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Cushing症候群の診断

疑いはするけど診断が難しいのが内分泌疾患です。特にCushing症候群は決定的な検査がなく、診断が難しいです。
JCEM guidelines 2008(PMID: 18334580)、JCEM guidelines 2015(PMID: 26222757)、up to date、虎の門病院内分泌クリニカルプラクティスより

【Take home massage】
・年齢に不相応の合併症(骨粗鬆症、病的骨折など)がある場合、複数のCushing症候群の特徴を持つ患者、副腎偶発腫瘍などで疑う
・医原性Cushing症候群を除外し、1mgデキサメサゾン抑制試験でスクリーニング
・スクリーニング陽性なら、その他の高コルチゾール血症を来す状態を除外しつつ、追加で24時間尿中遊離コルチゾール、深夜の血中コルチゾール測定を行う(必要に応じて反復する)
・複数検査で異常を認めたらCushing症候群として、局在診断(ACTH測定、画像検査)

<総論・疫学>

・長期間にわたる高コルチゾール血症が原因で体重増加、中心性肥満、高血圧、耐糖能異常、皮膚菲薄化などの徴候を来す症候群
・ACTH依存性とACTH非依存性に大別される
・日本では、ACTH依存性が約40%ほとんどがACTH産生下垂体腺腫:Cushing病、まれに異所性ACTH産生腫瘍)、ACTH非依存性が約60%ほとんどが副腎腺腫、まれに副腎過形成病変、副腎癌)
・海外と比較して副腎性が多いことが特徴

<Cushing症候群を疑うとき>

・年齢に合わない合併症を持っている患者(骨粗鬆症、高血圧など)
・複数の進行性のCushing症候群の特徴を持つ患者
・肥満を伴う成長遅延の小児
・腺腫の特徴を持つ副腎偶発腫の患者

Cushing症候群の特徴

特異的な所見
・あざができやすい
・満月様顔貌
・近位筋萎縮による筋力低下
・皮膚線条(赤紫色で幅が>1cm)
・成長速度の低下に伴う体重増加(小児)

非特異的な所見
自覚症状:
抑うつ、情緒不安定、性欲減退、倦怠感、不眠、過敏症、集中力低下、背部痛、味覚変化
他覚症状:
バッファローハンプ(水牛様脂肪沈着)、顔の膨満感、中心性肥満、鎖骨上充満、体重増加、皮膚の菲薄化、皮下出血、皮膚の治癒が遅い、末梢浮腫、赤ら顔、にきび(ざ瘡)、月経異常、多毛、女性の禿頭、男性化徴候、月経不順
検査異常
高血圧、骨粗鬆症、高Ca尿症、尿路結石、糖尿病、普通でない感染症、白癬、低K血症、好中球増加、リンパ球・好酸球減少、副腎偶発腫
小児
性器の異常な男性化、思春期早発・遅延

・患者の昔の写真を見比べることも重要
・子供では、成長曲線の低下と体重増加の組み合わせの感度が高い
・高齢者では、特徴的な身体所見よりも近位筋萎縮による筋力低下、浮腫、耐糖能異常、骨粗鬆症が目立つ

Cushing症候群の診断の手順

①外因性の糖質コルチコイドの暴露を除外

・経口薬、静注薬のみでなく、塗布薬、吸入薬、関節注射薬などの確認も行う

②スクリーニング

以下のいずれかの検査を施行(外来でできるのは1mg DST)
1mg一晩デキサメサゾン抑制試験(1mg DST):≧1.8μg/dL(感度95%、特異度80%) ≧5.0μg/dL(感度85%、特異度95%)
 方法:1mgのデキサメサゾンを23-24時に投与し、翌朝8-9時に血中コルチゾールを測定する
24時間尿中遊離コルチゾール(UFC):≧70μg/日で高値、ほとんどのCushing病では≧100μg/日となる
 方法:24時間の蓄尿検査で尿中コルチゾールを測定(尿中試薬不要)
(●深夜唾液コルチゾール:≧145ng/dL(感度92-100%、特異度93-100%)方法:23-24時に採取 ※日本では保険適応なし)

※Cushing症候群のコルチゾール過剰は変動する可能性があるので、尿または唾液中のコルチゾールは少なくとも2回測定した方がよい(結果に一貫性があれば、信憑性を高める)
※日本のガイドラインでは、0.5mg DSTで≧5μg/dL、1mg DSTで≧3μg/dLをカットオフとしている

③Cushing症候群以外の高コルチゾール血症になる状態を除外する

・妊娠、うつ病、病的肥満、コントロール不良な糖尿病など高コルチゾール血症を来す状態を除外(下記参照)
・上記に合併したCushing症候群を疑う場合には臨床所見、各種検査での総合評価を行う

④スクリーニングで異常があれば追加で別の検査を施行

スクリーニングで施行していない検査を追加
深夜の血中コルチゾール測定:≧7.5μg/dL(感度96%、特異度100%)
 方法:あらかじめ末梢ルートを挿入し、23-24時にルート採血を行う
(日本のガイドラインでは≧5μg/dLをカットオフとしている)

2つの異なる検査で陰性
➔ Cushing症候群の検査を追加しない(Cushing症候群は除外)
2つの異なる検査で陽性
➔ Cushing症候群の原因を特定するための検査を行う(局在診断)

⑤局在診断

ACTHを測定し、ACTH値に応じて画像検査を施行
ACTH < 10 pg/mL

ACTH非依存性Cushing症候群の疑いとして、副腎CTを施行
ACTH ≧ 20 pg/mL
ACTH依存性Cushing症候群の疑いとして、下垂体造影MRI胸腹部CTを施行
※ACTH 10~20の場合は、ACTH依存性の判断が困難であり、両方の可能性を考慮

DHEA-Sも同時に測定すると参考になる
ACTH依存性に副腎皮質から分泌されるため、
ACTH非依存性Cushing症候群 ➔ 低値
ACTH依存性Cushing症候群 ➔ 高値
※ただし、個人差が大きく、副腎皮質癌であれば高値となる場合がある

⑤ACTH依存性Cushing症候群の鑑別(Cushing病 vs 異所性ACTH症候群:EAS)

ACTH依存性Cushing症候群の場合、Cushing病(下垂体性)とEAS(異所性)を鑑別するために画像検査に加えて内分泌学的検査を追加する
●8mg一晩デキサメサゾン抑制試験(8mg DST)
 採血前日の23時にデキサメサゾン8mgを内服し、翌朝ACTH、コルチゾールを測 
Cushing病 ➔ 血中コルチゾールが前値の1/2以下に抑制 EAS ➔ いずれも抑制されない
●CRH負荷試験
 ヒトCRH 100μgを静注 静注前、30、60、90分後の血中ACTH、コルチゾールを測定
 Cushing病 ➔ ACTHの頂値≧前値の1.5倍(Cushing病の90%で陽性) EAS ➔ 反応しない

●DDAVP負荷試験
 静注用デスモプレシン 4μg/mL/1Aを静注 静注前、30分、60分、90分後の血中ACTH、コルチゾールを測定
 Cushing病 ➔ ACTHの頂値≧前値の1.5倍 EAS ➔ 反応しない

●海綿静脈洞サンプリング
 画像検査(下垂体造影MRIや体幹部造影CTなど)で両者の鑑別が困難な場合に施行
 CRHを負荷し、中枢と末梢のACTH、PRLを測定する
※異所性ACTH産生腫瘍を疑う場合は、PET-CT、オクトレオスキャンもオプション

JCEM guidelines 2008(診断アルゴリズム)

Cushing症候群の診断での注意点

Cushing症候群を診断するにあたっていくつかトラップがあるので以下の項目に注意しましょう

<Cushing症候群以外の高コルチゾール血症になる状態>

Cushing症候群の臨床的所見を伴うことがあるもの
・妊娠
・うつ病やその他の精神科疾患
・アルコール依存症
・糖質コルチコイド耐性
・病的肥満
・PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)
・コントロール不良の糖尿病

Cushing症候群の臨床的特徴を伴うことが少ないもの
・身体的ストレス(入院、手術、疼痛)
・栄養失調、神経性食思不振症
・激しい慢性運動
・視床下部性無月経
・コルチゾール結合グロブリン(CBG)過剰

JCEM guidelines 2008

<特定の集団における検査>

・妊婦:DSTではなく、UFCの使用を推奨する
・てんかん患者:デキサメサゾンのクリアランスを増加させるAED使用患者に対しては、DSTではなく、抑制試験をしない血中、唾液、尿中のコルチゾールの使用を推奨する
・腎不全:重度の腎不全では、UFCではなく、1mg DSTを推奨する
・Cyclic Cushing症候群:本症を疑う場合には、DSTではなく、UCFや深夜唾液コルチゾールの使用を推奨
・副腎偶発腫:UCFではなく、1mg DSTや深夜唾液 or 血中コルチゾールの使用を推奨

<Cushing症候群の検査と相互作用を来す薬剤>

○CYP3A4誘導によるデキサメサゾン代謝促進
フェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピン、プリミドン、リファンピン、リファペンチン、エトスクシミド、ピオグリタゾン
○CYP3A4阻害によるデキサメサゾン代謝阻害
アプレピタント、イトラコナゾール、リトナビル、フルオキセチン、ジルチアゼム、シメチジン
○コルチゾール結合グロブリン(CBG)を増加させ、血清コルチゾール値が上昇する可能性のある薬剤
エストロゲン、ミトタン、カルバマゼピン、フェノフィブラート、11β-HSD2阻害薬(甘草、カルベノキソロン)

経口避妊薬を使用している女性では、50%でDSTの偽陽性が見られる
・可能な限り、エストロゲン含有薬は、検査前の6週間中止する必要がある
・重症患者やネフローゼ患者で生じるCBGやAlbの減少は、血清コルチゾールの低下と関連する

おまけ

<subclinical Cushing症候群(SCS)>

・Cushing症候群の臨床的所見はないが、副腎偶発腫を指摘された場合などにSCSの可能性を検討する
・副腎偶発腫が存在することが前提であり、コルチゾール分泌の程度により、非機能性に近い状態からCushing症候群に近い状態まで幅のあるもの
高血圧、脂質異常症を顕性のCushing症候群と同頻度で認め、心血管合併症のリスクとなる
骨粗鬆症も健常人と比べると高頻度となる

副腎性subclinical Cushing症候群の診断基準(2017)
①副腎腫瘍の存在(副腎偶発腫)
②臨床症状:Cushing症候群の特徴的な身体所見の欠如
③検査所見
 −1.血中コルチゾールの基礎値(早朝時)が正常範囲内
 −2.コルチゾール分泌の自律性(1mg DSTで血中コルチゾール≧1.8μg/dL)
 −3.ACTH分泌の抑制(早朝ACTH<10pg/mL or ACTH分泌刺激試験で低反応:基礎値<1.5倍)
 −4.日内リズムの消失(21-24時の血中コルチゾール≧5μg/dL)
 −5.副腎シンチグラフィーでの健側の抑制と患側の集積
 −6.血中DHEA-S値の低値
 −7.副腎腫瘍摘出後、一過性の副腎不全症状があった場合、あるいは付着皮質組織の萎縮を認めた場合

診断
①+②+③−1は必須で、さらに以下のいずれかを満たす場合に診断
(1)1mg DSTで血中コルチゾール ≧ 5μg/dL
(2)1mg DSTで血中コルチゾール ≧ 3μg/dL+③−3~6の1つ以上 or ③−7
(3)1mg DSTで血中コルチゾール ≧ 1.8μg/dL+③−3,4両方 or ③−7

Cushing症候群の治療

○初期治療
高コルチゾール血症の是正日和見感染症の予防が必要
・血中コルチゾール>30μg/dLの場合、バクタ1T/日を開始
・メチラポン 500mg分2など少量から開始、漸増

○手術
基本的には手術を考慮する
・Cushing病では、経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術(TSS)
・片側性の副腎腺腫では片側副腎摘出術を行い、副腎皮質癌でも可能な限り切除を行う
・両側性の病変の場合は、両側副腎摘出術を検討

術後はステロイドカバーが必要
・両側副腎切除を行った場合は、生涯にわたってコートリルを内服し続ける(原発性副腎不全としての対応)

○放射線治療
・Cushing病において、TSSにより完治しない症例や再発例に対してガンマナイフやサイバーナイフなどを行う
・内科治療の併用を要する

○薬物治療
下垂体をターゲットとした薬物治療
・ドパミン作動薬:カベルゴリン(カバサール)
・ソマトスタチンアナログ:パシレオチド徐放製剤(シグニフォーLAR)
副腎をターゲットとした薬物治療
・メチラポン(メトピロン)
・トリスタン(デソパン)
・オシロドロスタット(イスツリサ)
・オペプリム(ミトタン)
異所性ACTH産生腫瘍に対して
・ソマトスタチン誘導体(オクトレオチド、ランレオチドなど)
・エベロリムス
・スニチニブ

Cushing症候群の各論

●Cushing病:ACTH産生下垂体腺腫について
80-90%が1cm未満のmicroadenomaであり、≧1cmのmacroadenomaは少ない
・1-2mm程度の小さな腺腫が原因の場合はMRIによる局在診断が困難であり、異所性ACTH症候群(EAS)との鑑別が必要になる
subclinical Cushing病では、macroadenomaの頻度が高く、視野障害などの圧迫症状や下垂体偶発腫瘍として発見されることがある

●Cushing症候群を来す副腎腺腫について
・副腎腺腫の典型例は、2-4cmの形状整・境界明瞭で内部均一な類円形腫瘍
・脂質を多く含むためCT値は≦10HUと低値(腺腫の30%は脂肪成分が乏しく>10HUとなる)
・造影剤は早期にwashoutされ、造影CTでのCT値は≦30HUとなる
・MRIでは、T1 Low T2 Lowであり、T1のout of phaseで信号低下
・腫瘍に随伴する正常副腎や対側副腎は萎縮していることが多い

●異所性ACTH産生腫瘍について
・以前は肺小細胞癌の報告が多かったが、近年では神経内分泌腫瘍(NEN:neuroendocrine neoplasm)の割合が増加している(気管支、胸腺、膵など)

<コメント>
・Cushing症候群以外の高コルチゾール血症になる状態(妊娠、うつ病、病的肥満、コントロール不良の糖尿病)に合併したCushing症候群を診断するのはかなり難しいです
・厄介なのは、Cushing症候群で抑うつ、肥満、糖尿病を来すという点なので、Cushing症候群らしい臨床所見を集めて前確率を高めることと多角的な検査で後確率を高めることが重要でしょうか

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