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血糖正常のDKA(euDKA)

SGLT-2阻害薬の普及とともに有名になったこれです。SGLT-2阻害薬内服中の患者がeuDKAで入院となったため、調べてみました。
Am J Emerg Med Review 2021(PMID: 33626481 )、Eur J Intern Med Review 2019(PMID: 30910328)より

【ポイント】
・血糖が高くなくてもDKAを起こすことがある
・SGLT-2阻害薬が有名だが、他に飢餓、肝疾患、妊娠など血糖の不足・糖新生の障害されている状態でも生じ得る
・治療は基本的にDKAと同じだが、ブドウ糖を投与しながらインスリン持続静注を使用する
・予防には、Sick dayや手術前のSGLT-2阻害薬の中止を指示、教育することが重要

○総論

・血清グルコースが正常なDKAは、euglycemic DKA(euDKA)と呼ばれる
・代謝性アシドーシス(HCO3<18mEq/L、pH<7.3)、ケトーシス、比較的正常な血糖値(血糖<250mg/dL)で定義される
SGLT-2阻害薬の使用により近年増加傾向にある
・SGLT-2阻害薬の使用はeuDKAのリスクを7倍増加させる

Am J Emerg Med Review 2021

○病態生理

・絶対的なインスリン不足、または重度のインスリン抵抗性を伴う相対的なインスリン不足の状態
・このため、グルカゴン産生が増加し、遊離脂肪酸が放出され、ケトン体生成とアシドーシスが引き起こされる
・euDKAのメカニズムは、空腹状態におけるグルコース利用・産生の障害 and/or 過剰な拮抗ホルモンによる尿中グルコース排泄増加も含まれる
・したがって、グルコースの利用・産生障害、インスリン分泌の低下、拮抗ホルモンの産生増加をもたらす基礎疾患はいずれもeuDKAの原因となる
・基礎疾患としては、飢餓状態、妊娠、慢性アルコール使用、肝臓疾患、感染症/敗血症、SGLT-2阻害薬の使用がある
・SGLT-2阻害薬で、3剤を比較するとカナグリフロジン(HR 3.58)が最もリスクが高く、エンパグリフロジン(HR 2.52)、ダパグリフロジン(HR 1.86)と続いた
・グリコーゲン貯蔵量が減少し、BMIの低い患者はeuDKAのリスクが高い
・SGLT-2阻害薬投与開始後、euDKAが発生するまでの期間は、通常2ヶ月未満

Eur J Intern Med Review 2019

○評価

・euDKAは通常のDKAと類似した症状を示すが、血糖値が比較的低いため、約50%が診断の遅れを経験する
・American College of Endocrinologyでは、euDKAの診断に血清pHβヒドロキシ酪酸を診断に使用することを推奨している
・静脈pHは、動脈pHと同等であるため、動脈ガスを測定する必要はない
・ケトン体の評価では、ニトロプルシド試験(尿定性検査)によるアセト酢酸の評価と血液検査によるβヒドロキシ酪酸の評価を行う
・DKAにおけるβヒドロキシ酪酸:アセト酢酸=7~10:1であるため、可能ならβヒドロキシ酪酸を評価することが望ましい
・血清βヒドロキシ酪酸が成人では>3.8mmol/L、小児では>3.0mmol/LはDKAの診断に信頼性がある
euDKAに対しては特に尿中ケトンは感度、特異度が低い
・尿ケトン体は、SGLT-2阻害薬使用中には、尿中に排泄されずに再吸収されることがあり、偽陰性につながる
・原因が飢餓や栄養失調による場合は、低Mg、低P血症を認める場合があるため、評価する必要がある

○鑑別疾患

飢餓性ケトアシドーシスアルコール性ケトアシドーシスが一般的な鑑別疾患となる
・一般に飢餓性ケトアシドーシスは、HCO3≧18mEq/Lとなるため、重症化することはない
・アルコール性ケトアシドーシスは、血糖は低値〜正常値(小規模研究では平均118mg/dL)、栄養摂取不十分で慢性的なアルコール使用の病歴、重度の代謝性アシドーシス、悪心・嘔吐が特徴
・したがって、慢性的なアルコール使用患者ではeuDKAとアルコール性ケトアシドーシスは鑑別が困難な場合がある
・その他のAG開大性代謝性アシドーシスも除外が必要(乳酸アシドーシス、腎不全、中毒:アスピリン、メタノール)

○マネジメント

・基本的には通常のDKAと同じ
・低血糖を避けるために、euDKA患者にはブドウ糖の静注が不可欠
インスリン持続静注と同時に5%ブドウ糖を開始する
・5%ブドウ糖でも低血糖となる場合は、10%ブドウ糖を投与する
・インスリンは、血糖に関わらずケトアシドーシスを改善する目的で使用され、普段インスリンを使用していない場合でも投与が推奨される
・SGLT-2阻害薬は中止すべきであるが、euDKAから離脱すれば再開することができる

○予防

・DKAを誘発する状況(急性疾患、手術、脱水、過度のアルコール摂取など)において、SGLT-2阻害薬を控えることが重要
・SGLT-2阻害薬の半減期は11~13時間であり、SGLT-2阻害薬の効果は中止後も数日間持続するため、大手術の約3日前からまたは急性疾患の期間中には中止すべき
経口摂取のできない患者、周術期、極度の低体重、炭水化物の摂取が極端に少ない患者にはSGLT-2阻害薬の使用は避けるべき
・スポーツ選手に対しては、激しい運動の少なくとも24時間前にSGLT-2阻害薬を中止するように推奨する

○コメント
・SGLT-2阻害薬は心不全治療薬としても確立してきており、普段糖尿病を診ていない人も処方することが増えてきていると思います
・処方する人は、Sick day、周術期の対応を知っておく必要があります

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