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カラダのコツの見つけ方 対談/甲野善紀&小関勲 第六回 「大人」との出会い

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「バランス」に着目し、独自の指導を行っているバランストレーナー・小関勲氏と、古伝の日本の武術を探求しつつ独自の技法を展開している武術研究者・甲野善紀氏。お二人の元には、多くのオリンピック選手やプロスポーツ選手、武道関係者に音楽家までもが、時に“駆け込み寺”として教えを請いに訪ねて来られます。

 そんなお二人にこの連載では、一般的に考えられている身体に関する”常識”を覆す身体運用法や、そうした技の学び方について、お二人に語っていただきました。

 十数年に渡って親交を深めてきた二人の身体研究者が考える、身体のコツの見つけ方とは?

 第六回は、数学を専門とする独立研究者、野球の<投げる><打つ>が出来ない小学生、反抗的な高校生が出会った「大人」のお話。「勉強や練習は何のためにやるの?」と聞かれたら、あなたは何と答えますか?

カラダのコツの見つけ方

第六回  「大人」との出会い

甲野善紀、小関勲

構成●平尾 文(フリーランスライター)


こんな「大人」もいるのか

コ2編集部(以下コ2) これまでのお話では、優れた先生は、教えるときに懇切丁寧に一から十まで説明しているのではなく、教わる人自身の「もっと学びたい」「試したい」という意欲を引き出し、コツが掴めるようにうまく導く人だという話でしたね。

 結局、学ぶ上では、そういう先生との出会いが大切なのでしょうね。

甲野 この春、新潮社の雑誌『考える人』の「数学の言葉」という特集で取り上げられた、数学を専門とする独立研究者の森田真生氏とは、彼が中学2年生のときに出会ったのですが、その時の私との出会いについて、私がこの森田氏と二人で立ち上げたイベント「この日の学校」を2009年9月に、最初に開講した博多と福山で使用した教科書の中でこう語ってくれました。

(この教科書に載った文章は、その後私が連載を依頼されていたWebマガジン『しゅうかんRe:S』の2010年2月号の中で、この森田氏の書いた教科書の文章を多く引用して、森田氏を紹介していますので、読んでみてください。)

「尊敬すべきおとなの存在こそ、こどもにとっては最大の希望なのである。

 しかし、現代を生きるこどもたちにとって、尊敬すべき大人と出会うことは至難の技なのかもしれない。私にとって甲野先生はまさにそのような存在であった」

 私が講習会などで技を実演しているときに、「これでいいのだろうか」「もっと有効な方法はないか」とその場で自問自答している姿が、中学2年生の森田少年にとって、衝撃的な出来事だったそうです。

 「学校の先生のように、<これが正しいからだの使い方だからみんなもこの通り実践しろ>などとはおっしゃらなかった」と。

 つまり、私が次々といろんな技ができることに凄さを覚えたというより、「分からない」「出来ない」ということに真正面に向き合っていた姿に、彼は「こういう大人もいるのか」と感銘を受けたそうです。

 私自身は謙遜でもなく、本当にまだまだだと思っているのですが、この言葉には少なからず驚きましたし、嬉しかったですね。

小関 僕が甲野先生とお会いした時は20代後半だったんですけど、先生のような「大人」の方に出会って、「これでいいんだ」「こっちの方向に進んでもいいんだ」とすごく勇気づけられました。だから、出会いって、とても大事だなと思います。その時に“何を”指導してくれたかではなく、そういう存在と出会うことが大事ですよね。

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