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低Na血症へのアプローチ

一番よく見るのに一番よくわからない電解質異常である低Na血症についてです。細かい病態生理は省略しています。低Na血症が難しいと感じるのは、①体液量がわからない、②緊急治療の際の3%生食の投与が難しい(計算とか)、③SIADがよくわからないなどが主な理由だと思います。
参考文献:JAMA Review 2022(PMID: 35852524)、AJEM Review 2022(PMID: 35870366)より

<低Na血症の診断>

・まず高血糖による高張性低Na血症および高タンパク血症、高脂質血症による等張性低Na血症(偽性低Na血症)を除外する
・上記を除外したらいわゆる低Na血症の診断(低張性低Na血症)
・次に病歴、診察、検査などにより、hypovolemic、euvolemic、hypervolemicに分類する(これが難しい・・・)
・尿中Na濃度、尿浸透圧または尿比重を測定することにより、さらに各細胞外液区分を区別できる
※利尿薬は尿中Naを増加させ、尿中Naの解釈を困難にする

3つの低Naのイメージ(自作スライド)

<低Na血症の原因>

<低Na血症の症状と分類>

・低Na血症の症状は、軽度の非特異的なもの(脱力感、悪心、頭痛)から致死的なもの(嘔吐、傾眠、発作、心停止)まである
・症状は、低張性による脳の膨張に順応する関係で慢性低Na血症(48時間を超えて発症)よりも急性低Na血症(48時間未満で発症)で出現しやすい
・低Na血症の症状は、低Na血症の発症の早さ、期間、重症度によって異なる

○発症期間での分類
急性(48時間未満で発症)、慢性(48時間以上で発症)
○Na値での重症度分類
軽度(130~134mEq/L)、中等度(125~129mEq/L)、高度(<125mEq/L)
○症状での重症度分類(最も重要)
無症候・軽症(以下の症状以外の軽度の症状)
中等症(悪心、錯乱、頭痛)
重症(嘔吐、傾眠、昏睡、発作、呼吸循環不全、心停止)

<低Na血症の治療>

・低Na血症の治療は、低張度によるリスクと治療によるリスクのバランスを取ることが重要
症状の有無(症状の重症度)が治療の強度を決定する
発症の経過が不明の場合は慢性低Na血症として対応する

○緊急治療
低Na血症の期間に関わらず、重症・中等度の症状を来す患者には緊急治療が必要である
・現在のガイドラインでは、1~2時間以内に血清Naを4~6mEq/L上昇させることを推奨
・具体的な方法
3%生食を100mLを10分以上かけてボーラス投与(中心静脈 or 末梢静脈)、望ましいNa値(⊿Na 4~6mEq/Lの上昇)に達するまで3回まで反復可(米国ガイドライン)
 3%生食を150mLを20分以上かけてボーラス投与(中心静脈 or 末梢静脈)、望ましいNa値(⊿Na 4~6mEq/Lの上昇)に達するまで2回まで反復可(欧州ガイドライン)

3%生食を反復投与する場合は4時間毎に血清Naを確認する
・ただし、血清Na濃度は最初の24時間以内に≧10mEq/L、最初の48時間以内に≧18mEq/L上昇させてはいけない
ODS(浸透圧脱髄症候群)のリスクが高い患者では、24時間以内に≧8mEq/L上昇させるべきではない
※ODSの危険因子には、極度の低Na血症(<110mEq/L)、アルコール使用障害、肝臓疾患または移植患者、K枯渇患者、栄養失調、重症患者、妊娠がある

3%生食の作り方

○Adrouge-Madiusの式(このReviewの著者!)
輸液1Lを投与した際の⊿Na値を予測する計算式
⊿[Na] = 輸液中[Na] + 輸液中[K]  - 血清[Na] / 総体液量 + 1
※総体液量=体重 × 係数(小児:0.6、成人男性:0.55、成人女性:0.5)
・この式を使用して必要な輸液量の参考にしてもよい
・ただし、この式には尿中Na喪失が含まれていないので注意

○Naの過剰補正について
・慢性低Na血症を急激に補正すると、ODS(浸透圧性脱髄症候群)を来す可能性がある
・Na過剰補正の定義は、24時間で⊿Na≧8~10mEq/L上昇すること
・過剰補正のリスクは、開始時のNa低値、血清K低値、低BMI、慢性アルコール使用障害、担癌、低Naによる重度の症状
・治療開始後の尿量が多い場合は過剰補正のリスクが高い
・過剰補正が生じた場合はは速やかに24時間で⊿Na 8~10mEq/L以下になるように治療を行う必要がある(急性水中毒の場合は例外)
・デスモプレシンおよび5%ブドウ糖の投与により、血清Na濃度を推奨限度以下に戻すことができる
・具体的には、
5%ブドウ糖 2~3mL/kg/hで投与
加えてデスモプレシン 2~4μg 6~8時間毎も併用できる
・低Na血症の治療中にカリウムも補給すると血清Naも上昇し、過度な補正につながることには留意すべきである

○非緊急治療
・無症候・軽症では、基本的には原因疾患に応じた治療を行う
・「Naを付加する」もしくは「自由水を減らす」ことが血清Naを上昇させることにつながる

治療のイメージ(自作スライド)

○低Na血症治療のまとめ
上記の説明とは若干違うところもありますが、まとまっているので添付します

低Na血症の治療まとめ

<SIADについて(SIADHとも)>

・SIADは、臨床的にeuvolemic低Na血症、不適切な尿濃縮(尿浸透圧 > 100mOsm/kgおよび尿比重 > 1.003)、高尿中Na濃度(>30mEq/L)、甲状腺・副腎・腎機能障害がないことで定義される
・SIADの主な原因は、悪性腫瘍、薬剤、中枢神経障害、肺疾患(Box参照)
・SIADの治療法には、原因の除去、体液制限、溶質摂取量の増加(塩化ナトリウム、タンパク質、尿素)、バプタンがある
等張生食(0.9%生食)は血清Naを悪化させるため、適応とならない
・尿中のNaとKの値の合計を血清Naで割ると、水分制限の程度を推測できる
比率が1未満であれば、軽度の水分制限(< 1.5L/日)が必要
 比率が1以上であれば、重度の水分制限(< 1.0L/日)が必要

最後にSIADの原因ごとのSIADリスクと持続期間の表です。

Am J Med 低Na血症ガイドライン 2013

<コメント>
・改めて勉強してみましたが結局低Na血症は難しいなぁと感じます
・個人的に印象深かったのは、K補充でもNaが上昇する、フロセミドは低Naを来しにくい(むしろ治療に使用する)、SIADに普通の生食を投与すると悪化するあたりです
・3%生食は緩徐持続ではなく、ボーラス投与が推奨されてますが、実際は重篤な症状がある場合には3%生食ボーラス投与➔緩徐持続というのが現実的でしょうか

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