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初発の発作(new-onset seizure)

初めての発作で運ばれて来ることはよく経験します。その場の対応だけでなく、長期的なことも考慮してマネジメントしましょう!
参考文献:JAMA Review 2016(PMID: 28027373)、J Neuro Neurosurg Psychiatry Review 2019(PMID: 30948624)、Lancet Rview 2018(PMID: 32113502)、AAN guidelines 2015(PMID: 25901057)、てんかん診療ガイドライン 2018より

【Take Home Message】
・初発の発作(new-onset seizure)を見た場合には、
①発作に似た疾患、症候の鑑別
②急性症候性発作の除外
③発作の閾値が下がる要因を確認
④「誘引のない発作(unprovoked seizure)」として頭部MRI、脳波を行う
➔初発の発作+頭部MRI/脳波で異常があればてんかんとしてAED(抗てんかん薬)の開始を検討する(てんかんの定義の②)
・本人、家族の希望や患者の年齢、社会背景も考慮してAEDの開始を検討することも重要

<総論>

人口の約10%が生涯に発作を経験するとされている
・その後、てんかんを発症するのはそのうち2~3%のみ
・誘引のない初発の発作が疑われる患者は順序を追った評価を受けるべき

「初発の発作(new-onset seizure)」に対するアプローチ

①「初発の発作」が疑われる場合に発作に類似した症候、疾患を鑑別する(片頭痛、TIA、失神など)
②発熱、神経巣症状、意識変容/障害などがある場合には「急性症候性発作(acute symptomatic seizure)」の可能性について評価
・緊急で血液検査頭部CT/MRI(必要に応じて髄液検査
・入院管理
③過度の睡眠不足、飲酒、薬剤など発作の閾値が下がる要因を確認
・要因があるなら介入
④上記が無ければ「誘引のない発作(unprovoked seizure)」として待機的に脳波検査頭部MRI(てんかんプロトコール)
・てんかんを示唆する所見あれば「てんかん」としてAED導入を検討
・てんかんを示唆する所見がなければAED導入は見送る

「初発の発作(new-onset seizure)」に対するアプローチ

<発作の類似した疾患、症候を鑑別する>

片頭痛、失神、TIA、心因性非てんかん発作(PNES)、運動障害、睡眠障害、パニック発作など鑑別は多岐にわたる(特に特に初発の発作の目撃がない場合)
※メインテーマではないので省略

<急性症候性発作の除外>

急性症候性発作(acute symptomatic seizure)とは、急性全身性疾患、急性代謝性疾患、急性中毒性疾患、急性中枢神経疾患の一症状として発作を来すもの(誘引のある発作)
・死亡率が高く、早急に対応が必要
・治療は原因への介入
・BZD系や短期間のAEDが必要になることもある

てんかん診療ガイドライン 2018

<発作の閾値が下がる状態、薬剤の評価>

睡眠不足、アルコール摂取、違法薬物使用、ストロボライト、ストレス、薬剤など発作の閾値を低下させる要因がないか確認し、介入する

てんかん診療ガイドライン 2018

<誘引のない発作(unprovoked seizure)とは>

以下に該当するものを指す
・原因のない発作
・既知の脳病変に関連して発症する発作
・既知の進行性神経疾患(アルツハイマー型認知症など)に関連して発症する発作
※一言でいうと、急性症候性発作ではない発作

<頭部画像検査>

・MRIの使用が進むに連れ、発作に関連していると考えられる異常の発見率は30%程度
新規の神経巣症状、持続的な精神状態の変化、最近の外傷歴、持続する頭痛など脳の器質的病変が疑われる場合は急性症候性発作の可能性があるため、緊急で頭部画像検査を施行する
・CTは、アクセスのしやすさから通常は最初の画像診断であり、救急外来で初発の発作に対して考慮されるべき
・しかしCTでは、低悪性度グリオーマ海馬硬化症海綿状奇形皮質発達奇形(皮質異形成や脳室周囲異形成)などの特定の病変を見逃すことがある
・誘引のない初発の発作後に、ベースラインの状態に戻り、救急外来の診察が正常で、頭部画像検査(CT、MRI)が正常であれば、待機的に神経内科またはてんかん専門医の評価に加えて、てんかんプロトコールの頭部MRIを行うべき
・てんかんプロトコール頭部MRIは、1~3mmスライスと特殊なシークエンスを含み、特に局所皮質異形成や海馬硬化などの微小病変を検出するために通常のMRIよりも高い感度を有している
・これらの微小病変は、発作の再発リスクが60%以上であることを意味し、初発の発作でもてんかんの診断がなされる

<脳波検査>

発作後30~60分以内に神経機能がベースラインに戻らない意識レベルが変動する器質的病変で説明がつかない巣症状がある初発の発作患者のほとんどが入院し、持続脳波モニタリングを検討する必要がある
・不顕性の発作患者において、30分間のルーチンの脳波検査では50%以下しか検出されないが、急性脳損傷と精神状態の変化を伴う患者において24-36時間の連続脳波モニタリングを行うと90%以上まで増加する

・初発の発作後の標準的な30分の脳波検査は、痙攣のタイプ(焦点性てんかん、全般性てんかん)を決定し、初回発作後の再発リスクを判断するのに有用
・初発の発作患者では、29%が初回の脳波検査でてんかん様異常を示す
発作後の24-48時間以内に行われた脳波検査では、てんかん様異常の発生率がわずかに高い

・明らかに急性症候性発作である患者でも、脳波検査頭部画像検査は重要である可能性がある
・古いデータだが、アルコール離脱発作が疑われた患者の最大30%までに、外傷性障害に関連したてんかんの原因となるような異常を認めた
・初発の急性症候性発作の成人の多くに、全般性発作の遺伝的素因を示唆する脳波異常が認められ、それがさらなる誘引により顕在化する可能性もある

<生化学検査>

・初発の発作患者には、低血糖、尿毒症、薬物中毒、低Na血症のルーチンのスクリーニングが推奨されている(加えてCa、Mgも測定するとよい)
・この推奨は、主に急性症候性発作の頻度が高い救急外来でケアを受ける患者に基づいている
・外来患者を対象とした研究では、血液検査などの有用性は低かった

てんかんの定義(ILAE 2014)

てんかんは以下のいずれかの状態で定義される脳の疾患
①24時間以上あけて少なくとも2回の誘引のない発作を起こした場合
②1回の誘引のない発作があり、10年間に2回の誘引のない発作を起こした場合と同等の一般的な再発リスク(≧60%)がある場合
③てんかん症候群(Lennox-Gastaut症候群など)の診断となった場合

誘引のない発作に関するデータ(AAN guidelines 2015)

誘引のない初発の発作を起こした成人は、最初の2年以内に再発するリスクが高く(21~45%)、特に最初の1年が高い
誘引のない発作を2回以上起こした場合は、発作再発のリスクが1年で57%、4年で73%と高いため、AEDを開始するということが一般的に受け入れられている
・さらに再発の間隔が短いほど、その後の再発リスクが高い

誘引のない初発の発作後に、AEDをすぐに開始すると2年以内の発作の再発リスクは大幅に低下する(約35%低下)がQOLは改善しない
・長期的な予後(約2~5年間)に関しては、AEDをすぐに開始した場合(即時治療)と2回目の痙攣を再発後にAEDを開始した場合(遅延治療)では、再発予防効果は同程度
であった
・誘引のない初発の発作後に、AEDをすぐに開始すると約7-31%で軽度で可逆的な副作用を来す
新規に診断されたてんかん患者にAEDを開始すると63%は発作の再発なく経過する

高齢者の初発の発作について(Lancet Review 2018)

・65歳以上の高齢者では、誘引のない初発の発作であっても、基礎疾患(認知症や脳卒中)がさらなる痙攣を誘発する可能性があるため、AEDの開始を検討する必要があると考えられるようになってきた
・特に、高齢者は発作による潜在的なリスク(骨折、打撲、出血を起こしやすい)があり、初発の発作であってもAEDを開始することは場合によっては妥当と考えられる
・高齢者では、比較的社会的に孤立していることが多いため、発作が目撃されない可能性があり、SUDEP(てんかんにおける予期せぬ突然死)の可能性が高いことと関連している
・高齢者では、副作用や薬物相互作用から使用できるAEDが限られる

「初発のてんかん(new-onset epilepsy)」に対するアプローチ

てんかんの定義を満たす
・1回の「誘引のない発作」とECG/頭部MRIでてんかんを示唆する所見
・2回の「誘引のない発作」
てんかんの種類によってAEDを選択
・焦点性てんかん
 ➔狭域スペクトラムAED(カルバマゼピン、フェニトイン、ラコサミドなど)
 or広域スペクトラムAED(ラモトリギン、レベチラセタム、トピラマート、バルプロ酸、ゾニサミドなど)
・全般性てんかん or てんかんの種類が不明
 ➔広域スペクトラムAED(ラモトリギン、レベチラセタム、トピラマート、バルプロ酸、ゾニサミドなど)
AEDを適切な量まで漸増する
④発作が続く場合は、2剤目のAEDを追加する or 1剤目を漸減・中止し、別のAEDを開始する
⑤それでも発作が続く場合
・1年以上続く場合は、発作の診断を再検討する
・てんかんモニタリングが可能な病院への入院を検討する

「初発のてんかん(new-onset epilepsy)に対するアプローチ」

<コメント>
・新規抗てんかん薬の登場により、副作用や薬物相互作用が少なくなり、AEDを早めに開始するメリットが大きくなりそうです
・ただ「てんかん」という診断を下すことは、本人や周りの人たちにとって大きな影響を与えるため、慎重に行いたいです

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