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『Hotaru』では、本を贈る時の「ニヤニヤ」をデザインしたい

「贈り物専用」の本屋を作ろう。

そう決めたものの、僕はこれまで一度も「本の贈り物」をしたことがなかったので、どんなお店を作れば、人がつい誰かに本を贈りたくなるのかが想像できなかった。

だから、まずは自分が「本の贈り物」をしてみることにした。


僕がはじめて「本の贈り物」をしたのは、僕に「本の贈り物」をしてくれたイラストレーターの友達。その子は出会ってまだ1年程。普段は関西に住んでいる人なので、会っても3〜4ヶ月に1回ぐらい。出会って間もないけれど、日常を切り取る視点や価値観が近いからか、すぐに仲良くなった。

僕はこのイラストレーターの友達のことを考えながら本屋に向かった。向かった本屋は、「Shibuya Publishing & Booksellers(SPBS)」という、僕が東京に出てきたばかりの時に居候させてもらっていた先輩に初めて連れて行ってもらった、ちょっと思い出のあるお店だ。

SPBSは本と編集を軸にした企業で、様々な事業を行なっている。渋谷の松濤(しょうとう)という地域にあり、小さな通りに面していて、入り口はガラス張りで中が丸見え。中に入ると手前には本屋があり、奥ではガラス張りでできた壁を境にして、SPBSのスタッフさんたちが丸見えな状態で仕事をしている。

僕は、そのイラストレーターの子の顔を思い浮かべながら、本屋に入って本棚を眺めていた。全然決まらず、1時間ほどじっくりと本屋の隅々まで探して、ある一冊の本に決めた。

その一冊というのは、早川義夫さんの『たましいの場所』という本。

実はこの本は、僕が最後までしっかり読んだことのない本だった。しかし、本好きの友達がこの本のことをブログに書いていた。そのブログでは、本の中のとある一文を切り出して本の説明をしていたのだ。


「恋をしていいのだ。叫んでいいのだ。歌を作っていいのだ。恥をかいていいのだ。答えはなくてもいい。答えを出すために生きているのだ。」


僕は、この言葉だけがとにかく印象に残っていた。


イラストレーターの友達は当時、自分の作品をどういう風に届けるか悩んでいるように見えた。だからその子のことを考えながら本屋の中をまわり、『たましいの場所』を見つけた時、これだ! と思った。

その本の中の、あの一節を、その子に贈りたいと思った。そう思った瞬間に、僕は「ニヤニヤ」が止まらなかった。

勘違いかもしれないが、これ以上にないぐらい、その子にぴったりだと思えるような本を見つけた気がしたのだ。


本を持ってレジの方に向かった。「プレゼント用にできますか?」と自慢気に言う自分に完全に酔っていた。レジにいる店員さんが包装をしている時間も、ずっとニヤニヤが止まらなかった。「絶対に喜んでくれる」という根拠のない確信で、僕の頭の中はいっぱいになっていた。

この後、イラストレーターの友達に『たましいの場所』を贈ったら、すごく喜んでもらえた。その顔を見て、贈ってよかったと本当に安心した。


このように、実際に「本の贈り物」してみて、気が付いたことがある。

「本の贈り物」は贈った時の相手の笑顔を見た時ももちろん幸せだが、それ以上に、相手のことを思って選んだ本を持ち、レジに並んでいる時間や購入してから相手に贈るまでの「ニヤニヤ」している時間が、一番たまらない時間なのではないか、と。

この「ニヤニヤ」を魅力的に編集できれば、「本の贈り物」をついしたくなる人が増えるのではないか。

そう思い、贈り物本屋『Hotaru』では、人が贈り物をするときの「ニヤニヤ」をデザインしていくことに決めた。

どうやってニヤニヤをデザインしていくのかは、また今度。

次回のnoteでは、『Hotaru』の名前の由来について、今回のコンセプトメイキングやコピーライティングをしてくれている薫ちゃんに書いてもらおうと思います。

井上拓美

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