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ふるさと納税制度から考える地方分権と中央集権

大阪の泉佐野市が新しいふるさと納税の対象から外されたということで、総務省や政府を強く批判しています。

泉佐野市ふるさと納税サイト
http://www.city.izumisano.lg.jp/kakuka/koushitsu/seisaku/menu/furusato/

泉佐野市としては、元のふるさと納税制度において法律の範囲内で頑張っていただけなのに、なぜ非難されて新制度から外されるのか、という不満があるわけですが、総務省からみたらふるさと納税の本来の趣旨から外れているので改善を求めたのに無視されたので新法を作ったのだ、という理屈になります。

どっちが正しいとか判断するつもりはありませんが、どう考えても泉佐野市の分が悪いでしょう。総務省の方が正しいとかいうことではなく、そもそもこの「ふるさと納税制度」辞退がいわば地方間の税収の不均衡を是正するために国が作ったものであり、都会に集中する人口の住民税を地方にばらまくためのものです。国家主導での「住民税の再分配」です。

そもそも地方の過疎化と都会の過密化の問題は、地方から都会に人が移住するから発生します。都会が都会であり続けられるのは人口が多いからですが、この少子化の時代でも都会が人口を増やし続けることが出来るのは地方から人が集まるからです。言い換えると、地方で育った人が大きくなって都会に移住して社会的な生産活動に従事するわけですから、地方で富が発生しません。言葉は悪いですが都会が地方を搾取しているような状態なわけです。当然住民税も人口が多い都会が稼ぐわけですから、地方と都会において住民税が偏在することになります。人口比に従っていると言えばそうですが、都会は地方がなければ存在できません。地方から都会には人も物も移動するので都会が都会たり得るのですが、それがいきすぎると過疎化・過密化の問題が出て地方が衰退し、さらにはいずれは都会も衰退しかねません。

その問題を少しでも減らすために、地方に国から税金を渡しているわけですが、それだけではなくて、地方からの恩恵を受けている都会も地方に金を渡せよ、というのが「ふるさと納税制度」の根本的な主旨です。

この制度によって東京都からはかなり住民税が減り、都知事も文句言っていましたが、都会が都会だけで存在できるわけではないということはさすがに分かっているのではないでしょうか。

ふるさと納税に東京都だけ参加せず「本来の趣旨と違う」
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/16553.html
都によりますと、昨年度に、ふるさと納税で都の税収からほかの自治体に流出した金額はおよそ258億円に上ることが見込まれる一方で、ふるさと納税による都への寄付はほとんどないということです。

そしてその地方がふるさと納税制度で住民税を取り戻すにせよ、「住民税の再分配」を国家の采配で行う以上、地方が国の方針に逆らうのはかなり難しいです。そもそも日本には明治以降、今も昔も地方分権など存在していません。明治政府の国家の成り立ちとしては、封建制の江戸幕府が封建制であるが故に薩長などの雄藩によって倒されて出来た歴史があります。その結果出来た政府が中央の権力を強めるのは当然のことで、そこから戦争・敗戦など経緯はあれど政府機構は地方の都道府県含めて大まかには変わっていません。

その後の昭和・平成を経る中で地方分権の重要性が叫ばれて地方自治体の裁量はある程度増えてきましたが、それでも根本的には日本は中央集権国家です。州ごとに法律・税制・軍隊があるアメリカ合衆国や神聖ローマ帝国の頃から続くような連邦制のドイツとは比べものになりません。

日本においては地方分権・地方自治は語弊があるかも知れませんが、「国のお情け」に留まるレベルです。あくまで中央政府が「この部分は地方に任せよう」と判断したことだけが地方が自由に出来ます。

こう書くと、中央政府や地方自治体をいじめているかのような感じになってしまいますが、地方分権と中央集権を善と悪の関係でとらえること自体正しいのでしょうか?

地方分権=善、中央集権=悪、という図式がそもそも出来上がってしまっている気がします。果たして本当にそうなのか。

地方分権が良いイメージでとらえられがちなのは、下からの政治、すなわち、住民が話し合う町が集まって大きな自治体が出来て、それらが集まって国が出来るという形を理想の政治体制と考える思想が先にあります。

逆に中央集権と聞くと、中央政府が無理な要求を地方に行い、住民の意思を無視するイメージがあるのではないかと思います。

しかし、先にも書きましたが国家の政治体制はその国の成り立ち、歴史とは無関係ではありません。中央集権が絶対的に正しいと言うつもりはありませんが、今の日本がなぜ地方分権が難しいのかは現行政府・政治家・官僚などの悪意や怠慢によるものではないと思うべきでしょう。そもそも地方分権が過ぎることで国家がまとまらず、内乱・内戦の要因になっている国家があることも認識すべきですし、そういう国家から見れば中央政府の権力が弱いことが「悪」でもあるはずです。

なぜ地方分権が実現しないのか、そもそも地方分権は善なのか、これまでの日本の歴史と、現在の日本の状況、そして未来の日本のあるべき形を網羅的に考えないと、結局は感情的な対立だけになってしまうのではないでしょうか。

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