イヤホン端子の新規格、A2DC

まえがき

イヤホン、私個人としては探求の終点に辿り着いた(+final社の方針が自分の好みから外れた)、という認識なのでここんところ全く追ってなかったのですが、2年ほど前から少し嬉しい流れがあったことを今の今知ったので共有します。
内容を最も雑に書くと、
2015年にイヤホンのリケーブル用の端子として新たに「A2DC」端子が生まれ、その利点から現在の主流である「MMCX」端子を塗り替えられるかもしれない流れが来てるかもしれない
といったものです。
自分用の整理メモですが、パッと見た感じイヤホン初心者に分かりやすい記事も少なそうなので、そもそものMMCXの経緯からできるだけ分かりやすいように解説します。
なので、イヤホンが好きな方にはちょっと変じゃないかそれ?とか、常識だろ、といったことも多々あるかと思われますが、ご容赦ください(致命的な間違いがありましたらご指摘ください。修正いたします。)

そもそもリケーブルとは

イヤホン、壊れた事ありますよね?
きっと皆さんこれまでに何本も買ったことあると思います。
まぁ1000円とかのイヤホンなら消耗品みたいなところもありますし、壊れたら壊れたで新しいイヤホンに変える機会、と捉えるのも悪くはないですが、この世にはお値段が5桁…どころかなんと6桁のイヤホンが存在するんですよね…。
そんなものが簡単に壊れられたら泣いても泣ききれないですよね。

ところで、壊れたときの原因、ご存知ですか?
もちろん様々ありますが、イヤホンの場合は水没とかのような露骨な事故でもないのに壊れた場合はだいたいが「ケーブルの断線」が原因です。
ということは、イヤホンの命であるドライバー(=音を実際に出すところ)は壊れていないことが多いのです!
高級なイヤホンの値段の一番のウエイトを占めるのがドライバーなのに、そこ以外が壊れて使えなくなるのはなんだか勿体無い気がしますよね。

そこを解決するのが「リケーブル」という手段です。
イヤホン本体とケーブルを一体化せず、端子を使って分離可能にし、もしイヤホンが壊れたらその原因であるケーブルを交換することで、業者などに修理を依頼することなく再び使えるようになる、といったものです。
数万もするイヤホンに比べればケーブルは基本的には安価なため出費を抑えることもできますし、お気に入りのイヤホンの寿命を延ばせる利点もあります。

さて、ケーブルには様々な種類があります。素材の違いは当然として、見た目・太さ・構造・メーカーなど細かい違いを挙げればきりがありません。
ということは、ドライバーへ伝わる信号も僅かながら変化します。信号が変わるということは音が変わります。
そのため、オーディオにどっぷり浸かった人は同じイヤホンでもケーブルを変えることで音の変化を楽しむ、という楽しみ方をする人もいます。
※これによる音の変化はイヤホンの差に比べれば微々たるものです。リケーブルも安くはないので初心者には非推奨です。私もやっていません。しかしながらこの記事に深く関わる内容なので書きました。

MMCXとその欠点

リケーブルを行いたいユーザーにとっては選択肢は多ければ多いほうがいいに決まっています。
ということは本体とケーブルを繋ぐ端子は規格が統一されているほうが嬉しいはずですし、メーカーも統一されている方が作りやすいでしょう。
実際として、端子は統一こそされていないものの最も主流のものがあります。それが「MMCX」と呼ばれる規格です。

こちらは同軸ケーブルの端子の中では非常に小型であることが特徴で、サイズを抑えたいイヤホンとの相性が良く、高級イヤホン最大手と言えるSHURE社が採用したことで一気に広まり、リケーブル端子のスタンダードとなりました。
ピンが1つで円形であることから接続部が回転しやすく、本体の位置によらずケーブルが最適な位置になるのも地味ながら利点と言えます。

しかしながら、この端子には無視できない欠点がいくつかあることが次第に分かってきました。

①中心接点が非常に壊れやすい
そもそもなんですが、このMMCX端子はイヤホンとの相性が良かったから採用されただけであって、イヤホンのために開発されたものじゃないんですよね。
こちらは元々は無線機器用のコネクタで、機械内部に使われるもので、頻繁な付け外しどころか回転などの刺激を受けることも想定されていないのです。壊れたときにある程度技術のある者が自分で修理を容易に行うための端子、といったイメージです。
そのため、端子の最も重要な中心接点に機械的強度がほとんどなく、抜き差しする際に下手に扱うとこの中心接点が壊れてしまうという欠点があります。
致命的なことに、壊れる中心接点がケーブル側(オス)ではなくイヤホン側(メス)であるのが問題で、そもそものリケーブルの目的のドライバーが無事なのにケーブルのせいで駄目になる、というのが、ドライバーが無事なのに端子のせいで駄目になる、に変化するという本末転倒な事態を招きかねないという…。
対策としては単純で、抜き差しする際は細心の注意を払い、特に斜めからさし込まずまっすぐ丁寧にさし込むことが大切です。
また、そもそも頻繁な抜き差しを想定していないため、イヤホンが壊れたとき以外はそっとしておきましょう。

②MMCX同士なのに上手く繋がらないことがある
前述のことから分かる通り、この端子はものすごく繊細でして、MMCXの規格の範囲を満たしているにも関わらず、その差が大きいと上手く接合してくれず、簡単に抜けてしまったり、逆にきつくハマりすぎてしまって抜けなくなったりします。
もちろん頻繁にあることではありませんが、事前に確認することは簡単ではないので困りものです。

③端子が接しない場所がある
MMCX端子は構造の都合で僅かながら接しない場所が存在します。これによってノイズや音切れが起こります。
これは本当に僅かなものなので、基本的には起こったとしても人間が気付くことはありません。
が、この特性と①②で述べた欠点が最悪で、ちょっと壊れたり結合が悪かったりするとこの接しない場所が増えてしまい、ノイズや音切れが知覚できる程になってしまうことがあります。
回すことで音が良くなったり悪くなったりしたらまずこの現象が起こっています。

MMCXが悪いというか、イヤホンに最適化されていないMMCXをそのままデファクトスタンダードにしてしまったのが全ての元凶と言えますね。
現時点でも「2pin」と呼ばれる端子がMMCXの他に存在しており、こちらには上記の欠点が存在しないのですが、MMCXよりは大型であり、カスタムIEM(※1)を除いてあまり普及していないのが現状です。
耳に入れ込むほど筐体が小さい物が多い上、筐体の形すら音に影響を与えてしまうイヤホンにおいて、端子が大きいというのは筐体設計に致命的な足枷になってしまうんですよね……。
それであるならば、欠点があるとはいえ、抜き差しを行わなければそんな問題が起きないんだからMMCXのが良いじゃん…となってしまうのがこれまでの流れでした。
※1 カスタムIEM…耳型を取り、その人の耳に合わせた形で筐体を成形することで、高い遮音性と正確な音場を実現したイヤホンのこと。聴覚保護を目的にライブなどでの出演者がよく使用しているが、一般にも普及しつつある。価格は5万〜20万ほど。耳型に合わせることから筐体は耳の凹部を覆い尽くすほどの大型になるため、2pin端子の欠点が問題になりにくい。「イヤモニ」とも呼ばれる。

新たな風、A2DC

MMCXの問題に関しては理解の程度の差はあれど、「MMCXは壊れやすい(ので、丁寧に扱わなければならない)」というのはリケーブルをある程度行ったことある人の中では半ば常識となっています。
でも今持っているイヤホンのほとんどはMMCXだし、リケーブル楽しみたいなら気をつけてMMCXを使うしかないなあとなりますね。
そして当然メーカーも欠点を認知していないわけがなく、とはいえ生半可なところが新規格を生み出してもユーザーが付かないから結局MMCXの流れに迎合してしまうという悪循環……。

さて、MMCXが流行りだした当時からこの流れを嫌っていた会社がありました。オーディオ業界日本最大手の「audio-technica」社です。
この会社はある程度力もありますし、MMCXに代わる端子を開発してきました。
しかしながら、やはり端子が大きかったりして自社外に普及するほどのものは出せていませんでした。

しかし、2015年に生み出した「A2DC」端子はこれまでの端子の中でも特に優れており、ついに2019年頃からaudio-technica社以外のサードパーティからもこの端子のリケーブルが発売され始めたので、今後A2DCのイヤホンが発売されるともしかしたらMMCXの牙城を崩すことができるかもしれません。

このA2DC端子、見た目はMMCXに結構似ています。知らない人では区別できないかもしれません。それなのになにが優れているのでしょうか?
というわけで、この端子の利点をMMCXと比較しながら説明しましょう。

①特にイヤホン側の端子が壊れにくい
MMCXの欠点①で説明しましたが、MMCXはより大事なイヤホン側の端子が壊れやすいという致命的欠陥があります。
このA2DCではそもそもMMCXより壊れにくく補強されているのみならず、最も壊れやすい部分がイヤホン側からケーブル側に移動しています
よって仮に抜き差しの際に壊してしまったとしても、ダメージの少ないケーブルの損害のみで抑えられるようになり、イヤホンの寿命を更に延ばすことに成功しました。
地味な変更ながら一番大事なところだと思います。

②確実に中心接点が接する
A2DC端子は片方の外側の部分にスリットが入っており、柔軟性も使って挟み込む仕組みになっています。
これにより、規格内で微妙なズレがあっても中心接点が接する上で問題になりにくく、抜き差ししにくいなども起こりにくくなりMMCXの②③の欠点を解決しました。

③比較的小型
そもそもMMCXが流行ったのはその小型さにあります。いかに優れた端子であろうとも大型な時点で普及に問題が起こるのはこれまでの歴史が証明しています。
今回のA2DCはMMCXと同等…とまではいかなかったものの、「MMCXより一回り大きい」程度にサイズを抑えることに成功しました。
直径で見て1mm程度も違わないと思います。

④回転しにくいが、回転が可能
これまでにも触れてきましたが、端子の回転は劣化・ノイズなどの原因となってしまうが、本体の位置によらずケーブルが最適な位置に回転してくれるなど利点も存在します。
そのため、A2DCは回転自体は可能なものの、MMCXより回転抵抗を高め回転しにくい構造にすることで、利点を残したまま欠点を抑えました。

⑤他の独自規格に比べてメーカー側が分かりやすい(自信なし)
A2DCは大雑把に言うとMMCXの親的存在である「MCX」端子を小型し、最も壊れやすい部分をオスメス逆にした規格となります。
よって、MCX、ひいてはMMCXのノウハウをある程度流用できるため、サードパーティにも理解しやすいのかな…と思います(どうなんだろう)

総じてMMCXの良い点はそのままに、悪い点のみ解消した純粋な進化系ともいえるものになっています。
audio-technica社としても、こちらを広く使われる規格にしていきたいという思いもあるようなので、主流になるのを期待したいですね。

あとがき

わたし自身リケーブルでイヤホンを駄目にした経験があるので、より安定した端子が普及していくかも、というのは素直に嬉しいです。(というかMMCXが嫌いになった)
今使ってるイヤホンもめちゃくちゃ高いくせにリケーブル出来ないやつです(もしなんかあったらメーカーに修理を頼みます)
まだまだ普及はしていませんが、今後イヤホンに興味のある方はぜひ「MMCX」や「A2DC」という単語にも目を向けてみると面白いかもしれませんね!

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