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BREXITに直面した離脱派・賛成派・メイ政権の行き詰まり

 メイ首相とEUとでまとめた離脱合意案がイギリス議会で否決というか一蹴され、しかも再考案の取りまとめに対してEU側からも一蹴されたことにより、イギリスがEUから離脱するブレグジット、しかも合意無き離脱(ハードブレグジット)が目前に迫ってきました。キャメロン政権による国民投票に基づく選択ですので、世界に誇る民主主義国家であるイギリスとしても再度の国民投票を実施するのは難しいでしょう。再度の国民投票を実施してしまえば、国民投票の結果が政府や議会が望まない結果になった場合に、何度でも繰り返して国民投票を行うことが出来るという、とんでもない悪例を生み出してしまうからです。
 左右両極にいる人達以外はみんな「ヤバいよヤバいよ」と出川哲朗並の焦りを抱えながら悩み続けていることと思いますが、EUとの交渉ではEUから
「おまえが勝手に脱退すると言っているんだからおまえの事情なんか知らん」
と言われるし、脱退賛成派からは
「傍若無人なEUの言うことなんか聞く必要は無い。大英帝国バンザイ!」
と無視されるし、脱退反対派からは
「脱退とかあり得ないから国民投票やり直せ。民意尊重とかどうでもいい」
とイギリス民主主義の歴史を否定されるメイ内閣はかわいそうというか、火中の栗どころか火中のドラゴンを拾わされているような感じです。そもそもあのEU離脱国民投票自体がとんでもない悪手でした。キャメロン前首相にしてみたら、スコットランド独立運動を国民投票の結果という錦の御旗で押さえ込んだ成功体験があったから自信があったのでしょうが、二匹目のドジョウはいなかったわけです。この国民投票に関しては後世に1930年代のナチスドイツに対する宥和政策並に批判されるのではないでしょうか。とりあえずメイ首相はキャメロン前首相を2、3発殴ってもいいんじゃないかなと個人的には思います。

 国民投票後に首相になったテリーザ・メイにしてみたらたまったもんじゃないですが、そもそもこのブレグジットを進めた(勧めた)人達はどのようにEUを離脱するのかということまでは考えていなかったのではないでしょうか。
 そもそもEU設立時には離脱条項が定められていませんでした。後になって決められましたが、離脱にあたって発生する膨大な問題の解決方法は未策定のままでした。そしてその状況下であっても、EU離脱派は「とりあえず離脱すれば何とかなる、いや離脱しなければならないんだ!」という主張しかせず、EUに所属しているせいでイギリスは損しているのだ、という一部フェイク混じりの意見を繰り返しました。また、今もとりあえず、とにかく離脱してしまえばいい、という主張ばかりしています。

 一方、離脱反対つまりEU残留派は、そもそも国民投票で離脱が決まるなんて夢にも思っていませんでした。トランプ当選と同じく、エスタブリッシュメントまたはエリート層が一般大衆の気持ちを理解していなかった、とよく言われるゆえんではありますが、ブレグジットもトランプ当選も投票結果で大差が付いたわけではなく、僅差での結果です。イギリスもアメリカも国民の半分近くがエスタブリッシュメントなわけはなくて、EU残留を望む人がエスタブリッシュメント層だけではなく、収入的には中位から下位においてもそれなりにはいたはずです。逆に、エスタブリッシュメントの中にも保守的な考えを持っている人間が、投票結果を見る限りはそれなりにいたはずです。そこの部分も読み間違っていたのだと思います。国民投票の再実施を求める人達は、多分今もその点を読み間違え続けているのではないでしょうか。もう一回国民投票を実施して、そこでもし、僅差だろうとなんだろうと離脱多数になったら残留派は息の根を止められます。存在理由がなくなってしまいます。離脱後の復帰のハードルも止めどなく高くなります。

 結局のところ、EU離脱賛成派も反対派も従来の主張をずっと繰り広げているだけで、双方が双方に妥協しようとしているようには見えません。ひょっとしたら内心ではどちらも「ヤバいよヤバいよ」とビビっているのかも知れませんが、表に出したら負けだとヤンキー顔負けの情けない状況なのかも知れません。このまま行けば、合意無き離脱となり、政治や経済が個人レベルでも国家レベルでも大混乱が待っているかも知れません。いや、実は混乱したとしてもたいしたことは無いかも知れません(個人的には北アイルランド国境におけるバックストップの問題があるから混乱しないわけがないとは思っています。バックストップについては、ニューズウィークで読んだ記事が分かりやすかったです)。混乱が大規模でも小規模でも、時の政権が対症療法的なものであったとしても適切に対応出来れば、その後には何とか収まるのでは無いかと思いますが、現在のメイ政権ではどうかなあ・・・微妙な感じがします。

 そもそもテリーザ・メイ首相は、キャメロン政権時の国民投票時には残留派だった人です。そして離脱を選択した国民投票の結果を受けてキャメロン政権が倒れた後に、EU離脱を実行するための政権を担当することになりました。政治家としてはもともとはEU懐疑派だったそうですが、それにしてもこの時点で矛盾しています。離脱に反対していた人が離脱を実行しようとしても誰が協力してくれるでしょうか。反対派からは裏切り者のように扱われ、賛成派からは寝返ってきただけのようにあしらわれるのは目に見えていたはずでした。
 他に首相のなり手がなかったのでしょうが、苦難の道のりに突っ込むにはあまりに無防備でした。いっそのこと、離脱を強硬に主張していた連中の中から適当に選んで(おそらくその場合はボリス・ジョンソンになっていたでしょう)、政権運営させて何も合意できずボロボロの状態になってから、再度離脱反対派として政権を運営して、離脱賛成派の合意を得た上で再度の国民投票という流れに持って行ければ、EUに残留することになっていたでしょう。
 今後のメイ首相としてはもうやれることはありません。事態を打開するウルトラCのようなものは見当たりません。苦心してEUとまとめた離脱案を議会で大差で否定されたときに辞職するべきだったと思います。もしくは、つい先日、EUで再交渉を拒否されたときにも辞職のタイミングが合ったと思います。しかしどちらのタイミングでも辞めませんでした。ある意味タフな政治家だと思いますが、このままハードブレグジットに直面して混乱の中に辞職するよりはマシだったと思います。
 今からそんな繰り言を述べたところで岡目八目に過ぎませんが、そういう策略を選択できなかったのは、メイ首相があまりに真面目すぎてもったいないことをしたという歴史的評価を下されるのではないでしょうか。

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