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雑誌の大学特集「早稲田VS慶應」は、大学業界に何をもたらすのかを考える

大学ラインキングや、本当に◯◯な大学、潰れない大学などなど。ビジネス誌の見出しを眺めていると、時折、大学をテーマにした特集が組まれているのを見かけます。こういった特集のなかで、ひときわ異彩を放ちつつも、定期的に見かけるテーマに「早稲田VS慶應」があります。

ビジネス誌で大学をテーマにした特集を組んだ場合、誰が買うのでしょう。まず思い浮かぶのは、受験生の親です。実際、ほとんどの大学をテーマにした特集は、どこに進学するべきか、を何かしらの切り口や指標で示す特集になります。でも、そうであるなら「早稲田VS慶應」って、少し異質じゃないでしょうか。

早稲田や慶應をめざす受験生は、もちろんたくさんいます。だけど、他のよくある大学系の特集は、大学業界すべてを対象にしており、いわゆる受験生の親すべてをターゲットにしています。そう考えると早慶のみというのは、パイが小さすぎる。少なくとも早慶上智にした方が、より多くの人が興味を持つんじゃないの?という気がしないでもありません。でも、違うんですね、たぶん。

恐らくですが、大学をテーマにした雑誌の特集と、「早稲田VS慶應」の特集では読者層がまったく違います。「早稲田VS慶應」の主要な読者は、受験生の親ではなく、卒業生です。慶應には負けたくない早稲田の卒業生、早稲田には負けたくない慶應の卒業生。両大学をめざす受験生の親が一定部数買うとしても、この愛校心があふれる卒業生が買いに買いまくるから、このテーマは雑誌として成り立つし、周期的に組まれるのだと思います(しかも複数のビジネス誌で!)。

MARCH、日東駒専、関関同立など、大学を序列でくくる言葉は数あれど、これらのどれか一つのくくりだけで雑誌がつくられることは、ほぼありません。東大・京大というくくりも、どの高校が一番合格者を輩出しているかという視点では取り上げられるけど、徹底比較というのは見かけません。やっぱり早慶というくくりは異質です。

近年、どの大学も卒業生とのつながりを重視するようになってきました。早慶は見ようによっては、この動きのなかで、何歩も先を行っている“先生”です。でも、それとともに、この強いつながりは、ときに学閥と呼ばれ、外と中をわける閉鎖的なコミュニティをつくりだします。「早稲田VS慶應」という視点は、このコミュニティの自尊心や対抗心を、心地よく、また嫌らしく煽る企画なのでしょう。

これから先、大学と卒業生とのつながりを強めようという各大学の動きの結果として、大学の学閥化が進んでいくとしたら、何かそれは大学の“在るべき姿”とは違うように、私は思うのです。

今は、ほとんどの大学が道半ばで、大学と卒業生とのつながりが緊密になったその先についてまで、深く考えられるところまでいっていません。ましては、これを大学単体としてではなく、大学業界としてどうあるべきかを考えている人は皆無に近いのではないでしょうか。

今のところ、私もスッキリとした答えは持ち合わせていません。でも、これからの大学を考えるうえで、卒業生との関係性づくりは間違いなく重要なテーマであり、どの大学もさらに力を入れていくでしょう。大学と関わる身として、またこのテーマをサポートする仕事をすでにしている身として、このつながりの先について考えを巡らさなきゃいけないなと思っています。

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