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連載 扇谷孝太郎 「身体と動きの新法則 筋共鳴ストレッチ」

身体と動きの新法則 筋共鳴ストレッチ

第1回 「柔軟性を探求する」
文●扇谷孝太郎

柔軟性を探求する意味

みなさま、はじめまして。扇谷孝太郎と申します。ロルフィング®︎というボディワークのプラクティショナーです(ロルファー™と呼ばれます)。クラニオセイクラル(頭蓋仙骨療法)やソマティック・エクスペリエンシング®︎というトラウマケアのプラクティショナーでもあります。

わたしはワークショップの講師や日々の施術を通して、ヨギやダンサーのように身体の柔軟性を必要とする方々のコンディショニングをお手伝いすることがよくあります。

そうした経験を活かして、この連載では柔軟性という切り口から、あなたの身体の眠っている可能性を引き出すためのノウハウをお伝えしていきたいと思います。

専門的にヨガやバレエをしていなくても、できれば身体をやわらかくしたいという人は多いでしょう。「開脚前屈で床にぺたーっと上半身をつけてみたい!」というご相談は珍しくありません。

その衝動はどこからやってくるのでしょうか?

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わたしは自分自身の体験から、それは今よりもっと自然で自由な自分の在り方を取り戻したいという気持ちの表れだと思っています。それは生き物としての本能から湧き出てくるものです。

身体は一番身近な「自然」です。都市化がすすみ、自然環境から切り離された人間が、そこに残された「自然」=身体とのつながりを回復したいと感じるのではないでしょうか。

この連載では柔軟性を探求し、自分の身体とそこに備わった五感をつかって、人間の身体の設計図を読み解いていきたいと思います。それは解剖学だけでなく、生物の進化や、日本文化の中の身体、身体とココロといった領域にもつながっていきます。

インターネットや書籍でも、「こうすれば柔らかくなりますよ」というハウツーについての情報はたくさんみつかります。

しかし、そうしたハウツーは探求のほんの入り口です。なぜそのハウツーが効果的なのか、また、もしもうまくできなかったとしたら、それはなぜなのかということまで理解してはじめて身体とのつながりを回復していけるのだと思います。

人体の設計図にそって身体を動かしながら、実感として身体の仕組みを学んでいくと、その先には思いがけない発見が待っていることでしょう。

そしてまた、柔軟性を高めていくことには様々な恩恵があります。肩こりや腰痛の改善にはじまり、スポーツをする人ならパフォーマンスの向上や故障の予防につながりますし、ダンサーなどの身体表現をする人たちにとっては表現力アップに直結します。

もちろん、恩恵は身体のフィジカルな面にとどまりません。身体を固くしている緊張はしばしばトラウマや日々のストレスから生じています。不要な緊張を解放するとともに、きちんんと使われていなかった筋肉が目覚めることで、本来の自分の感覚、在り方に気づくことができるでしょう。

身体の法則を知る

探求の出発点は、「地球の重力との調和を目指す」というロルフィング®︎のコンセプトにありますが、それだけでなく、クラニオセイクラルワーク、ソマティック・エクスペリエンシング®︎に加えて、ヨガやバレエの動きの探求の中で明らかになった情報を織り交ぜながら、ご紹介したいと思います。

とくに、柔軟性を高めるための、身体の仕組みと効率的な動作を開拓するための法則についてお伝えする予定です。いわば、柔軟性向上のための法則です。

効率よく安全に身体を動かしたいとき、そこには守るべき法則があります。この法則から外れた動きを繰り返すことで、関節は固くなり、ときには故障へとつながります。

たとえば、柔軟性を高めたくてストレッチをしている人は多いと思いますが、やみくもに筋肉を伸ばそうとしてもなかなかうまくいきませんね?

けれども、ちょっと視点を変えて、アゴの動きを意識して変えてみたらぐっとスムーズに筋肉が伸びるということがあります。さらに指先の動きを変えてみたら、もっと柔らかくなるかもしれません。

また、空間や重力に対する感覚を働かせて呼吸をするだけでも、筋肉の働き方が変わり、柔軟性が向上します。

そうした工夫を重ねていくと、そこには身体の仕組みに基づく、動きの法則があることが見えてきます。

この身体の仕組み、動きの法則を理解した上でストレッチやトレーニングを行えば、もっとスムーズに、楽しく柔軟性は向上します。

なお、ここでなぜ「法則」ということばを使っているかというと、柔軟性のための特別なエクササイズやトレーニングメニューをご紹介するのではないからです。

そうではなく、皆さんが日ごろから取り組んでいるエクササイズを法則に沿って意識を変えて行えば、柔軟性トレーニングへと変えることも可能なのです。また、法則を理解した上でストレッチを行えば、より早く効果を引き出すことができるでしょう。

柔軟性向上のための法則の概要

この連載でご紹介したい柔軟性向上のための法則は以下の5つです。

(法則1) チャクラムーブメントシステム
(法則2) プリムーブメント
(法則3) 柔軟性カップリングモーション
(法則4) 筋共鳴システム
(法則5) 呼吸モード

それぞれの法則はお互いに関係しあっています。身体は有機的なつながりをもった全体として機能しています。どれか一つがうまくできていて、ほかは全部駄目というようなことはありえません。なかなか柔軟性が向上しないとき、どの法則がうまくできていないのかを見直すことで、ほかの法則もそれまで以上にうまく働きだすのを感じられるでしょう。

まずは、それぞれの概略をご紹介しておきます。

【1】 チャクラムーブメントシステム
ヨガの世界では、身体に流れるエネルギー(プラナ)の出入り口のことをチャクラと呼びます。サンスクリット語で円、車輪などを意味する言葉です。チャクラは全身に存在しますが、中でも頭頂から尾骨までの正中線上にならんでいる7つのチャクラが主要なチャクラとして有名です。

チャクラというと霊的なもの、目に見えないものと思われていますが、身体運動とのかかわりという視点で見てみると、柔軟性を引き出す上でとても実用的なアイディアだということがわかります。

チャクラの位置を脊柱のS字カーブを対応させて考えると、ストレッチやエクササイズの中で脊柱をどのようにコントロールすればよいのかが理解できます。

このチャクラと動きのつながりをこの連載では、「チャクラムーブメントシステム」と呼ぶことにします。

【2】 プリムーブメント
プリムーブメントは前駆動作とも呼ばれます。身体が動き出す直前に生じる重力に対して姿勢を保持するための筋肉の反応のことです。動き出す前というのは、基本的に関節の角度が変化する前ということですので、見た目にはわかりにくい動作です。

予備動作と混同されることがありますが、別物です。生じるタイミングが違います。予備動作は、反動や筋肉の弾性を利用するために動作の直前に逆方向の動作をすることです。たとえば、上方にジャンプしたいとき、跳ぶ直前にしゃがむ動作をしますね。これは関節の角度が大きく変化しているので、予備動作です。

この例で言えば、プリムーブメントは、しゃがむという予備動作に先行して生じています。姿勢が崩れないように体幹が緊張して脊柱がわずかに伸びることや、それに伴って生じる四肢の筋肉の緊張のことを指します。

ロルフィング®︎というと、筋膜の調整によって姿勢を整える技術として紹介されることが多いのですが、現在のロルフィング®︎では、重力と調和した動作パターンを回復することが非常に重要視されています。その潮流の中で、プリムーブメントが注目されるようになりました。

プリムーブメントは重力や空間の広がりに対して触覚や視覚などの五感を働かせることで、引き出すことができます。それによって、動作が安定して筋肉の無駄な緊張が抑制されるので柔軟性が向上します。

この連載では、感覚の使い方とともに、プリムーブメントが引き出されているとき、どのような筋肉が働いているのかという問題についてお話ししたいと思います。五感による感覚的な理解と、解剖学的な理解を重ね合わせることで、より効果的にプリムーブメントを活用できるようになります。

【3】 筋共鳴システム
筋共鳴という言葉はこの連載に合わせてつくった造語です。これは離れた位置にある決まったペアまたはグループの筋肉が同期して緊張したりリラックスしたりする現象のことです。2つの音叉の片方を鳴らすと、もう片方も共鳴して鳴り出す様子に似ているので、筋共鳴と呼んでいます。

ロルフィング®︎においては経験的に、横隔膜や骨盤底など、身体を水平方向で区切るような筋肉は、その緊張状態が共鳴し合うということが知られてきました。

この現象を全身にわたって調べたところ、多くの筋肉が相互に共鳴しあっていることがわかりました。たとえば、指を動かす筋肉や手首を動かす筋肉は、それぞれ体幹の筋肉群と共鳴しています。顔の表情をつくる筋肉やアゴを動かす筋肉も体幹の筋肉と共鳴していて、内臓の働きとも密接な関係があります。

筋共鳴のシステムは姿勢のコントロールに大きな影響を与えています。この共鳴のペアを意識することで、ストレッチなどの柔軟性のためのトレーニングをより効果的に行えるようになります。

【4】 呼吸モード
同じエクササイズでも、動作中の呼吸の仕方によって効果が変わってきます。呼吸という運動はそれにつかう体幹の筋肉の組み合わせ方によって、さまざまなバリエーションがあるからです。

この呼吸運動によって変化する体幹のポジションを、ここでは努力吸気モード、努力呼気モードなどに分けて柔軟性への影響を検討します。自動車のシフトチェンジのように、意識的にこれらのモードを切り替えることにより、同じエクササイズやストレッチでも、働きかける筋肉を変えることが可能になります。

たとえば、筋トレで鍛えること多い、身体の表面にある大きな筋肉群に働きかけるときは努力吸気モードが、柔軟性トレーニングで鍛える深部の小さな筋肉群への働きかけには、努力呼気モードが適しています。

また、現代人の多くは、車での移動やデスクワークなど、座って作業をする時間が長いため呼吸が浅くなりがちです。浅い呼吸に合わせて、姿勢のバランスも悪化しています。

そのため、いざ運動を始めようというときに、この呼吸モードのシフトチェンジがスムーズにできません。呼吸モードへの理解を深めることは、柔軟性だけでなく、毎日の生活習慣を見直すことにもつながるでしょう。

【5】 柔軟性カップリングモーション
運動中は、どの関節も隣接する関節と連携しあって動いています。たとえば、腕を上げるという動作は、肩関節だけではなく、隣接する肩甲胸郭関節や肩鎖関節、胸鎖関節、肘の関節、手首の関節との連携がとれていないと、スムーズに行なえません。

したがって、この連携の仕方が関節の柔軟性や安定性に大きな影響を与えます。

この連携には法則性があり、「柔軟性」が向上する連携の仕方と低下する連携の仕方があります。また関節の「安定性」という面から見ると、関節が不安定になる連携の仕方と、逆に安定する連携の仕方があります。

肩や股間節の故障の多くは、関節が不安定になる組み合わせで動かし続けることで生じます。これらの関節同士の連携を適切に行なうことによって、より安全に効率よく柔軟性と安定性を高めることができます。

この柔軟性/安定性が向上する連携の仕方を、ここでは「柔軟性カップリングモーション」と呼ぶことにします。

なお、前述の筋共鳴の影響により、肩関節と股間節、肘関節と膝関節などのように、上半身の関節と下半身の関節で、柔軟性や安定性は同期します。

このことを考慮することで、より効果的にストレッチやコンディショニングエクササイズのプログラムを組み立てることができるでしょう。

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(第1回 了)

※(筋共鳴)は現在、商標登録出願中です。

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–Profile–

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●扇谷孝太郎(Kotaro Ogiya)

大学院在学中に演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と身体表現についての探求を始める。2001年、ロルファー™の資格を取得し公務員からボディワーカーに転身。現在は恵比寿にてロルフィング®を中心に、クラニオセイクラルやソマティック・エクスペリエンス®などの個人セッションを行う。 ヨガやバレエスタジオでの定例セミナーでは、身体のメカニズムのほか、呼吸や感覚、イメージの活用を独自の視点でまとめた「動くための解剖学」を教える。その内容はダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを必要とする人々から高い支持を得ている。また「からだと息で読む朗読」講座では、朗読という表現手法をとおして「共鳴を生む身体の育て方」を探求中。

●米国The Rolf Institute認定アドバンストロルファー
●米国The Rolf Institute認定ロルフムーブメントプラクティショナー
●クラニオセイクラルプラクティショナー
●ソマティック・エクスペリエンシング®︎認定プラクティショナー
●JMET認定EFTプラクティショナー

公式Web Site (https://www.rolfing-jp.com


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