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巨大IT企業を分割して望み通りの結果になるのか?

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれる巨大IT企業が政治家から非難されることが多くなりました。(その政治家が属する国への)納税額が売上に比べて極端に少なく、(その政治家が属する国における)利用者のプライバシーにも配慮せず、Webサービス上において独占的地位を占めるようになったからですので、政治家にとっては当然の行動なのだと思いますが、以下のリンクにあるような、巨大IT企業を強制的に分割して影響力を低下させようという要求は果たして実現するでしょうか?

アマゾンなどハイテク大手解体目指す ウォーレン議員
https://jp.wsj.com/articles/SB10905485610916124090804585169030579930118

まず、この政治的理由による民間企業の強制的分割が出来るかどうかについては、アメリカではAT&Tという実例が存在します。公正取引委員会が電信電話網の独占的地位を疑問視した結果、AT&Tは地域毎に分割されて全米における影響力を低下させました。GAFAによるロビー活動や、便利さを失う利用者からの反発次第では分割は難しいかもしれませんが、大統領と議会の両方が認めれば可能でしょう。

では、分割が実行された結果、それらの巨大IT企業は実際に独占的地位を失うでしょうか?

この点において、政治家が期待するような効果が出ずに、逆に緩やかな連携を持つGAFA派生企業連合のようなものがさらに強大な力を持つ可能性があると思います。

AT&Tのような、広大なインフラを持つ企業が一度インフラごと分割されてしまうと、再度インフラを全米に広げるのは相当困難ですが、GAFAのような、Webサービスにおける展開はあっという間に実行可能です。分割されても物理的なインフラはサーバくらいですのでソフトウェアサービスを新たに大きく広げる制約は、重厚長大産業に比べると非常に少ないはずです。

さらに、現時点でのGAFAたちを分割することによって、かえって企業経営が効率的になり、分割したそれぞれが巨大になる可能性もあります。

巨大であることは抱える事業同士で密接な連携を取ることで事業間は低コストでサービスを展開できますが、その分、他社から受け取る対価を受け取っていないとも言えます。分割してそれぞれが独立し、提供するサービスに応じた正当な対価を正確に受け取ることが出来たら、伸びる事業は今以上に伸びることになります。

AmazonもGoogleもFacebookもAppleも、いくつもの事業体を抱えている。
Amazonはネットショッピング(物販、デジタルデータ、ストリーミング)とサーバ事業(AWS)、
Googleはウェブ広告、サーバ事業(GCC)、Androidなど、
FacebookはFacebookとInstagramの二大SNSを抱えています。
Appleは、ハードウェア販売が本体ですが、ハードと密接につながったウェブサービス(AppleMusic、iTunes、アプリストア)からも大きな売り上げがあります。

こういった各事業部門のそれぞれが分割されて独立した企業になることによって、高収益部門はお荷物部門の負担から解放されてさらに巨大になる懸念はないのでしょうか?

事業部門レベルではなく、それぞれがCEOを抱えてトップからの意思決定が迅速化することで今以上に巨大化してそれぞれの分野で独占的地位を占める恐れはないのでしょうか?

巨大企業に批判的な人たちにとって、GAFAのような存在はモンスターのようなものかも知れませんが、モンスターと異なり、分割されてもそれぞれが存続し続けます。

9つの頭を持つヒュドラは確かにとんでもない災厄ですが、災厄としては1つです。もし、その頭ごとに分割した後にそれぞれが独立した怪物としてバラバラに移動するとしたら災厄が9つに増えることになります。しかもそれぞれが成長していくのですから、本当に分割した方がいいのかどうかは考えるべきでしょう。

非効率部門を抱えた状態で巨大企業として存在させておいて、その状態で政府として制約をかける方が、本来の目的を達成しやすいかもしれません。分割が手段ではなく目的とならないように、言い換えると、GAFA分割自体が政治家の政治的業績とならないように注意すべきです。また、政治家側の要求にしたがって分割された後の各企業が、いわば政府のお墨付きを得たような印象を与えてしまう危険性もあるのではないでしょうか?

巨大IT企業がもたらすメリットよりもデメリットが大きいと考えて、分割・解体させようとしているのだと思いますが、果たして本当にそれによって目的が達せられるのかどうか、政治家も政府も利用者もしっかり考えた方がいいでしょうし、それは日本人としても対岸の火事ではなく、思考テストとして考えていても損は無いでしょう。

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