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間質性肺疾患(ILDs)の画像所見

ILDsの基本画像/病理パターンであるIPF/UIP、NSIP、AIP/DAD、OPとそれらの鑑別となる疾患を中心にHRCT画像所見についてまとめました。
参考文献:画像診断の勘ドコロ Neo 胸部、特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022より

<ILDsの全体像>

ILDsの全体像

<ILDsの基本知識・原則>

・ILDsの基本画像/病理パターンとして、UIP、NSIP、OP、DADパターンがある(他にもあるが比較的まれなので省略)
・ILDsは大きく特発性間質性肺疾患(IIPs)と二次性ILDs(自己免疫性CTD、職業環境性、医原性、その他)に分けられる
・IIPsで重要なのは慢性線維性間質性肺炎と急性・亜急性間質性肺炎
慢性線維性間質性肺炎として、IPF(UIP)、NSIPがある
急性・亜急性間質性肺炎として、OP、AIP(DAD)がある
・慢性線維性間質性肺炎の方が「線維化」が強く見られる(DADの後期では「線維化」の所見が出てくる)
・「線維化」の所見としては、蜂巣肺(IPFに特異的)、牽引性気管支拡張、網状影、肺の歪み、肺容積の低下などがある
・画像/病理パターンにより頻度の差はあるものの、二次性ILDsとしてCTD-ILD、薬剤肺障害は常に鑑別疾患に入る
IPFとNSIPはお互いの鑑別疾患となり、二次性ILDsとしてはCTD-ILD、薬剤性肺障害に加えて「線維化」の強いfibrotic HP(過敏性肺炎)、石綿肺も鑑別疾患となる
・OPは、二次性ILDsとしてCEP(慢性好酸球性肺炎)がお互いに鑑別疾患となり、ILD以外にも感染(肺炎)、腫瘍(肺癌)が鑑別疾患となる
・AIPは、ILDs以外にもすべてのARDS、肺炎、肺水腫、肺胞出血、AEPがお互いの鑑別疾患となる
・CT読影においては、正確な病変・分布の観察のために水平断だけでなく冠状断で観察することも重要

慢性線維性間質性肺炎(chronic fibrosing IP)

<特発性肺線維症(IPF)>

HRCT所見:UIPパターン
分布:肺底部、胸膜下優位に出現
陰影:蜂巣肺 ± 牽引性気管支拡張(線維化が強い)
   空間的・時間的不均一性(蜂巣肺と正常肺が隣接する)

鑑別疾患
IIPs:NSIP
二次性:CTD-ILD、薬剤性肺障害
その他:fibrotic HP、石綿肺

IPF(UIP)
IPF(UIP)
IPF(UIP)

肺野末梢(胸膜下)、肺底部優位に分布する線維化病変で、しばしば正常肺が介在する不均一な分布であるが、ときにびまん性、左右不均等のこともある
②線維化病変は、蜂巣肺の存在(±牽引性気管支拡張)、網状影の重なり(軽度のGGOを伴う)であり、肺骨化症を伴うこともある
①、②の画像診断基準を満たすとUIPパターンとなる
HRCT所見がUIPパターンでは、病理学的診断がなくても多分野における集学的検討(MDD)を経てIPFの診断が可能となる

臨床所見・疫学・予後
・主に高齢者で発症し、50歳以降の男性に多い
・両側肺底部で吸気終末期捻髪音(end-inspiratory fine crackles)は90%以上で聴取される
・IIPsのなかで最も頻度が高く、最も予後不良
・IPF診断時から生存期間中央値は2.5-3.5年と報告されるが、患者間での差が大きい

<非特異性間質性肺炎(NSIP)>

HRCT所見:NSIPパターン
分布:肺底部優位、気管支血管周囲の分布(胸膜下は病変が乏しい)
陰影:cellular typeはGGO、fibrostic typeは網状影、牽引性気管支拡張、移行型はその混合
   時間的・空間的均一(両肺での病変の分布・病勢が均一)
   蜂巣肺はあってもわずか

鑑別疾患
IIPs:IPF(fibrotic type) COP、DIP、RB-ILD(cellular type)
二次性:CTD-ILD、薬剤性肺障害
その他:fibrotic HP、石綿肺、リンパ増殖性疾患

NSIP
NSIP

・cellular typeとfibrotic typeがあり、画像所見は異なるが、両者の移行型(cellular and fibrotic type)が多い
cellular type
GGOが主体で、consolidationはわずか
気管支血管束に沿うような気管支血管周囲分布が主体で胸膜直下が取り残されることが多いが、胸膜直下に及ぶこともある

fibrostic type
両側下肺野優位に細かい、または不整な網状影、牽引性気管支拡張が見られる
・線維化の進行度によって様々な程度の牽引性気管支拡張を呈する(中枢側の気管支に病変が及んでいるものほど進行している)
病変は時間的、空間的にほぼ一様で、両肺底部の病変を見比べると病変分布、病勢が類似していることが多い
気管支血管周囲分布は約半数に見られ、胸膜直下が取り残されるように病変が弱くなる、病変に乏しいことがある(subpleural sparing)
蜂巣肺は見られることもあるが、小範囲に限定される
・経過で進行・進展し、UIPとの区別が難しくなる例もある

臨床所見・疫学・予後
・発症年齢は50歳前後でIPFより若い
・アジアでは、IPFと比較して女性が多い(男女比 3:7)
・cellular typeは、fibrotic typeに比して治療反応性で予後がよい
・実際には純粋なcellular typeは比較的まれで、臨床の場では移行型(cellular and fibrotic type)が最も多い

<HRCTによるIPF vs NSIP>

治療、経過、予後といった観点からIPFとNSIPの鑑別は重要

○IPFを示唆する所見
→蜂巣肺の範囲が広い網状影が多くGGOが少ない上肺野胸膜直下に線状・索状構造が見られる

○NSIPを示唆する所見
→胸膜直下の病変がスペアされる気管支血管束周囲分布を示すGGOの占める範囲が広い

<IPFの急性増悪>

画像所見:UIP/NSIPパターンを背景にDADパターンが出現

IPF(UIP)の急性増悪

・背景の蜂巣肺や網状影といったIPFパターンに合致する慢性の線維性間質性肺炎像に加えて、新たにGGO and / or consolidationが出現する
肺野高吸収病変は広範にびまん性に広がり牽引性気管支拡張も目立ちDADパターンに類似する
・病理学的には、IPFとしての既存のUIP所見に、DAD所見が加わった組織像が代表的
・一部の症例ではOPが認められることもある

臨床所見・疫学・予後
・予後は不良で、死亡率はAIPと同様50%を超える
・IPFの死亡原因の30-50%を占め、IPFのの予後因子と考えられている

急性・亜急性間質性肺炎(acute/subacute IP)

<特発性急性間質性肺炎(AIP)>

HRCT所見:DADパターン
分布:両肺びまん性
陰影:GGO、consolidationが広がる
   正常肺が取り残されて地図状分布を示す
   初期には加重の影響で背側肺の肺胞虚脱により、腹側〜背側にかけてGGO〜浸潤影のグラデーションを呈する(水分を含んだスポンジのような状態)
   進行とともに牽引性気管支拡張が出現する

鑑別疾患
IIPs:IPF/NSIPの急性増悪(CTD-ILD、HPの急性増悪も含む)
その他:すべてのARDS、肺炎、肺水腫、肺胞出血、AEP

AIP
DADパターンの時間経過

急性呼吸促迫症候群(ARDS)と同様の病態を呈し、idiopathic ARDSと考えられている
・病理学組織学的には、DAD(びまん性肺胞障害)に相当し、病変の時相は均一である
・DADは病期により、滲出期器質化期(増殖期)線維化期の3期に分類される

①滲出期(急性期:1〜7日以内)
両肺野にびまん性に広がる高吸収病変(GGOおよびconsolidation)が主体
・小葉単位で病変がスペアされて地図状陰影(geographic appearance)を示すことが多い
②器質化期(増殖期)(亜急性期:1〜3週間)
GGO内に濃い線状影、網状影が顕在化
consolidation内部に末梢細気管支レベルの牽引性気管支拡張が出現し、増殖後期になると、線維化の進行に伴い、亜区域〜区域支レベルの中枢側気管支の牽引性拡張像も出現してくる
③線維化期(慢性期:3週間以降)
・牽引性気管支拡張像に加え、consolidation周辺の容積減少を示唆する気管支血管影葉間胸膜の陰影側への牽引性偏位も目立ってくる

臨床所見・疫学・予後
・基礎疾患がなく、背景肺野に慢性間質性肺炎を伴わない比較的健康人に発症する、原因不明の急性間質性肺炎
・低酸素血症が急速に進行し、呼吸不全に至る予後不良の疾患
・死亡率は50%を超える
・急性期を乗り切った症例でも発症後6ヶ月以内に死亡することが多い
・早期治療が奏功した生存例は比較的長期生存可能であるが、再発や慢性進行性間質性肺炎へ移行することが知られている

<特発性器質化肺炎(OP)>

HRCT:OPパターン
分布:下肺野優位、胸膜下もしくは気管支血管周囲分布
陰影:斑状のconsolidation(air bronchogramを伴う)
   遊走肺炎(wandering pneumonia)、reversed halo signが特徴的
   結節影や多発微小結節影のこともある

鑑別疾患
IIPs:NSIP
二次性:CTD-ILD、薬剤性肺障害
その他:肺炎、CEP、放射線肺炎、肉芽腫性疾患(サルコイドーシス)、肺腺癌、リンパ腫

OP
OP

90%にair space consolidationがみられ、分布は下肺野優位で、半数は胸膜下もしくは気管支血管周囲分布を示す
・高吸収病変内には、気管支/細気管支の空気気管支像(air bronchogram)軽度の気管支拡張が見られることが多い
陰影が短期間で移動する動態が特徴的で遊走肺炎(wandering pneumonia)と呼ばれる
・GGOが濃い帯状高吸収で囲まれるreversed halo signが約20%で見られるが、他疾患でも同様の所見を呈することがある

臨床所見・疫学・予後
・市中肺炎の症状、画像所見を呈するが、抗菌薬に反応せず、画像経過で再発性、遊走性の陰影を示し、ステロイド反応が良好な原因不明の疾患と特徴付けられる
・あらゆる年齢層にみられるが、40-60歳代(平均55歳)に好発し性差はない
・発熱、乾性咳嗽、軽度の呼吸困難など亜急性(3ヶ月未満)の経過で発症し、血液検査では、赤沈促進、CRP高値、好中球数増加を認めることが多い
・自然軽快もときにあり、ほとんどがステロイド療法に反応性で予後は良好であるが、再発もときにみられる

<結合織疾患関連肺病変(CTD-ILD)>

画像所見
・最も多いNSIPパターンを反映することが多い(UIP、OP、DADパターンを取ることもある)
・ILD以外に血管病変、リウマチ結節のような結節病変、気道病変を合併することがあり、また、日和見感染症や薬剤性肺障害、悪性腫瘍などの病態の合併もあるため、これらが混在した画像所見をとる

CADM(NSIPパターン)
RA-ILD(NSIPパターン)

・CTD-ILDの頻度としては、一般的には、SScで最も多く60-70%、次いでPM/DMが40-50%、RAが30-40%、SLE、SjSがほぼ同程度で20-30%、MCTDはSScとSLEのほぼ中間の頻度20-65%

肺病変先行型CTD
・PM/DMで最も多くみられ、PM/DM-ILD患者の約8-30%は肺病変先行型で、先行期間は2-15ヶ月とされる
・RA患者の10-20%にILD先行型がみられるが、先行期間は1-7年と長い
・肺病変先行型CTDが疑われるCT所見は、CTD-ILDでよくみられるNSIP、NSIP+OP、OP、LIPパターンのみならず、末梢気道病変(FB、BOなど)を示唆する所見、PAHを示唆する所見や心嚢水、胸水などの併発も挙げられる

<慢性好酸球性肺炎(CEP)>

画像所見
・胸部X線では、典型的には上肺野優位、両側、もしくは片側性に末梢側にconsolidationを認め、肺胞性肺水腫と逆転の像のような像を呈することからphotographic negative of pulmonary edemaといわれている
・CTでは、上肺野両側胸膜下優位に斑状に分布する非区域性のconsolidationやGGOを呈する

鑑別疾患
IIPs:OP、NSIP
その他:肺炎、放射線肺炎、肉芽腫性疾患(サルコイドーシス)、肺腺癌、リンパ腫

CEP

臨床所見
①咳嗽、発熱、呼吸困難などの症状が2週間以上続く
②胸部画像の異常所見
③BALや血中などの好酸球増多
④薬剤性肺炎や寄生虫感染など他の好酸球性肺炎が除外される
に基づいて診断される
・どの年齢でも発症するが好発年齢は30-50歳代で、女性の方が男性より2倍多い
・喘息合併が約半数にみられる

<急性好酸球性肺炎(AEP)>

画像所見
・胸部X線では、びまん性のconsolidationやGGO、Kerley B lineを認める
・CTでは、両側にGGOの他、小葉間質壁の肥厚、carazy-paving appearanceが認められ、上記胸部X線のKerley B lineは小葉間隔壁の肥厚を反映したもの
・両側胸水を認めることも多い

鑑別疾患
IIPs:
その他:間質性肺水腫、癌性リンパ管症

AEP
AEP

臨床所見
・20-40歳代の比較的若年の男性で、喫煙の開始もしくは禁煙後再開を契機に発症することが多い
・症状は、咳嗽、発熱、急速に進行する呼吸困難だが、ステロイド治療への反応は良好で慢性化することはほぼなくCEPとは異なる疾患と考えられている

<過敏性肺炎(HP)>

画像所見
non-fibrotic HP(従来の急性/亜急性HP)
・びまん性に辺縁不明瞭で粗大なすりガラス吸収値の小葉中心性結節や汎小葉性のGGOを呈し、薄壁嚢胞や局所的なエア・トラッピングを反映してモザイク吸収値が認められる
・呼気CTでエア・トラッピングを認める

fibrotic HP(従来の慢性HP)
・構造的な歪みを伴う不整な線状網状影などの線維化や気管支拡張像、細気管支病変であるエア・トラッピングを呈するが、他の間質性肺炎と鑑別困難なことも少なくない

鑑別疾患
・non-fibrotic HP:溶接工肺、異所性肺石灰化
・fibrotic HP:UIP、NSIP

non-fibrotic HP
non-fibrotic HP
fibrotic HP

臨床所見
・HPは、Ⅲ型アレルギーもしくはⅣ型アレルギーが関与して発症し、臨床像により急性/亜急性と慢性に分類されていた
・抗原としては、夏型過敏性肺炎などの真菌や羽毛布団といった鳥類、hot-tub lungといわれる非結核性抗酸菌、細菌、キノコ胞子などがある

<心原性肺水腫>

画像所見
肺胞性肺水腫では両側びまん性の浸潤影、すりガラス影を中枢側優位に認める
・融合した辺縁不明瞭な斑状陰影や境界不明瞭な汎小葉性分布、crazy-paving patternなど様々なパターンがある
・荷重部である背側優位分布を呈することも多く、胸水貯留による受動性無気肺も合併しやすい
間質性肺水腫の所見はリンパ管や静脈の拡張を反映した、平滑な小葉間隔壁肥厚や気管支血管束肥厚、葉間裂肥厚としてみられる
・治療により陰影は短時間で改善が見込まれる
・左房・肺静脈の拡張、右優位胸水貯留、皮下浮腫を伴う

鑑別疾患
IIPs:AIP、IPF/NSIPの急性増悪(CTD-ILD、HPの急性増悪も含む)
その他:すべてのARDS、肺炎、肺胞出血、AEP

肺水腫

<急性呼吸窮迫症候群(ARDS)>

AIPを参照

鑑別疾患
IIPs:AIP、IPF/NSIPの急性増悪(CTD-ILD、HPの急性増悪も含む)
その他:肺炎、肺胞出血、AEP

<肺胞出血>

画像所見
小葉中心性あるいはびまん性のすりガラス影〜浸潤影が融合した、中枢優位分布の陰影を示す
・肺門周囲から中下肺優位に広がり、肺尖や胸膜直下が温存される
・crazy-paving patternもよくみられる

臨床所見
・さまざまな疾患に関連して起こる肺実質への出血で、喀血、貧血、びまん性肺胞性陰影が3徴
・血小板減少(白血病や骨髄移植後)、抗凝固療法、DICなどの多くの凝固異常により、二次性にびまん性肺胞出血が生じる

鑑別疾患
IIPs:AIP、IPF/NSIPの急性増悪(CTD-ILD、HPの急性増悪も含む)
その他:肺炎、肺水腫、AEP

びまん性肺胞出血

<コメント>
・ILDsの基本知識・原則は簡略化しているので厳密には異なる点もあるかと思います
・画像所見のみでは専門家でも意見が分かれるところのようなので、鑑別疾患を挙げて広く考えることが重要です

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