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胃食道静脈瘤破裂の対応

Child Cの繰り返す食道静脈瘤破裂の患者が搬送となったので一般的な対応について調べてみました。
AASLDガイドライン2016(PMID: 27786365)、BSGガイドライン2015(PMID: 25887380)、WJGPT Review(PMID: 30697445)より

【ポイント】
・まずは蘇生輸液、輸血だが制限輸血の方が予後はよい(Hb 7~8をターゲット)
・必要に応じて気管挿管して、12時間以内に上部消化管内視鏡
・内視鏡前に循環作動薬(バゾプレッシンなど)、抗菌薬(セフトリアキソン)の投与を考慮
・基本的にはEVLで止血、困難であればSBチューブ、ステント、TIPSなどを駆使して出血コントロールを行う
・二次予防としてEVLとNSBBを併用する

<肝硬変・門脈圧亢進症の分類について>

・肝硬変は、肝硬変の合併症(腹水、静脈瘤出血、肝性脳症)の有無によって代償性と非代償性に分類される
・代償性肝硬変は、mild PH(HVPG<10mmHg)とCSPH(臨床的に重要な門脈圧亢進症 HVPG≧10mmHg)に分類される
・CSPHは、胃食道静脈瘤のある患者とない患者に分類される
・画像検査で門脈体循環側副血行路がある場合はCSPHと診断してよい
・内視鏡で胃食道静脈瘤がある患者では、CSPHが存在する

<食道静脈瘤出血の管理>

★総論
・この段階の患者は非代償性肝硬変とみなされるが、単独の非代償イベントとして発症するか、他の非代償イベントと併存して発症するかで5年死亡率が大きく変わる
静脈瘤出血単独の場合は5年死亡率20%静脈瘤出血+他の非代償イベント(腹水または脳症)の場合は5年死亡率80%
・この状況では、肝細胞癌や門脈血栓症を画像検査で除外することが重要(門脈圧亢進症を増悪させ、静脈瘤出血につながる可能性がある、治療方針が変わる可能性がある)
・初回の静脈瘤出血での平均6週間での死亡率は最大20%
・最近の研究ではChild-PughスコアよりMELDスコアの方が優れており、>19点では6週間後の死亡率が20%になることが示されている
・HVPG≧20mmHg(入院後24時間以内に測定)は、早期再出血と死亡の強力な予測因子であり、リスクの層別化に有用
・Child-Pugh Cでは80%以上がHVPG≧20mmHgであることが示されている
・MELDスコアとも相関している


胃食道静脈瘤出血時のアルゴリズム

★蘇生輸液と輸血
・16~18Gで2つの静脈アクセスを確保する
・静脈アクセスが不十分、進行した肝疾患、腎疾患がある場合はCVC挿入も役立つが感染には注意する
過剰輸血は予後を悪化させることが示されている
・最近の単一施設のRCTでは、Hb 7~8g/dLに維持する輸血制限(vs Hb 9~11g/dL)により、45日後の死亡率に影響を与えずに静脈瘤出血の制御が改善(11% vs 22% p=0.05)、HVPGも低下した
・特にChild A~Bの患者で効果が高かった
・他にも安定したHb≧8g/dLの患者に輸血をしないことを支持するエビデンスもある
・SvO2 > 70%を目標に蘇生輸液を行うことも有用

・AASLDガイドラインでは、PC、FFPの投与は推奨していない
・NICEガイドラインでは、大出血がある場合、Plt < 5万/μLであればPCの投与INR > 1.5またはフィブリノーゲン < 100mg/dLであればFFPの投与を推奨している
・予防的なPC、FFP投与が再出血を予防したというエビデンスはない
・トラネキサム酸、第Ⅶa因子製剤の投与の効果は示されていない

★血管作動薬
○バゾプレッシン、ニトログリセリン
・バゾプレッシンは門脈血流、門脈全身側副血流、静脈瘤圧を低下させる
・ただし、末梢血管抵抗の増加、心拍出量・心拍数・冠血流の低下などの全身に重大な副作用がある
・生存率の改善は示されていないが、出血の制御を改善させることが示されている
・ニトログリセリンを併用することで、門脈圧に対するバゾプレッシンの効果を高め、心血管の副作用を軽減させることができる
・併用により生存率の改善は示されていないが、出血の制御を改善させることが示されている

使用方法
・バゾプレッシン 0.2~0.4U/min(最大0.8U/min)
・ニトログリセリン 40μg/minで開始し、SBP 90mmHg程度を維持(最大は400μg/min)

○テルリプレシン ※日本では採用なし
・バゾプレッシンの合成類似体
・コクランメタアナリシスでは、出血の制御を改善(RR 0.66)、生存率も改善(RR 0.66)

使用方法
・最初の48時間:出血が制御されるまで 2mg q4h
・維持投与:再出血を防ぐために1mg q4h
※ q6hに減量も可(手足の痛みを伴う末梢血管収縮を伴うことがあるため)

○ソマトスタチン、オクトレオチド
・ソマトスタチンは選択的な内蔵血管収縮を引き起こし、門脈圧と門脈血流を低下させる
・オクトレオチドはソマトスタチンの類似体
・メタアナリシスでは、急性静脈瘤出血に対してテルリプレシンと比較して、2剤は同等の効果を示した

使用方法
・オクトレオチド 50μgボーラス(最初の1時間で出血が続く場合は反復可)➔25~50μg/hで持続投与  2-5日間
※日本でも使用可能だが保険適応外(サンドスタチン:皮下注製剤のみ)
・ソマトスタチン 250mgボーラス(最初の1時間で出血が続く場合は反復可)➔250mg/hで持続投与  2-5日間
※日本では採用なし

★抗菌薬
・GNRをカバーする抗菌薬の投与は静脈瘤出血患者の生存率を改善させる(RR 0.79)
・抗菌薬の投与により、細菌感染(RR 0.43)、早期再出血(RR 0.53)が軽減することも示されている
・感染症が確認されているかどうかに関わらず、静脈瘤出血のある肝硬変患者では、短期間(〜7日間)の抗菌薬投与が標準治療となる
セフトリアキソン 1g q24hなどの第3世代セフェムが効果的とされている(個々の患者特性や施設での耐性パターンなども考慮する)
内視鏡の施行前に抗菌薬投与を開始する
・止血が施行され、血管作動薬が中止された場合は終了を早期の検討する

★内視鏡治療
入院後12時間以内に施行することが推奨される(12時間以内の利点は証明されていないが)
・静脈瘤出血の診断は、静脈瘤からの活動性の出血が確認された場合または「white nipple」など最近の出血を示唆する所見が認められた場合に確定される
・最適なタイミングは、十分な蘇生と薬物治療を行い、熟練した内視鏡検査チームが適切な設備の整った環境で気道保護を行った後に施行する
気道保護は、誤嚥リスクの高い患者では不可欠

○EVL
・急性静脈瘤出血において、EVLと硬化療法を比較したメタアナリシスでは、EVLが再出血を減少させ(OR 0.47)、死亡率を減少させ(OR 0.67)、食道狭窄が少なくなった(OR 0.10)
・静脈瘤に対する処置の回数もEVLの方が少ない
・静脈瘤が根絶されるまで1~4週間ごとに行う
・静脈瘤根絶後の内視鏡は3~6ヶ月後、その後は6~12ヶ月毎
・NSBBと併用することが1st lineの治療

○硬化療法(EIS)
・急性出血では行わない

○循環作動薬と内視鏡治療
・メタアナリシスによると併用療法は生存率に差はなかったが、出血の制御や止血の維持に優れており、合併症が少なかった

その他の治療
○バルーンタンポナーデ(SBチューブ)
・静脈瘤出血の最大20%は上記の標準治療に抵抗性であり、高い死亡率と関連する
・TIPSなどのより確実な治療が実行可能になるまで出血を制御するためにブリッジ治療が必要となる
依然としてブリッジ治療としてバルーンタンポナーデは効果的であり、最大80%の急性出血を制御できるが、バルーンが収縮すると約50%で再出血する
・最大15~20%で食道潰瘍や誤嚥性肺炎などの重篤な合併症を伴い、死亡率は20%に達する
・それにも関わらず、他の治療で制御できない大出血から救命できる治療になる可能性がある
・食道バルーンを使用することはめったになく、適切に膨らませた胃バルーンを適切に配置させたのにも関わらず出血が持続する場合に食道バルーンを膨らませる
・内視鏡下、ガイドワイヤー下にチューブを配置すると、合併症、特に食道破裂のリスクを軽減できる
バルーンタンポナーデは24時間を超えないように管理する

○取り外し可能な食道ステント
・内視鏡的に金属メッシュステントを留置する方法
・小規模RCTでは、バルーンタンポナーデと比較すると止血効果は優れており、合併症も少なかった
最大7日間留置することが可能
・胃静脈瘤には効果はない

○TIPS(経頸静脈的肝内門脈大循環シャント術)
・急性静脈瘤出血に対してTIPSの有用性が報告されている
止血失敗、再出血のリスクが高い場合(Child C or 活動性出血を伴うChild B)で、TIPSの禁忌がなければ、内視鏡後72時間以内の早期TIPSが有効な可能性がある
出血が制御できない場合もTIPSの適応となる
・TIPSを施行した後は血管作動薬を中止できる
・TIPSが効果的に施行された場合は、EVLとNSBBは不要

<静脈瘤出血の二次予防>

○NSBB(非心臓選択性βブロッカー)
・プロプラノロールまたはナドロールを投与なしと比較したメタアナリシスでは、再出血の有意な減少を示したが、死亡率の低下は認めなかった
・カルベジロールは代替薬として使用できる
・早期TIPSが施行されていない場合、静脈血管作動薬を2~5日間投与し、中止となったらNSBBを開始する

使用方法
プロプラノロール 20~40mg 1日2回(腹水なし:最大320mg、腹水あり:最大160mg/日)
 HR 55~60bpmまで増量 SBP≧90を維持 2~3日ごとに増量
代替薬として、
ナドロール 40mg 1日1回(腹水なし:最大160mg、腹水なし:最大80mg)
カルベジロール 6.25mg 1日1回 許容される場合は1週間後に12.5mgに増量※SBP、腎機能障害、低血圧の時点で中止することが提案されている

○内視鏡治療+NSBB
・併用することで再出血、生存率が改善する可能性がある

○TIPS
・メタアナリシスによると再出血は減少(OR 0.32)するが肝性脳症は増加(OR 2.21)する
・生存率に差は認められなかった

<胃静脈瘤からの出血>

・基本的には食道静脈瘤出血と同様の対応
・GOV1から出血している場合は、EVL(技術的に可能なら)またはCA法(シアノアクリレート接着注射)のいずれかが推奨される
・GOV2またはIGV1からの出血にはTIPSが最適な治療法

<おまけ:肝硬変における静脈瘤出血の一次予防>

※静脈瘤出血の既往がない肝硬変患者の対応についてです

○NSBB(非心臓選択性βブロッカー)
・≧5mmの静脈瘤がある場合に適応
※代償性肝硬変、軽度の門脈圧亢進症、静脈瘤がない患者ではNSBBはほとんど効果がない

○EVL
・NSBBが禁忌、不耐の場合、患者の希望がある場合はEVLを施行する
※一次予防ではNSBBとEVLの併用療法は不要

★静脈瘤のサーベイランスは誰が受けるべきか?
・肝硬変患者は診断時に内視鏡検査を受けることを推奨
・LS < 20kPaかつPlt>15万では、高リスクの静脈瘤を発症する可能性が非常に低く(<5%)、EGDを回避できる

★肝硬変患者はどれくらの頻度で内視鏡検査を受けるべきか?
・最初の内視鏡検査で静脈瘤が認められない場合、2〜3年に1回内視鏡を受けることを推奨
・グレードⅠの静脈瘤の診断を受けている場合は、1~2年に1回内視鏡を受けることを推奨
・疾患の明らかな進行が見られる場合には、臨床医が間隔を変更できる

★肝硬変のどの患者が一次予防を受けるべきか?
・グレードⅠの静脈瘤とred signsを認める場合、もしくはグレードⅡ〜Ⅲの静脈瘤を認める場合に、肝疾患の重症度に関わらず患者に一次予防を行うことを推奨する

★推奨されない治療は?
・消化性潰瘍がない場合は、PPIは推奨されない
・一硝酸イソソルビドの投与は推奨されない
・一次予防として、シャント手術やTIPSは推奨されない
・一次予防として、EISは推奨されない

<コメント>
・セフトリアキソンなどの抗菌薬投与が感染だけでなく、死亡率、早期再出血を減らすのは面白かったです
・循環作動薬(バゾプレッシンやテルリプレシン)は使って当然のような記載ですが、日本ではどれくらい使用されているのでしょうか

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