてきたプロダクトたちの名前をいたく気に入ってくれ、声をかけてくれたことが始まりでした。

これが最初のmessenger。もう4ヶ月も前です。メッセージに秒で「いいね」と返してる通り、瞬時にめっちゃいいなと感じました。

映画や漫画に比べて自分では本をあまり読まない僕にとって、「誰かからもらった “自分では選ばない本” は、自分にとってかけがえのないものになる」というたくみくんの考えには強く共感し、すぐにやりたいと思いました。

そして、僕は「贈り物専用本屋」の名前をつけることになったのです。

僕がサービスの名前やコピーを考える時には、ざっくりと下記の思考プロセスがあります。

ネーミングを考える時の思考プロセス
、名前を考える前段階での気づき・イメージを整理する
、「誰にとっての、どんな世界を作りたいか」を突き詰めまくる
、一目でわかる「抽象的なイメージ」に落とし込む
、落とし込んだイメージと同じ/近い現象が起きている「他の文化」を探す。
、ユーザーが共感できるものを選ぶ

ざっくりとわけて、上記5つのプロセスを踏んでいます。

なぜ、このプロセスを踏むのか。
それは、良いネーミングやコピーには

・名前とプロダクトの間にちょうどよい「余白」がある

という特徴があると思っているからです。

「余白」とは、ざっくり分解するとこのようになります。

「余白」の内訳
・機能を直接的に言いすぎていないこと、そして離れすぎていないこと
・なんでこの名前なんだろう?と思えること
・ビジョンやストーリーを想像できること
・それを使う時の感情を妄想できること、共感できること

その「余白」を孕んだネーミングやコピーを産むために、5つのプロセスを踏んでいます。

それではこの1〜5までのプロセスををひとつずつ、説明していこうと思います。


0、名前を考える前段階での気づき・イメージを整理する

まず、クライアントと自分、双方の理解を深めるために、「どんなイメージのサービス・プロダクトを作りたいのか」「なぜ作ろうと思ったのか」を聞いてディスカッションをし、そこに対して感じた気づきやイメージをまとめ、整理します。

今回の場合、

・本を見たら、ふと誰かの顔が思い浮かんでしまうことってある。自分が読みたい、ではなく。

・「ギブアンドテイク」ってよく言うけれど、実は「ものをあげる」行為そのものがあげる側にとってもゴール、ということがある。あげる前のワクワク感とか、ドヤ顔感とかで十分満足感に包まれる。そんな、テイクを前提にしない「ギフト」たる贈り物文化を作りたい。「ギブしまくってたらいつか返ってくるよ」じゃない。あげる瞬間そのものが、最高潮でゴール

・「もらう当人が自分では選ばないような本をあげる」という行為は、ある意味、あげる側のエゴだ。もらう側にとっては、自分でない誰かの一部が無理矢理入ってくる感じ。でも、その感覚が心地よくもあるし、新たな発見にもなるんだ。そんな新たな価値観との出会いを創出したい。

「贈り物専用の本屋さんを作りたい」という話をもらって、ディスカッションをして出てきた気づきがこのあたり。

ディスカッションの中では、「たしかにそうだなあ」という気づきやワクワクを自身の中でも醸成して、モチベーションを高めます。

また、この段階で「ぼくが大事にしたい価値観と違うなあ」と感じた場合は、話を断ることもよくあります。人の体温が感じられないものとか、あまりに拝金主義なものとか、悪いことをしているものとか、「世の中をちょっとよくするものではないな」と感じた時などは、ワクワクしないので断ります。

1、「誰にとっての、どんな世界を作りたいか」を突き詰める

次に、作るプロダクトが誰のためのものなのかをを明確化する為に、「誰にとっての、どんな世界を作りたいか」を突き詰めます。そのときに大切にするのは、下記のようなこと。

・主人公は誰なのか。一人レベルで。
・登場人物が複数いる場合、なぜそちら側を引き立たせるのか。
・その人にとって、どんな世界を叶えるのか。何を思って、どういう気持ちになる世界をつくるのか。

今回の場合、

・このサービスで際立たせる主人公は、贈られる側ではなく、あくまで「贈る側」

・なぜ贈る側を立たせるか:「贈る人⇄贈られる人」という二者の世界の中では、「贈られる人」が主人公かもしれないが、まず「贈る人」を作らないと、その二者の世界が生まれることもないから。「人に贈ること」という誰もが経験したことのある楽しみ・喜びを描いて共感を得ることで「贈る人」を増やし、結果的に「贈る」「贈られる」の双方が行き交う世界を作りたい

・本を贈る側のニヤニヤ感、エゴ感、贈られる側よりも実は贈る側のほうが楽しい感じ、たくらむ感じを描きたい。

というものになりました。


2、一目でわかる抽象的なイメージに落とし込む

次に、1で明確化した世界観をより名前に落とし込みやすくするために、一目でわかる抽象的なイメージに落とし込んでいきます。

このときに大切にすることは、

・選定した「主人公」と「描きたい世界」をさらに突き詰めて、描きたい世界の中で「特にどんな瞬間を表現したいか」まで削ぎ落とす。

・誰にでも伝わるシンプルなイメージにする。「〇〇が中心にあって、その周りで人が〇〇している」とか。

例えば、ぼくはCAMPFIREさんの「CAMPFIRE」という名前が大好きなのですが、この名前があることでこの名前には「個人の小さな火をみんなで大きくしていく」という想いがこもります。これによって、海外のKickstarterよりも「みんなでやる」という素敵なストーリーが乗ります。

この場合は「個人の火をみんなで大きくしている図」が描くべきいるシンプルなイメージであり、「個人の小さい火が灯っている図」ではなく「みんながまわりにいる」というイメージになることに意味があります。

今回の『Hotaru』の場合、抽象的なイメージにするとこんな感じ。

「本を贈ること」にこめる意味
1. 「そばにいるよ。」 ーーー 寂しい人とかつらいこと・悲しいことがあった人とか、不安な人とかに、僕はそばにいるよ、君のがんばりを知っているよ。とそっと手を差し伸べる、そんなメッセージ。

2.  気持ちを伝えたい。  ー 応援したいとか、好きだとか、こういう考え方をもってほしいとか、こんな挑戦してみようよとか。そんな自分の気持ちを、本に乗せて伝えたい

3.  喜んでほしい。  ーーー シンプルに喜んでほしい。おめでとう!君の笑顔が見たい。これがきっかけでもっと仲良くなれるといいな。

今回のコピーで伝えたいイメージを、こんな形でシンプルにします。


3、落とし込んだイメージと同じ/近い現象が起きている「他の文化」を探す。

あと少しです。次は、2で落とし込んだイメージと同じ/近い現象が起きている「他の文化」を探します。これをすることで、ユーザーの想像や共感が生まれる「余白」を作れる候補を出すことができます。

この時大切にすることは、

・落とし込んだイメージの中でも、さらにどの瞬間を一番切り取りたいかを考える。
・削ぎ落として残ったイメージ以外のことは全て忘れる。
・似ていることが起きている他の文化を探す

今回の場合、

「人にものを贈る瞬間の感情」にフォーカスする
・「本屋」であることを一旦捨てる
・「2」で出したイメージに近い現象を探す
・アイデアを拡散しまくる
・この時のこういう感情に似てないかな?というものを探して、映画や漫画、音楽などでインプットをしまくる

とということを行いました。


4、ユーザーが共感できるものを選ぶ

そして最後はシンプルで、3までに出した候補の中からユーザーが共感できるものを選びます。

プロダクトを使うのは他の誰でもなくユーザーであり、発案者・主催者よりも大切にすべきなのはユーザーだからです。どんなものであったとしても、ユーザーに愛されてこそサービスは伸びると信じているので、ここは絶対に「クライアントが満足しそうなもの」よりも「ユーザーに愛されるもの」を選びます。
..とは言いましたが、大抵の場合はクライアントさんも第一にユーザーのことを考えているので、結局はユーザーに愛される名前をクライアントさんも一番気に入ってくれます。

このとき大切にすることは、

・ユーザー(それを使う人、Web上で見かける人、そして主催者)の立場に立つ
・一目見ただけで想像ができるものを選ぶ
・ユーザー(や主催者)が、思わずその由来を語りたくなってしまう名前を選ぶ
・最後は、一番「これだ!!!」となるものを選ぶ(というか、圧倒的に良いやつは明らかに光っています)

です。

そして今回、第3-第4プロセスの思考を踏まえて、提案と出したのがこちらの候補たち。

結果的に選ばれたのは、最初の「Hotaru」です。

第4プロセスで「圧倒的に良いやつは明らかに光っている」と述べた通り、「Hotaru」というワードが思いついた瞬間に「これにしよう」と思いました。

なぜなら「本を贈る」行為は、「蛍をつかまえた時」の心理動向とすごく似ているからです。

本を見た瞬間に誰かのことを思い出して、見せたくなって、手にとって、ワクワクしながら隠して運んで、贈った瞬間の相手の表情を想像してはニヤニヤして、いざ贈った時にはお互い笑顔になって、幸福感に包まれる
これって、夏、田舎の河川敷で、仄かに光る蛍を見つけてつかまえた時の気持ちと同じなんです。

この言葉は、第3プロセスの3つ目、「喜んでほしい」を突き詰めて考えている時に、「パッ、と人に見せる瞬間ってこうだなあ」と手振り付きで考えていたのがきっかけで、「これに近い動きをするのはなんだろう」とぼんやりシャワーを浴びながら考えていたら思いついたものになります。

他にも良い案はでましたが、大切にしたかった文脈・想いをすべてこの「ホタル」という言葉が包んでくれたので、この本屋の名前は「Hotaru」となりました。

ここからさらに、タグラインのブラッシュアップをして、最終的に決定したのがこちら。

コピーと、タグラインと、名前。
3つセットで見てもらえたら、きっと誰もが思い出してしまうワクワクする感情。

おどろく、きみの顔が見たくて。
贈り物本屋
Hotaru

ぼくを含めてみんなで悩んで作ったこのコピー、ぼくもみんなもとても気に入っています。

「本を贈る行為ってさ、ホタルを見つけた瞬間に似てるんだよ。捕まえて手で隠してワクワクしてる時とか、見せた瞬間のドヤ感とか。〜〜」と、由来を知っている人たちがニヤニヤしながら語りたくなってしまう名前って、めっちゃいいですよね。

みなさんにもそんな「Hotaru」に共感して、大切な誰かに素敵な本を贈り、相手よりもワクワクドキドキニヤニヤして、相手と一緒に幸福感に包まれてほしいです。

さて、贈り物本屋「Hotaru」の言葉まわりはこちらで決定ですが、ロゴ・デザイン・お店のデザインはここから少しずつ出来ていきます。

今後も更新をお楽しみに。

後藤薫
(名前やコピーをつける言葉まわりのお仕事もぜひお待ちしています!!!笑)


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