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PRES(可逆性後頭葉白質脳症)

腎不全末期患者が高血圧に伴うPRESで痙攣重積状態となり搬送されました。PRESは特定の病名というよりは結果的に生じる症候群であり、その誘引を突き止めることが重要です。また当時に支持療法を行います。
参考文献:N Engl J Med. 2023;388:2171-2178.(PMID: 37285527)、up to dateより

【Take Home Message】
・急性の高血圧や関連する疾患・薬物などによって発症する
・症状は、頭痛、様々な程度の意識障害(脳症)、発作、視覚障害が典型的だが他の神経症状を来すこともある
・PRESの診断には頭部画像検査(特にMRI)が有用
・後頭葉、頭頂葉白質の血管性浮腫が典型的な所見(他にもバリエーションあり)
・治療は、支持療法(特に血圧管理と発作に対する治療)と誘引の特定・除去(可能なら)
・適切な管理ができれば予後は良好


<総論>

頭痛、脳症、発作、視覚障害を主症状として様々な組み合わせで発症する急性・亜急性発症の症候群
・典型的な発症様式としては以下の2パターン
①急性の重度高血圧もしくは重度ではないがベースラインから急上昇して発症するパターン
②特定の疾患や化学療法や免疫抑制剤などの特定の薬剤/毒物に暴露することで発症するパターン

<疫学>

・PRESの一般人口での発症率は推測が困難だが、特定の人口での報告はある
・末期腎不全では0.8%、SLEでは0.7%、固形癌移植患者では0.5%、子癇または子癇前症の患者では20-98%の割合であったと報告されている
・同様に選択された小児患者では0.04%の発症率と推定されている
・ケースシリーズでは、PRESはどの年代にも起きうるが、若年から中年成人で発症率が最も高く、男性よりも女性で発症しやすい
・635人を対象とした研究によると、平均年齢は57歳で、72%が女性、68%が白人だった

<臨床的特徴>

・PRESの最大94%で見られる典型的な特徴は、軽度の混乱から昏睡まで幅のある脳症
・最大半数で、びまん性で鈍い頭痛が徐々に出現するが、ときに突然発症の「雷鳴頭痛」として認めることもある
・約3/4の患者で、経過の中で部分発作もしくは全般性発作を認める
・発作がPRESの最初の症状として出現することもあり、最大18%で重積状態に移行する
視覚障害は、20-39%の患者で見られ、漠然とした視力低下、視野欠損、視覚無視、幻覚、失明などの訴えが見られる
・頻度の少ない症状としては、部分麻痺、協調運動障害、反射亢進、脊髄症状がある

<画像検査>

・神経画像検査は、PRESの診断の中心的な役割を果たす
後方循環領域の両側性脳浮腫が特徴的であり、これは単純CTでも認められる
FLAIRとT2強調画像で血管浮腫に対する感度が高いため、使用可能であればMRIが望ましい
・MRIの異常信号としては、両側の白質が最も多く、典型的には後頭葉に見られる
・しかし、片側性の場合や灰白質に見られるなど非典型例も多数報告されている
・様々なケースシリーズでは次のように報告されている
・部位としては、頭頂葉ー後頭葉(65-99%)、前頭葉(54-88%)、側頭葉(68%)、視床(30%)、小脳(34-53%)、脳幹(18-27%)、基底核(12-34%)
・後頭葉と頭頂葉に同時に出現するパターン(22%)、両側の分水嶺領域に出現するパターン(23%)、上前頭回に出現するパターン(27%)、これらの複合パターン(28%)もある
・ケースシリーズでは、発症の数週から数カ月後にはMRIで66-70%の症例で改善を認めた
・極端な症例では、高度の脳浮腫により占拠性病変やテント切痕ヘルニアを認めることもある
・出血を伴うことやMRIで拡散障害(通常は部分的や片側性)を認めること、浮腫の部位に造影効果を伴うこともある
・血管造影やMRA、CTAでは血管拡張を伴うびまん性もしくは局所性の血管収縮の所見(strings of beads)を認めることがある
・この所見は、PRESの原因となる多くの病態で見られることがあり、PRESとは関係なく出現している可能性もある

<鑑別疾患>

・脳梗塞(特に後方循環系脳梗塞、分水嶺梗塞)
・中枢神経感染症
・脱髄性疾患
・脳腫瘍
・静脈洞血栓症
・CNS血管炎
・毒素性脳症
・ミトコンドリア障害

・いくつかの脳血管障害症候群がPRESとオーバーラップすることがある(特に不規則に局所的な脳血管攣縮を来す可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS))
・病歴聴取(特に薬剤・毒物使用歴)、頭部画像検査、血液・尿検査、髄液検査を行うことは鑑別に役立つ

<PRESのマネジメント>

支持療法PRESの誘引を速やかにコントロールすることが重要
・PRESの最大70%の患者がICUに入室する(特に重度高血圧を伴う、意識レベルの低下を伴う、発作を着たした患者で)
・PRESの支持療法の軸としては、血圧管理、発作の管理、脳浮腫の管理、脳症の管理となる
・PRESの中には、発症時から昏睡、頭蓋内圧亢進、びまん性脳浮腫、脳ヘルニアを来すような「malignant state」と呼ばれる一群がある
・脳浮腫の管理を含めた支持療法を行えば、これらの患者においても良好な予後が期待できる

●血圧管理
・高血圧緊急症の状態の患者は、循環器ガイドラインによるとICUでの持続的な血圧管理が望ましい
・PRESにおける目標血圧は確立していないが、以下のようなコンセンサスがある
1時間以内にSBPが25%以上低下しないように降圧療法を開始し、24-48時間をかけて慎重に正常血圧に降圧する
・適切な降圧薬は不明だが、速効性のある静注薬で、速やかに投与量を調整でき、臨床的効果が明らかとなっているものが好ましい(ニカルジピン、ラベタロールなど)
潜在的な高血圧の原因/合併症(大動脈解離、褐色細胞腫、子癇、冠動脈疾患、腎障害)に対するマネジメントも重要

●発作に対する治療
・PRESでは発作はよくある症状であるが、特徴的なものはない
・一般的な発作に対する治療と同様の対応を行う
・発作を初めて認めた場合は、脳波を施行する
・第一選択薬としてベンゾジアゼピン系薬を投与し、その後、長時間作用の抗けいれん薬を投与する
・84人の発作を伴うPRES患者を対象とした研究では、3ヶ月間の発作の治療後、3年間のフォローアップで3%の患者で発作の再発が起き、1%の患者でてんかんに移行した

●高血圧以外の誘引の治療
・高血圧のないPRESでは、PRESに関連する疾患や誘引物質を特定する必要がある
・PRESの誘引物質があれば中止もしくは変更を行う(化学療法など)
・代表的な疾患としては、リウマチ性疾患、自己免疫疾患がある
・代表的な誘因物質としては、抗がん剤や臓器移植後の免疫抑制薬がある
・原因薬剤の量を変更したり、類似薬に変更することでPRESの再発を防ぐことができたという報告もされている

<PRESに関連する疾患>

●全身性疾患:急性・慢性腎不全、原発性アルドステロン症、敗血症/敗血症性ショック、褐色細胞腫
●妊娠関連疾患:子癇前症、子癇、HELLP症候群
●自己免疫疾患:SLE、強皮症、シェーグレン症候群、血管炎、クリオグロブリン血症、炎症性腸疾患、橋本病、原発性硬化性胆管炎、抗リン脂質抗体症候群
●血液疾患:鎌状赤血球症、TTP/HUS、AML/ALL、悪性リンパ腫
●代謝性疾患:急性間欠性ポルフィリン症、原発性副甲状腺機能亢進症
●神経疾患:NMOSD、頸動脈解離、SSPE、もやもや病、頭蓋咽頭腫
●医療関連:固形臓器移植、造血幹細胞移植、骨髄移植、輸血、IVIG、ECMO、脊髄手術、頸動脈手術、心臓手術

<PRESに関連する薬剤/毒物>

●化学療法:ベバシズマブ、TKI、ボルテゾミブ、シタラビン、ゲムシタビン、L-アスパラギナーゼ、メトトレキサート、ビンクリスチン、シスプラチン
●免疫調整薬:タクロリムス、シロリムス、シクロスポリン、リツキシマブ、インターロイキン、TNFα阻害薬、インターフェロンα
●その他の薬剤:エリスロポエチン、GCS-F、ボリコナゾール、ART
●中毒/暴露:アルコール中毒、薬物過量投与(リチウム、デクストロアンフェタミン、アセトアミノフェン、エフェドリン、フェニルプロパノールアミン、ジゴキシン、ビスマス)、化学物質(有機リン)、違法薬物(コカイン、アンフェタミンなど)、自然毒物(蛇咬傷、クモ咬傷、スズメバチ、キノコ、甘草)

<子癇と子癇前症>

・妊娠中や産後の子癇でPRESの診断となることは、典型的な臨床経過であり、画像所見でもある
・静脈洞血栓症やRCVSなどの疾患はしばしば鑑別疾患となる
・児や母体の影響を考慮すると、高血圧と発作に対する治療薬は静注の硫酸マグネシウムが適している
・他の薬剤としては、重度高血圧に対しては静注ヒドララジン、ラベタロール、発作に対してはジアゼパム、フェニトインが使用される

<推定される病態生理>

・PRESの病態生理はいくつか推測されているが、代表的なものは次の2つになる
①急性高血圧の症例における脳血管調整障害
②毒性物質に関連または曝露後の脳血管内皮障害

・急性で重度の高血圧は、血液脳関門(BBB)を障害し、典型的には白質に最も重度の血管浮腫を来すと推測されている
・PRESで特徴とされる後頭葉、頭頂葉に病変を来す理由としては、前方循環よりも後方循環の方が交感神経支配が乏しく、血圧変化に伴う障害の影響を受けやすいためと考えられる
・高血圧を伴わないPRESでは、いくつかの非特異的なプロセスによって脳血管内皮障害が生じる可能性が考えられている
・免疫調整薬、細胞障害薬や自己免疫性疾患、全身性疾患(悪性腫瘍、敗血症、腎不全など)は、特定の状況下において血管機能を障害することがある
・脳血管内皮の障害により、結果的に血管性浮腫を来す
・視覚障害は後頭葉の血管性浮腫に起因するものと推測されるが、昏睡や発作などの他の神経症状の原因は不明である

<予後>

・PRESは一般的に適切なマネジメントを行えば予後は良好である
・PRESと診断された63人を対象としたretrospective studyでは、院内死亡が2.2%であった
・15人の患者を対象としたHincheyらの研究によると、急性神経脱落症状は2週間以内に改善した
・しかし、特にICUに入院となった患者の中には、予後不良や死亡の報告もある
・6つの研究を対象としたmeta-analysisでは、予後不良は画像検査における脳出血や細胞毒性浮腫と関連しており、一方で予後良好は子癇、子癇前症に関連したPRESと関連していた
・担癌患者のPRES 5人のケースシリーズでは、昏睡、発作、重度の脳浮腫を来したが、積極的な治療介入により良好な機能予後を示した

<今後の課題>

・PRESがICD-10に追加されて依頼、報告数が増加している
・当初よりも多彩な臨床症状、不可逆的症例、画像所見が報告されている
・PRESの本質的側面を明らかにすることと中核になる診断基準の開発が必要
・本質が明らかになれば、RCVSなどの疾患とPRESがどの程度重複する病態なのか理解することに役立つ
・診断基準が明確になれば、疫学的特徴、自然経過、最良の治療法、長期予後を明らかにするための臨床研究を行うことができる

<コメント>
・重度の高血圧になったところでPRESに至る患者がごく限られていることを考えると、高血圧と特定の誘引が複合要因となって血管調整障害だか血管内皮障害だかを起こしてPRESを発症するのだと考えられます
・PRES、RCVSあたりの関連も気になります

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