見出し画像

きらびやかな時代の出会いに感謝 『Back In The High Life』 STEVE WINWOOD

スティーヴ・ウィンウッドはそれがヴォーカルであれオルガンであれギターであれ、この世の誰と共演することになっても気後れする必要のない存在だろうと思いますが、“Higher Love”で初めてスティーヴ・ウィンウッドの曲を聴いた中学生の私は、高らかな声で歌う彼が10代半ばから活躍している天才だなんてことはもちろん知りませんでした。「なんと洒落た、大人の音楽なのか!」とただただ衝撃を受けたのを覚えています。

本作がリリースされたのは1986年。当時は4枚目のソロ・アルバムという認識しかなく、ライナーノーツにはしっかりとトラフィックやスペンサー・デイヴィス・グループについても書いてあるのに素通りしていました。愚かな自分を恥じますが、1986年から87年にかけてはとんでもないアルバムが連発されましたから、そんな中では本作をしっかり聴くので精一杯でした。

グラミー賞も獲った ⑴ Higher Love は、このアルバム、この時のスティーヴ・ウィンウッド、そしてこの時代を象徴する1曲なんじゃないかと思います。数えきれないセッション・レコーディングで知られるジョン・ロビンソン(恥ずかしながら彼について知ったのはおじさんになってからです)が「自分がプレイした中で最高のドラムイントロのひとつ」とする音(Wikiより)が響き渡った瞬間からその場の空気が変わる、まさにアルバムの始まりに相応しい名曲です。コーラスがチャカ・カーン(彼女とジョン・ロビンソンが元ルーファスなんですね)なのも80年代的華やかさを感じます。

⑵ Take It As It Comes はドラムにミッキー・カリー。ライナーノーツには「ホール&オーツ・バンドの」と紹介されていて、ブライアン・アダムスでお馴染みになるのはもう少し先のことのようです。スティーヴ・ウィンウッドによるエンディングのギター・ソロも聴きどころ。この人、ほんとにすごい。

⑶ Freedom Overspill もシングル・カットされていて、オルガンによるソロは最高にカッコよく、聴こえてくるスライド・ギターはジョー・ウォルシュ、ドラムはスクリッティ・ポリッティ『Cupid & Psyche 85』のスティーヴ・フェローンです。

そして早くも4曲目に“Back In The High Life Again”の登場!この曲のすべてを表現してしまうかのような冒頭のマンドリンもスティーヴ・ウィンウッドによるもの。『Arc Of A Diver』を700万枚以上売っている人生がLowだとは思えませんが、この時38歳のはずの彼はどんな心境で「Highな人生に戻るんだ」と歌ったのでしょう?私生活において困難な時期でもあったようですが、もし前作にあたる『Talking Back To The Night』を失敗と捉えていたのだとすれば、それは自分に厳しすぎるというもの。とにかく美しいこの曲は、ハーモニーにジェイムズ・テイラー。完璧すぎる!そりゃ今日まで飽きずに聴き続けるはずですわ。

続くのがこれも大ヒットした ⑸ The Finer Things で、このシンセ・ソロが長らく私にとってのスティーヴ・ウィンウッドのイメージでした。これも、この時代を代表する1曲なんじゃないかと思います。コーラスにはジェイムズ・イングラム。

⑹ Wake Me Up On Judgement Day で聴こえてくるカッティングはナイル・ロジャース。ファンキーな風味が加えられたこの曲は長く聴いているうちに好きになりましたし、大きなビートとそこに織り込まれる変化が絶妙に気持ちいい ⑺ Split Decision では、再びジョー・ウォルシュのギターが響き渡ります。

そして、しっとりしたリズムとシンセに極上のヴォーカルが乗っかっていく ⑻ My Love’s Leavin’ でアルバムは終わっていきます。シンセ・ストリングス・アレンジは前述の『Cupid & Psyche 85』のプロデューサー、アリフ・マーディン。どこまでも贅沢なアルバムですが、この曲で控えめに響くスティーヴ・ウィンウッドのギターがこれまた美しい。本作の中でも再生回数の多くなっているこの曲はベスト盤に入っていない名曲です。

2nd『Arc Of Diver』や3rd『Talking Back To The Night』をほぼ一人で作っていたことを考えれば、本作は驚くほど豪華なゲストを迎えてレコーディングされていて、このこともタイトルの『Back In The High Life』が意味するところのひとつだったかもしれません。

この後、私はリアルタイムでソロ・アルバムをフォローしながら少しずつ過去作品を追っていきました。そんな中でも“Gimme Some Lovin’” を歌ってるのが10代半ばのスティーヴ・ウィンウッドと知ったときには腰を抜かすほど驚きました。最初からあの完成度だった彼はどこまですごい人なんでしょう。

もちろん、トラフィックで聴ける幅広い音楽性には感動しますし、本作以降のソロ・アルバムでも『Nine Lives』(2008年)での演奏にはうっとりします。そして、自身のキャリアを総括するような『Greatest Hits Live』にはもうため息しか出ません。

キャリア全体を通してみると、本作がスティーヴ・ウィンウッドらしい音楽なのかどうかは分かりませんが、きらびやかな80年代だったからこその仕上がりだろうと思います。私にとっては出会ったタイミングがよかったですし、多彩で多才なスティーヴ・ウィンウッドの入り口となってくれたこのアルバムには感謝しかありません。

そんなスティーヴ・ウィンウッドですが、『Revolutions: The Very Best Of Steve Winwood』では2010年リマスターとして聴くことができます。特にデラックス版は全キャリアからの58曲を聴ける、まさしくデラックスなベストです。トラフィック時代も厚めに網羅されていますし、やもするとスルーされがちな(?)『Refugees of the Heart』収録の “In The Light Of Day” や『When The Eagle Flies』収録の “Walking In The Wind” までもが聴けるのでおすすめです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?