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日本核抑止私論〜核武装と核シェルター配備〜

 素人が素人なりに核抑止について考えてみればどのような思考をたどるか、ということを文章化してみました。専門家の方が素人の人に核抑止や核兵器の運用について説明するときの参考にしてもらえるなら幸いです。

 以前、インドとパキスタンの間での紛争が発生した際にこんな記事を投稿しました。

核戦争の可能性と抑止力
https://note.mu/hrsgmb/n/n51e40d99b691

 その中では、個人的な意見として印パ間での核戦争の可能性は低い、と書きました。そしてその最後に、極東での核戦争・核攻撃について少し触れましたが、この記事はその先行記事を踏まえての私論となりますのでお時間があればお読みください。

核兵器による被害を防ぐには


 さて、先日二度目の米朝首脳会談がベトナムで行われましたが、予定を繰り上げて中止するほどの双方の主張の食い違いにより、事実上の決裂した会談となりました。結局北朝鮮は核兵器を所有したままであり、日本としても脅威が消えずに残り続けています。日本が核兵器による三度目の惨禍に遭うことは考えたくありませんが、現実問題として「東京を火の海にしてやる」と主張する国家元首がいる隣国が核兵器とミサイルを所有しているのですから、いかにして核攻撃を防ぐかということを考えざるを得ません。

 核兵器による被害を防ぐ方法としては、

A 核攻撃されないようにする
B 核攻撃されても被害を防げるようにする

 このAB二つがあります。Aはいわゆる核抑止です。核抑止を成立させるためには、核攻撃を考えている国に核による報復を恐れさせる必要がありますから、核兵器が必要になります。

 そこでさらにAが二つに分かれます。

A-1 同盟関係にあるアメリカによる報復核攻撃の可能性による核抑止
A-2 日本が独自の核武装して報復核攻撃の可能性による核抑止

アメリカの報復核攻撃による核抑止

 現在、日米安全保障条約によって日米は軍事同盟の関係にありますので、上記A-1が現時点で採用されている選択肢となります。この選択肢の問題点は、「実際にアメリカが日本のために報復核攻撃を行ってくれるのか」そして「アメリカによる報復を北朝鮮が恐れるか」ということです。

 まずは前者の「実際にアメリカが日本のために報復核攻撃を行ってくれるのか」という点が実行されないパターンを考えてみましょう。すなわち、アメリカが日本を見捨てる状況が発生するということですから、アメリカ国内で極端な孤立主義が発生した状況になります。そうなると、その状況を「日米安保が無くなるのならNATOも形をなさないだろう」という推測の元に、ロシアが例えヨーロッパに対して好き勝手な行動を取ってもアメリカは関知しない、というシグナルとしてロシアが受け取ってしまう可能性があります。そうなると極東だけでなくヨーロッパでも、あるいは中東でもアメリカという重しが無くなったことによって、世界中に戦争の可能性が発生してしまい、それは結局世界中の経済に関わりがあるアメリカの経済をも破壊してしまいます。そうなっては結局孤立主義を取った意味が無くなりますから、アメリカが情勢の変化、特に日本側が日米安保を極端に拒絶しない限りは関わり続けるはずです。つまり、「実際にアメリカが日本のために報復核攻撃を行ってくれるのか」という点に対して疑念はありません。

 もう一つ、「アメリカによる報復を北朝鮮が恐れるか」ということですが、これもまさに米朝首脳会談が実施される理由であり、北朝鮮はアメリカにガチンコの武力でも核戦力でも到底かないません。軍事同盟を交わしている中国や、アメリカと敵対するロシアが北朝鮮を助ける可能性はあります。ベネズエラやシリアでのアメリカと中露の対立を考えると可能性がありそうな気がしますが、しかしそれらはアメリカが防衛側ではありません。北朝鮮が先制核使用した場合はアメリカと日本は防衛側に回るわけで、その場合、中露が侵略側の北朝鮮を守ることでアメリカとの戦争状態に陥る不利益を考えるでしょう。と考えてみると、これも可能性は非常に低いでしょう。こうしてみると、日米安保が堅持され、かつ極東における米軍戦力が維持できていれば問題無さそうです。逆に言うと、日米安保が危機に陥り、米軍が極東から大幅に撤退するようになると、日本が北朝鮮の脅威にさらされることになります。

日本の核武装化による核抑止


 次に、A-2にある、日本独自の核武装を必要とする状況を考えてみましょう。

 前述の、A-1が成立する条件や理由がひっくり返された場合がそれにあたります。すなわち、アメリカが日米安保の破棄や無効を宣言し、米軍だけでなく国連軍も多国籍軍も有志連合も北朝鮮に対して懲罰的軍事侵攻を行わない、ということを北朝鮮が認識した場合です。言い換えると、日本に核攻撃しても核による報復の可能性が無いと北朝鮮が判断する、ということです。

 もちろん日本政府としてはそうならないようにしなければなりませんし、そうなる可能性も無いとは思いたいですが、もしそうなってしまったら日本独自の核抑止を実行せざるを得ません。そこで核武装ということになるのですが、果たして実現可能でしょうか?

 まず、核兵器の所有が憲法違反になるかどうかという問題が出てきます。日本国憲法第9条の条文解釈に踏み込むととてもじゃないですが簡単に結論なんて出せませんが、核抑止のための核兵器所有を単なる防衛戦力というのはかなり無理がある気がします。言い換えると、専守防衛の概念をどのように解釈するかによって、敵基地攻撃戦力の保持が合憲と違憲を分けますが、報復核攻撃のための核兵器を現行憲法での合憲範囲と考えることが出来るかどうか、ということになります。合憲だと政権が判断し、総選挙などでも有権者からの支持(あくまで間接的ですが)があればいいですが、違憲だと政権あるいは有権者が判断することになると憲法改正が必要となります。核武装だけではなく再軍備にも踏み込むことになるようでしたら改憲には相当な時間と労力がかかることは容易に想像できます。

 さらに現在、自衛隊には核兵器は存在しませんから、原子力に関する研究機関や発電所における運用から転用して兵器として開発する必要があります。また、北朝鮮でもそうですが核兵器を研究するだけでは駄目で、実際の利用可能性を高めるために核実験が必要です。しかし、今の日本には核実験を行えるような場所はありません。自衛隊や在日米軍の訓練場は、その周りを民家や農地が囲んでいますので、核実験による影響が及んだ場合に大問題になります。表面的な被害(山崩れなど)だけではなく、地下水脈を断ち切ったり放射性物質が地下水脈に流れ込んだりすれば反対運動は激化するのは間違いありません。だからこそ、アメリカやフランスは原水爆実験を自国の本土内ではなく、植民地だった諸島沖で行いました。そして、日本の第五福竜丸の被害はその中で起こりました。日本「国土」が核兵器の被害に見舞われたのは広島と長崎の二回ですが、日本「人」が核兵器の被害に遭ったのは広島・長崎・第五福竜丸の三回です。この点は忘れてはいけません。その日本が太平洋だろうと日本海だろうと海洋での核実験を行うと、国内での反発はとてつもないものになるでしょうし、さらにこのご時世に他国にも影響が及ぶ海洋核実験はその周辺諸国からの非難も大きいはずです。

 陸地だろうと海だろうと、今の日本に核実験をおこなうのは技術的な問題よりも、核実験場の確保とその影響に対しての国内外からの反対が大きすぎます。そういった反対派や反対論を左翼だ平和ボケだと非難するのは無理があります。日本は核兵器の被害を「三度」体験した国家なのです。「四度目」の核攻撃を防ぐための方策は検討されてしかるべきですが、そのための核抑止として日本が核武装すべきかどうか、という点を忌憚なく議論すべきです。そしてそれは、賛成論を軍国主義とレッテルを貼るべきではないのと同様に、反対論を平和ボケとレッテルを貼るべきではないのです。

 こうした推論により、現状の日本では核武装をおこなうには非常に困難が伴うと判断せざるを得ません。さらに、ここまでのところでは費用の面を考慮していません。コストパフォーマンスを議論する以前での問題が多すぎると言えます。核実験の問題をクリア出来たとしても、それをなんらかの手段で敵地に撃ち込む能力を持たないと意味がありませんから、ミサイル技術も持たないといけません。単に発射するだけでなく、敵の迎撃ミサイルをかいくぐり、標的に確実に着弾するように誘導する技術も必要です。さらに、核ミサイルを管理する費用も通常の兵器よりもはるかに高くなります。もしテロリストに奪われたら大問題ですし、核ミサイルやその工場、管理場所にテロ攻撃を行われたら、核攻撃を受けたようなものです。それを防ぐには通常の爆弾やミサイルなどの兵器よりも厳重に防備・管理が必要ですから、その分さらにコストがかかります。北朝鮮のような国家体制であれば、実験も管理も国家的強制でどうとでもなるのかも知れませんが、現代日本ではそうはいかないでしょう。こうした点を踏まえると、核武装には技術・反発・費用の点でかなり非現実的と言えます。

核攻撃されても被害を受けないようにするには


 ではもう一つの選択肢である、
B 核攻撃されても被害を防げるようにする
 こちらを考えてみましょう。このBも二つのパターンに分かれます。

B−1 核攻撃を受けても核シェルターで人的被害を防ぐ
B−2 核攻撃を着弾前に防ぐ

 この二つですが、まずはB−1の核シェルターについて。

核シェルターによる防衛


 まず、核シェルターを日本中に配備するのに必要なコストはいくらでしょうか?

 例えば、日本の各世帯(5000万と仮定します)に核シェルターを配備するとします。核シェルターは大きさ・機能・値段はピンキリですが、とりあえず1機あたりの生産コストと設置コストを500万円としますと、5000万世帯×500万円ですから、250兆円になります。世帯だけでなく、公共施設、交通機関、学校や企業など家庭以外にも設置することになるとトータルでは500兆円と見積もってもおかしくないでしょう。生産にかかる時間、材料調達にかかる時間、設置にかかる時間、そして費用をひねり出す時間を考えると1年2年で出来ることではありません。10年でも厳しいでしょうし、そもそもスペースに余裕がないのが大半の日本の家庭のどこに設置するのだ、という問題もあります。

 そういった難問をクリアできたとしても、長期間にわたって少しずつ核シェルターを配備していくのは少しずつ核保有国(この場合は北朝鮮)に控えめなプレッシャーを与え続けることになります。すなわち、「このままでは自分が持っている核攻撃力が無力化されてしまう」と北朝鮮が判断すると、「じゃあシェルターが完全配備する前にやってしまおう」という判断を下す可能性が増える、ということです。言い換えると、核シェルターの完全配備も挑発行為となるというジレンマが存在します。完全防御の中で相手国に対して無理な要求をすることが可能になるからです。「挑発するつもりなんてありません。あくまで自国を防衛するためです」という理屈が通るとは限りません。

 例えば、日本が北朝鮮の核兵器の被害を無力化できるシェルターを完全配備した後に、日米が共同して北朝鮮を徹底的に経済制裁し、瀬取りも出来ないように海洋封鎖し、軍事衛星を使って陸上ルートも中露に警告する、といったような締め付けをするとします。完全な経済制裁により北朝鮮はこのままだと国家が崩壊するので近場の日本に核攻撃するぞ!と日米を脅しても効果が無い、という状態となります。北朝鮮から見たら、日本が各シェルター完全配備するのは自分たちを完全に締め付けるために行うのだ、と判断してもおかしくない理屈になります。すなわち、専守防衛していれば他国を挑発しないことにはならないのです。

 自国の防衛を自国だけで行うようになるのは独立国家としていいことのように思えますが、前段で書いたように他国からは危険視される可能性があります。話は少しそれますが、それと同じことは軍事面だけではなく、食料やエネルギーの自給率も同じ理屈を展開できます。

 例えば、国民すべての食料を自国で全て生産できて賄える場合、他国からの輸入がストップしても生きていけるわけですから、経済制裁による食糧難は発生しません。同じくエネルギーに関しても、原油や石炭あるいはウランやプルトニウムを自国で生産出来る国は、経済制裁でそれらの輸入が出来なくなってもエネルギーに困ることはありません。自給率が高い国は侵略戦争を仕掛けても国際社会による経済制裁をものともしないということになります。その場合の抑止力としては物理的な報復攻撃もしくは国連軍や多国籍軍・有志連合といった諸国による軍事介入しかありません。逆に言うと、国家や国民が存続していくために必要なモノを他国に大きく依存している国は、他国に対して戦争を仕掛けるような真似はしづらいということになります。非常に重要な物資あるいはサービス(現在ですとインターネットなど)を他国に高レベルで依存しているという状態は、非常時に国家の存続が不安定化するというデメリットはありますが、他国から、また同じように自国民も、「そこまで他国に依存している国家は馬鹿げた戦争を行えないはずだ」という認識を持つというメリットもあります。その他国への依存を複数の国それぞれが同じように依存関係を持っている状況、相互依存が複雑に絡み合っている状況を作り出せば、どの国も侵略戦争が出来ないということになります。もちろん、現実にはそう上手く行くわけではありませんが、完全に依存しない国同士が並んでいるよりも、お互いに相手に依存している国同士が並んでいる場合は戦争は起こりづらいという理屈は理解しやすいと思います。

 また、核シェルターで防げるのは基本的に人的被害のみです。その他の農業生産や工業生産における被害は防げません。その後の経済的な損失は計算できないレベルかも知れませんし、放射能汚染された農産物を避けるために食料を大量に輸入する必要があります。核シェルターで生き残ってもその後には相当な困難が待ち構えているのです。

迎撃ミサイルによる防衛


 では、核シェルターを設置せず、かつ報復核攻撃による核抑止も選択しないのであれば、残るは核攻撃を受けた際に、日本国内に着弾する前にミサイルを無力化するしかありません。日本近海に配備される日米のイージス艦および国内での配備が決まったイージス・アショアをはじめとする、各種の迎撃システムによって核ミサイルが日本に到達する前に、空中で破壊するということです。しかし、これは素人考えでも分かりますが相当に難しいはずです。サダム・フセイン率いるイラク軍によるクウェートへの侵攻から始まった湾岸戦争では、イラク国内からアメリカの同盟国であるイスラエルに向けて多数のスカッドミサイルが放たれました。当時の米軍発表及びアメリカメディアからの情報では、スカッドミサイルの大半を最新鋭のパトリオット迎撃ミサイルによって撃ち落とした、ということになっていましたが、時間が経ってみますと実はそれほど迎撃率は高くなかったと言われています。イラクからイスラエルまでのミサイルであれば高高度を飛ばすわけではないですがそれでも難しかったということです。北朝鮮から日本に発射される高高度からの攻撃はさらに迎撃が困難になります。湾岸戦争から三十年近く経っていますから迎撃システムも進歩しているはずですが、攻撃する側のシステムも進歩していると考えるべきです。

 また、仮に迎撃出来たとしても、核ミサイルが消えて無くなるわけではなく小さく飛び散るわけですから、破片が地上に落ちるという問題があります。普通のミサイルであれば最悪、直撃しない限り人が死ぬことはありませんが、放射性物質が広範囲に拡散するとなるとこれはこれで問題です。核兵器の実戦投入以来、核ミサイルを迎撃した際にどのような被害が出るか、という事例は存在しません。シミュレーションしか出来ない上に、そもそも本当に迎撃できるのかという問題があるのですから、かなり不安を抱える防衛システムということになってしまいます。ただ、出来るかどうかは別として、「防衛できる!」と口先だけでも宣言してしまえば、核攻撃しようとする側に対しての多少の牽制にはなるでしょう。迎撃出来るかも知れないし、出来ないかも知れない、という状況を作ってしまえば、相手側が先制核攻撃するのに躊躇する理由にはなります。

日本だけが狙われるのか?


 北朝鮮が既に核保有国になってしまった以上、それを前提としてどうやって非核化するか、あるいは核攻撃の行使をどうやって制止するかということを考えなくてはなりません。四半世紀に及び、国際社会は北朝鮮の核開発を止められませんでした。その報いを受けています。止めるべき時に止めないとより大きな被害が出るということは、ナチスドイツに対する宥和政策の失敗で人類は学んだはずなのですが。

 そもそも、北朝鮮が核兵器を理性的に所有していて困るのは日本とアメリカだけです。ロシアや中国にしてみたら日米への強力な牽制材料になりますし、韓国は現政権の文在寅大統領は北朝鮮に非常に融和的です。アメリカにしてみても、北朝鮮がICBMを使ってアメリカに核攻撃してくる手段のみ潰してしまえばそれ以上極東情勢に積極的に関わらなくてもいい、と考えてもおかしくありません。トランプ大統領によるアメリカファーストという理念が、次の大統領も持たないとは限りません。状況が変わらなければ同じような選択肢を有権者が選ぶ可能性は大いにあるはずです。北朝鮮と決定的に対立する可能性があるのは日本だけなのです。

 日本が北朝鮮と決定的に対立せざるを得ないのは、冷戦時代における日本人拉致問題が存在することが大きな要因です。拉致問題に限らず、問題が発生した場合に迅速に対応しないと解決するのが困難になるのは自明の理です。時間が経てば経つほど証拠が減る一方で既成事実が積み上がり、元の状態に戻すことよりも現状を是認し維持する状況が形成されてしまいます。日本人拉致問題が小泉政権下で一気に進展したことの方が驚きであって、数十年も経ってしまえば進展がないのも無理からぬところです。もちろんその状態を肯定するわけにはいきませんが、拉致問題をすんなり解決できる政権がすぐに出てくる可能性は低いでしょう。

 話が少しそれました。冒頭でも書きましたが過去のこちらの記事

核戦争の可能性と抑止力
https://note.mu/hrsgmb/n/n51e40d99b691

 で検討したように、北朝鮮が近年のうちに核攻撃するとしたら対象は日本しかありません。日本以外を攻撃する条件としては、韓国でまた政権交代が起こり右寄りの大統領が北朝鮮に対して強硬手段に出るとか、中国が米中の緩衝地帯としての北朝鮮を直接支配しようと試みるとか、同じくロシアが米露の緩衝地帯としての北朝鮮を直接支配して不凍港を手に入れようとするとか、アメリカがこれ以上の強硬な対応を北朝鮮に取るとか、ということになりますが、どれも当分は無さそうです。

 ロシアにしても中国にしても、北朝鮮を占領しても旨みがありません。地下資源はありますが直接手に入れるよりも、経済制裁によるジリ貧で背に腹はかえられない状態の北朝鮮が極限まで下げた人件費で採掘したものを購入した方が安くつきます。プーチンや習近平が政権を問題なく維持できて理性を保っている限りは北朝鮮侵攻のような暴挙には出ないでしょう。北朝鮮が問題を起こして日米が対応に苦慮している状態が続けば続くほど、中露にとっては有利ですからこのまま放置し続けて、時々経済制裁をかいくぐって禁輸して北朝鮮の息の根が止まらないようにするはずです。

 韓国では文在寅が経済政策に失敗しつつあります。支持率も低下していますが政権を維持できないほどかというとそこまでではありません。そもそも前任の朴槿恵が辞めざるを得なくなったのはセウォル号事故で不満が高まった中での側近スキャンダルに火がついて、大規模なデモが発生して抑えられなくなったからです。もちろんそのような状況が現政権で起きないとは限りませんが、例え起きて政権交代が実現したとしても、その後の保守政権がどこまで極端に北朝鮮を追い詰めるか、というと難しいでしょう。度重なる左右の転換は国力を大いに損じますので、国家を立て直す時間が必要です。

 アメリカがさらに強硬手段を取るというのも考えづらいでしょう。トランプが2期目の選挙で負けて民主党政権になったとしても、あるいは共和党内部での指名選挙で負けるにしても、新大統領がいきなり強硬手段に出るというのは難しいはずです。前段の韓国の場合と同様、トランプ時代に引っかき回された連邦政府の立て直しが必要なはずです。そもそもトランプが次の選挙で負けると決まったわけではありません。中間選挙で共和党は下院で敗れましたが、中間選挙は政権与党が負ける傾向がありますのでこれをもって2020年の大統領選挙の前哨戦とするべきではありません。そして大統領の2期目の選挙は現職が勝つ可能性が非常に高い歴史があります。2期目の選挙で負けたのは直近では1992年のブッシュ(父ブッシュです)ですし、その前となると1980年のカーターです。そしてトランプが似せようとしているレーガンは1984年の2期目の選挙で歴史的大勝利を収めました。トランプもそうならないと誰が言えるでしょうか? 選挙以外での交代の可能性としては弾劾による辞任がありますが、トランプはロシア疑惑でずっと叩かれていても弾劾に至るほどの決定的な状況までには至っていません。こちらの可能性も低そうです。

 結局、北朝鮮の周辺国である日米韓中露のうち、米韓中露は大きく情勢が変わる可能性は少ないです。情勢が変わらなければ唐突に対北朝鮮政策が変わる可能性もありません。当面は北朝鮮の最大のターゲットは日本であり続けるでしょう。

4つのパターンのまとめ


 ここまで合計4パターンを考えました。①アメリカの核に頼るか、②日本独自に核武装するか、③核シェルターでやり過ごすか、④迎撃ミサイルで撃ち落とすかの4つです。

①アメリカの核に頼るというのは現状維持を意味します。

②日本独自の核武装は例え技術面がクリアできたとしても、改憲や費用面や核実験、反対運動など困難が目に見えています。

③核シェルターでやり過ごすにしても、被害がゼロになるわけではないですし、これもまた多額の費用がかかります。

④迎撃ミサイルについては、実効性がどこまであるのか、破片をどうするのかという問題があります。

 結局のところどれも問題があります。実効性、費用負担、法律面、国内での反対への対応、国際社会における非難への対応といった諸問題を総合的に見て、戦後日本の歴代政権はアメリカの核の傘に入るという選択肢を取り続けてきました。他国に自国の防衛を委ねるという選択肢ではありますが、少なくとも費用的には安くつき、かつ冷戦構造の中では実効性が確実なものでありました。ただし、それが無条件でいつまでも選べる選択肢であるとは誰も保証してくれません。アメリカ合衆国が今後もこれまで同様の国是を持ち続けるとは限りません。極端な例ですが、トランプ大統領が日米安保を保持したいなら毎年今の10倍の駐留経費を払え、と要求してきた場合、日本政府として応じるでしょうか? 仮に応じたとしてもその次に20倍払え、50倍払え、と言ってきたらどうするべきでしょうか? もしも①以外の選択肢を選ばないといけなくなったときのために、この私論を少しでも思い出してもらえれば嬉しいです。

最後に


 最後に余談ですが、核武装や核抑止の話を少しでも行うと帝国主義者や侵略戦争を美化する人間とレッテル貼りするのはいかがなものかと思います。自分たちが所有していなくても核兵器がどのように使われる可能性があるのか、使われないようにするにはどうすれば良いのか、ということはどんなに議論しても語り尽くせるものではありません。それを全く議論しないというのは思考停止そのものです。核武装にしろ核抑止にしろ、反対派としてはそれがメリットが少なく国益に適さない、という論旨で相手を説得すべきです。

 同じことは核武装論者にしても言えます。何のために核武装するのか、核武装することによるメリットとデメリットを冷静に判断した上で、それでもなお核武装を主張するのか。他の大国が核保有国であることや、周辺諸国が核武装していることが本当に自国の核武装の論拠になるのか。核武装せずに核抑止力を行使することは本当に出来ないのか。そういったことまで考えているでしょうか。まさか自尊心のためだけに核武装したいとか思っていませんよね?

 軍事も外交も安保問題も完全に素人ではありますが素人なりに考えてみました。お読みいただきましてありがとうございました。

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