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自然気胸のマネジメント

SSPは基礎疾患のため、重度の呼吸不全で搬送されます。速やかな診断・治療が重要ですが、初期治療がうまくいかない場合や再発予防についても知っておきたいです。
参考文献:BMJ Review 2014(PMID: 24812003)、Lancet Respiratoly Review 2015(PMID: 26170077)、BTS guidelines 2010(PMID: 20696690)、up to dateより

【Take home message】
・PSPとSSPで治療方針が大きくことなる
・PSPは比較的大きくても経過観察、単回穿刺が選択肢となる
・SSPは基本的に入院して、胸腔ドレナージ(小さければ単回穿刺も選択肢)
・SSPは背景肺疾患に対する治療介入も行う
・いずれの場合も繰り返す、胸腔ドレナージで改善しない場合は手術治療を検討
・手術が適さない場合などは胸膜癒着術(化学的、ブラッドパッチ)

<気胸の分類>

・原発性自然気胸(PSP:Primary spontaneous pneumothorax)
・続発性自然気胸(SSP:Secondary spontaneous pneumothorax)
・外傷性気胸(医原性、その他)

・PSPとSSPの区別は、臨床的に明らかな肺疾患の有無に基づいている
・PSPとSSPは、罹患率、死亡率、発症時の低酸素血症の割合、推奨される管理に関して異なる
・PSPは既知の肺疾患とは関連しないが、罹患患者の多くは気胸の素因となる認識されない肺の異常がある
・小規模な症例対照研究によると、PSPの非喫煙者27人のうち81%で、CTで気腫様変化が確認されたが、非喫煙の健康なボランティア10人の対照群は0%だった
・SSPは、PSPより死亡率が高いが、これは肺疾患の既往がある患者が心肺予備能低下が影響している

<気胸の臨床所見>

・気胸は、無症状で画像検査で診断される場合と典型的な臨床症状に基づいて疑われる場合がある
・最も一般的な症状は、胸痛と息苦しさで、特徴的には急性発症だが、これらは微妙な症状の場合もあれば、全く症状がない場合もある
SSPの患者は、肺疾患が併存しているため、PSPの患者よりも症状が強い傾向にある

・ほとんどの患者では吸気時の胸部X線で気胸が確認される
・仰臥位の胸部X線ではよりわかりにくいが、肋骨横隔膜角に空気が溜まり、「deep sulcus sign」を示すことがある
・CTは、気胸に対する感度、特異度が高く、肺が胸膜に癒着している気胸などの複雑な病態に特に有用

BMJ Review 2014

<リスク因子>

・気胸全体として年齢分布は二相性で、PSPは15-34歳SSPは55歳以上でピークとなる

PSP
喫煙が最も重要なリスク因子
・ストックホルムで行われた10年間の後ろ向き研究では、PSPの88%が喫煙していた
・この研究では、1日の喫煙本数と気胸のリスクの相関関係が認められた
・長身の男性でリスクが高く、肺尖部の肺胞の伸縮が大きいことがリスク上昇に関連しているという仮設がある

SSP
COPDは、SSPを引き起こす最も一般的な肺疾患で、症例の約57%を占めている
気胸のリスクは、COPDの病状の進行と共に増加する
・SSPの約30%は、1秒間の強制呼気量が 1L未満
・手術のために紹介された気胸の女性32人を評価した前向き研究では、25%(8人)が月経関連気胸を示唆する特徴を持ち、このうち7人は横隔膜子宮内膜症が病理学的に確認された
・この可能性について女性を特別に評価すれば管理が大きく変わるかもしれない

●SSPの背景疾患(up to dateも参照)

・気道疾患
嚢胞性線維症、喘息、COPD
・感染
ニューモシスチス肺炎、結核、壊死性肺炎
・間質性肺疾患/嚢胞性疾患
間質性肺炎、サルコイドーシス、ランゲルハンス組織球症、リンパ脈管筋腫症
・結合織病
マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群
・悪性腫瘍
原発性肺癌、転移性肺癌
・その他
月経性気胸(胸部子宮内膜症)

<治療の選択肢>

BTS guidelines 2010 アルゴリズム

・一般的な疾患にも関わらず、気胸の管理に関するガイドラインやプラクティスにはかなりばらつきがある
・治療の選択肢としては、経過観察、穿刺吸引、持続ドレナージ、胸部外科手術まで幅広い
・治療の選択は、臨床症状、血行動態の悪化、気胸の大きさ、原因、初発か再発か、初期治療に成功したか失敗したかなどに左右される
・ガイドライン間の重要な違いの1つとして、気胸の測定方法の違いがある
・BTSでは、肺縁から胸壁まで≧2cmのものを「large」と定義している
・ACCPでは、肺尖から肺頂点まで≧3cmのものを「large」としている

BMJ Review 2014

PSP
・エアリークが止まったと仮定すると、気胸は空気が肺毛細血管に再吸収されるにつれて徐々に解消される
・保存治療を受けた患者の胸部X線から気胸の大きさを3次元的に推測して評価した後ろ向き研究では、消失率は2.2%/日と算出された

・BTS(英国胸部学会)では、「Large(≧2cm)」のPSPに対して穿刺吸引を推奨している
・APPC(米国胸部内科協会)では、「Large(≧3cm)」のPSP胸腔ドレーンや小口径カテーテルの挿入を推奨している
・56人のLarge PSPを対象とした、穿刺吸引と胸腔ドレーン挿入を比較したRCTでは、成功率と再発率に群間差はなく、穿刺吸引は入院期間が短かった

SSP
・SSPはより重症、心肺機能の低下を伴うため、PSPよりも介入を必要とする
・ACCP、BTSいずれにおいてもSSPでは全例入院を推奨している
・酸素投与が必要となるが、CO2貯留のある患者においては注意が必要である
・ほとんどの患者では、最終的に胸腔ドレーンが必要となるが、BTSでは無症状のSSPで1-2cmの虚脱であれば穿刺吸引を行うことを推奨している
・SSPのエアリークは、PSPよりも自然治癒する可能性が低い
SSPの方が入院期間も長く、平均10日以上という報告もある
持続的なエアリークが48時間以上続く場合は、胸部外科と相談し、再発リスクや周術期合併症のリスクに応じて、個別に外科治療の検討を行う必要がある
・患者によっては、外科治療に適さず、長期の保存治療やより低侵襲な治療を必要とすることがある

<酸素投与(up to dateより)>

加湿された100%酸素投与を行うと胸膜腔からの空気の再吸収速度が最大6倍まで増加するという報告がある(臨床研究の裏付けはなし)
・PSPでは基礎疾患がないため、酸素化は通常異常なし〜正常下限であり、胸膜腔からの空気(主に窒素)の再吸収を促進するために酸素が投与される
・最適なFIO2や目標SpO2は定まっていない
・SSPでは基礎疾患のため、低酸素血症があることがほとんどなので酸素化に準じて酸素投与が行われる
・SSPでは基礎疾患の影響で高CO2血症を伴っている可能性があり、FIO2は慎重に上げる必要がある
酸素投与は約4-6時間行い、その後胸部レントゲンの評価を行う
・いずれの場合も軽度の陽圧がかかる可能性があるためHFNCは使用しない方がよい(NPPV、人工呼吸器はもちろんだめ)

<陰圧吸引>

・胸腔ドレーンからの陰圧吸引は、肺からのエアリークが胸腔ドレーンによる除去よりも持続的にある患者や肺の再膨張が得られない場合に行われる
・臓側胸膜と壁側胸膜を密着させれば、臓側胸膜の欠損が容易に治癒することを期待して、胸腔ドレーンからの空気の排出を増加させるために行われる
・23人の患者を対象とした小規模なRCTでは、肺の再膨張率および入院期間に陰圧吸引ありと陰圧吸引なしの間に有意差はなかった
・BTSでは、陰圧吸引はルーチンには使用しないが、肺が再膨張しない場合に使用することを推奨している
・その際には、-10 ~ -20 cmH2Oの陰圧が推奨されている
胸腔ドレーン挿入後に、早期に陰圧吸引を行うことは、潰れた肺を急速な再膨張させ、再膨張性肺水腫のリスクが高まるため避けるべきである

<手術>

・再発性気胸に対しては、ミニ開胸手術ビデオアシスト胸腔鏡手術(VATS)の両方が用いられている
・RCTでは、原発性または続発性の気胸患者66人をミニ開胸手術とVATSに割り付けたところ、再発率(2.7% vs 3.0%)と術後疼痛は同等であった
・ミニ開胸手術と比較してVATSは、手術時間が長くなるものの、患者満足度と活動復帰率が高い

<胸膜癒着術>

壁側胸膜と臓側胸膜の癒着を引き起こすために炎症を起こし、胸膜腔を閉鎖する処置
タルクテトラサイクリン誘導体などの薬剤を胸腔ドレーンから注入する方法、胸膜を機械的に剥がす方法、手術中に薬剤を注入する方法(外科的胸膜癒着術)などがある
・胸膜癒着術は炎症性であるため、疼痛を伴うことがあり、胸膜腔に局所麻酔を行い、十分な鎮痛を行う必要がある
・BTSでは、手術後の再発率(約3%)と著しく低いため、一次治療としてではなく、化学的胸膜癒着術は手術に適さないエアリークが続いている患者に対してのみ考慮すべきとしている

<気胸治療後の管理>

・気胸の再発率が高いため、患者に再発を示唆する症状(胸痛や呼吸困難)があった場合に医師の指示を仰ぐ必要性を伝えることが重要
再発率は最初の1ヶ月間が最も高いため、注意して経過観察する
・BTSでは、気胸を起こしたすべての患者は、初発から2-4週間後に呼吸器科医によるフォローアップを受け、症状が消失したことを確認し、基礎となる肺疾患を特定し治療することが推奨されている
PSPの再発率は約30%と高く、再発すると約60-80%まで上昇するため手術治療を考慮する
SSPでも同等以上のリスクがある

禁煙は、初回PSPの患者の再発率を有意に低下させ、40%以上の相対リスク減少効果がある
・したがって、患者にこの事実を理解してもらい、禁煙を達成できるサポートを行う

<スキューバダイビング>

・BTSでは、気胸後、外科的胸膜切除術などの確実な処置を受けない限り、スキューバダイビングは無期限に避けるべきと勧告している
・これは、水中での気胸の再発リスクがあり、上昇中に気胸が拡大し、緊張性気胸のリスクがあるため
・プロのダイバーであれば、最初の気胸エピソード後に外科治療を受ければ、ダイビングに安全に復帰することができる

<飛行機>

・飛行機に搭乗することは気胸のリスクを増加させるものではないが、ドレナージされていない状態の気胸がある状態で商業便を使用すべきではなく、確実な治療または放射線学的に治癒が確認されるまでは飛行機での旅行は延期すべきである
・英国民間航空局は、気胸のドレナージが達成されてから2週間後に旅行することが安全としている

新規治療について

<保存治療>

・BTSでは、小さな気胸(肺門の高さで肺の端まで<2cm)で呼吸苦のない患者では保存治療を考慮すべきであり、大きな気胸でも症状がほとんどなければ保存加療を行うことを認めている

●NEJM 2020のRCT(PSPに対する保存治療 vs 胸腔ドレーン)

中等度〜高度のPSP316人を対象とし、保存治療群と胸腔ドレーン(≦12Fr)群に分けられ、8週以内の完全な肺の再膨張を比較した
・保存治療群は94.4%、胸腔ドレーン群は98.5%で非劣性であった
・保存治療群の方が再発率、有害事象は少なかった
※中等度〜高度の気胸はCollins法で評価(以下のA+B+C ≧ 6cmで定義)

NEJM 2020(PMID: 31995686)

<エアリークの定量化>

・デジタル胸腔ドレナージシステムは、従来の水封では不可能であったエアリークの定量化が可能
・このシステムは、主に胸部手術後にエアリークが生じた患者を対象に研究されてきたが、気胸の場合、胸腔ドレーンを留置し、エアリークが持続する可能性の高い患者と、エアリークが落ち着いてくる患者を早期に層別化することができるかもしれない

<気管支内弁>

・気管支内弁は、肺気腫の肺活量減少を達成する非外科的手段として利用されており、気胸の持続的なエアリークの治療法として研究されている
・一方通行弁は、気管支鏡検査中に挿入することができ、分節または亜分節気管支に設置すると、遠位気道からの分泌物排泄をはできる状態のまま、遠位肺の虚脱とエアリークの減少を可能にする
・気管支内弁は、持続的なエアリークがある気胸患者40人(そのうち25人はPSP)で研究された
・その結果、93%でエアリークが改善・消失した(48%が完全に消失した)
・この方法は、従来の治療に反応しない患者を管理するための非外科治療として有効な可能性がある

<ブラッドパッチ>

・自己血の胸腔内注入の効果については、進行したCOPDによるSSPで7日間の胸腔ドレナージ後にエアリークが持続する患者44人を対象にRCTで検証された
自己血の注入により、13日後のエアリークを有意に低下させた
・エアリーグが消失したのは、プラセボ投与群では9%(n=1)、血液投与群(1-2mL/kg)では73%(n=16)で、エアリークが少ない患者ほど成功率が高いことが示された
・血液投与により、14%の患者が微熱を呈したが、いずれの場合も抗菌薬投与で速やかに改善した
・この研究により、手術リスクが大きい患者において、化学的胸膜癒着術の代替法としてブラッドパッチが有用であることを示唆している

<外来治療>

・ハイムリッヒバルブは、水封の代わりに胸腔ドレーンに装着することができる一方弁のフラッターバルブ
・気胸の管理において外来治療の選択肢を提供する可能性があり、今後役割が大きくなることが予想される
・救急外来を受診したPSP48人を対象としたRCTでは、ハイムリッヒバルブと穿刺吸引を比較し、入院率はバルブ群で44%(n=11)、穿刺吸引群で61%(n=14)と有意差なく、低い入院率を達成した
・外来での初回フォローでは、肺の完全な再膨張は、バルブ群で24%(n=6)に対し、穿刺吸引群で4%(n=1)であった
・両手技ともに安全であり、忍容性が高く、バルブ群では胸腔ドレーンは平均3.5日で抜去された
・その後のシステマティックレビューでは、ハイムリッヒバルブの全体の成功率は85.8%、外来での治療成功率は77.9%であった
・この治療法は、快適さと入院回避の利点があり、許容される程度の合併症の発生率は1.7%であった

Rocket Pleural Vent
Rocket Pleural Vent

<コメント>
・commonですが忘れたころにやってくる呼吸不全の原因です
・処置が必要になる疾患なので内科としては嫌厭されがちですが適切なマネジメントは知っておきたいです

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