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[2023.11.22]趣味と道楽

先週まで録り溜めていた分の「葬送のフリーレン」をすべて観終わってしまった。少し大きな山を越えて、彼らの旅はまた続くみたい。大陸魔法協会だって?

物語のはじめのころ、フリーレンの愛弟子フェルンが、師匠フリーレンによくこう尋ねていた。

「フリーレン様はどうしてそんなに魔法を集めるのですか」

それに対するフリーレンの回答は、
「本当にただの趣味だよ」
である。
彼女は大陸に点在する民間魔法をせっせと集めていて、それを得るためには肉体労働も辞さない。
しかしというか、それにしてもというか、フリーレンの集めている魔法は「服が透けて見える魔法」「かき氷ができる魔法」といったたぐい。原作を読んでいないのでもっとくだらなさそうな魔法収集ぶりが描かれているんだろうけれど。

わたしが大学で政治思想史にのめり込んでいたとき、「どうして政治思想史なんですか?」とよく訊かれたが、そのたびにわたしは「かっこいいからだよ」と答えていた。半分以上説明するのが面倒くさかったこともある。
大学で同じ政治思想史の夜間スクーリングに通っていた友人が、授業後に田町駅までの帰り道にふと漏らしたのがこの言葉で、わたしはなんとなく気に入っていた。
気に入ってはいたが、しかし、ほんとうはしっくりとは来ていなかったのかもしれない。
TVで、そのフリーレンの「本当にただの趣味だよ」という台詞を聴いたときに、彼女のことはもちろん物語のことも何も解っていないくせに「そうだよな」と肯いていた。

しばらく前に大学に入り直して(それは通信制大学だったが)、ちょうど一年半ほど経ったころ、知人から頼まれて、いまでいうところの「中高年からのリカレント教育」について人前で語ったことがある。慣れないことはするもんじゃないと改めて思い知った登壇だった。
先日たまたま必要があって、そのときのプレゼン資料を引っ張りだしてきたが、資料のタイトルには「勉強道楽」とデカく書かれてあった。

いまでも悪くないタイトルではあるが、日陰干しをしてみると、やはりしっくりこない。
そん時の気分というか生活スタイルが濃縮されてはいるが、いったん卒業して、また別の学部へと入り直してみると、〈道楽〉というよりは〈趣味〉なんだろうなとぼんやりと思う。
〈趣味〉のほうが〈道楽〉よりは少し隙間がある感じがする。今日だって、もうレポートの〆切りだというのに何も手をつけていないし。

もっとも、劇中でフリーレンの台詞として「ただの道楽だよ」というのは、さすがに彼女にはまったく似つかわしくない(ゆえに「趣味」という言葉を採用しているんだろう)。重労働も厭わないその姿勢は、どちらかというと〈道楽〉という言葉の方が相応しい。

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