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HUAWEIを中国政府はかばいきるのか、切り捨てるのか

米中貿易戦争が、HUAWEIを大々的に巻き込んで本格化しているような雰囲気がありますが、HUAWEI躍進の一つになったスマートフォンのリリースが今後は厳しくなりそうな感じですね。

ファーウェイの既存製品でサービスは今後も使える――グーグルがコメント
https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1185344.html

HUAWEIのスマホもAndroidを利用している製品ですが、Androidといっても大雑把に分けると2種類に分けられます。一つは、Googleのお墨付きというか、GooglePlayやGoogleMapなど、Google純正のアプリやサービスをフル活用できるAndroidと、AOSP(Android Open Source Project)といってAndroidの中身を使いつつもGoogleサービスを利用しない形でのAndroidがあります。当然ながら前者の方が使い勝手が良いわけですが、その代わりにそのスマホを売るにはメーカーがGoogleに手数料を払わなければいけません。そのため、非常に安く売ることが目的のスマートフォンでは後者のタイプで販売されていることもあります。その場合、GooglePlayは利用出来ませんが、アプリ単体(いわゆる野良アプリ)ではインストールは出来ますし、Google以外の会社が提供しているアプリストアを用いることもできます。

SHARPにしろSONYにしろSamsungにしろHUAWEIにしろ、メジャーメーカーのAndroidスマートフォンは前者のAndroidで提供しています。当然ながら前者と後者では信頼度(特にアプリストア)が格段に異なります。

GooglePlayではないアプリストア経由でアプリをインストールするのは、そのアプリの信頼性が担保されていないことから非常に危険な行為ということになります。

そんなわけで、今回のHUAWEIがAndroidを正式利用出来なくなる、というニュースはそれなりに大きな問題ではあるのですが、しかしHUAWEIがアプリストアと立ち上げて便利なアプリを集め、そのアプリの信頼性をHUAWEIが担保すれば済む問題でもあります。

ファーウェイは大丈夫なのか? Playストアに替わる独自ストアを準備済み
https://www.gizmodo.jp/2019/05/huawei-app-gallery.html

Androidのプロジェクトそのものはオープンソースとして無償で公開されていますので誰でも利用出来ます。ただGoogleサービスを利用するならお金を払ってね、というのがGoogleのビジネスとなっています。HUAWEIクラスの企業であれば、AOSPを利用してAndroidベースの独自OSを自社スマホに搭載するのは費用を度外視すれば難しいことではないでしょう。ただ、Googleサービスを利用したい人達にはスマホが売れなくなりますから、中国国内はともかく日本やアメリカでの販売は大きく制限されるのは確実です。

しかし、更に大きな問題として、Arm社がHUAWEIとの事実上の取引停止というニュースが出てきました。

Arm、ファーウェイへのライセンス供与停止報道にコメント
https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1186086.html

Armという会社は先年にソフトバンクが2016年に巨額買収したことで一般的にも有名になりましたが、主にモバイル機器で利用されるプロセッサ(中心的な計算を行う部品)の設計を行う会社です。このArmが提供している設計によってAppleやクアルコムといった会社が現物としてのプロセッサを開発し、それを各スマートフォンが組み込んでスマホが動いている、ということになります。

スマートフォンのハードウェア部分の大元の設計をしているのがArm社ということになりますが、プロセッサ自体、今ではHUAWEIがArm社からライセンス提供してもらって開発して自社スマホに搭載していました。これにより利益率の改善もあり、プロセッサを輸入する必要も無くなるため中国の安保上の利点もあったはずです。

このArm社からのライセンス供与停止は、そのHUAWEI製プロセッサの大元をぶった切るような話ですので、かなりHUAWEIを苦しめるのでは無いかと思います。一昔前ですと、IntelのATOMを採用したスマホやタブレットもあったのですが、ATOM自体をIntelが製造停止してしまった今ではすぐに解決策が見つかるとは思えません。

プロセッサの設計から始めるというのも相当無理な話です。超高密度になった現代のプロセッサを、他社の特許を侵害せずに一から開発する困難さは想像を絶するはずです。そしてそのプロセッサで独自OSを作らないといけませんが、そのプロセッサとOSではこれまでのAndroidアプリを動かす工夫も必要です。HUAWEIはソフトウェア(Android)とハードウェア(Arm)の両面から締め上げられていることになります。

チップ製造最大手のTSMC、Huaweiと取り引き続けると発表
https://iphone-mania.jp/news-248504/
自家製チップといっても何から何までHuaweiグループ内で完結しているのではなく、デザインや製造では他社と協力しています。Kirinは設計こそHiSiliconですが、デザインのコアアーキテクチャはARMのライセンス下にあり、チップの製造はTSMCが担っています。
ソフトバンク傘下のARMは先日、Googleに続く形でHuaweiとの取り引きを終了すると発表。これによってKirinはARMに頼らないデザインを必然的に要求されることになりました。それだけに製造を請け負うTSMCの出方について、改めて注目が集まっていました。

HUAWEI製のプロセッサと製造しているTSMCは今後も取引を継続するという発表行いましたが、上記記事にあるようにArmのアーキテクチャを利用しない設計を新たに用意しないといけませんし、アメリカ政府からTSMCへの圧力も今後さらに強まるでしょうから、態度が変わらないとも限りません。

さらに、一部報道ではマイクロソフトがWindowsのHUAWEIへの提供を停止したというニュースも出てきました。

MS、ファーウェイからの受注停止=PC用ウィンドウズ対象-香港紙
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019052401147&g=int

現時点ではHUAWEIの売上におけるWindowsパソコンの割合はそう高いものではないはずですので、AndroidやArmほどの影響は無いと思いますが、HUAWEIにとって悪いニュースなのは確かです。LinuxベースでWindowsっぽいものを作るのは大して手間はかかりませんが、Windowsの膨大なアプリケーションを利用したい人は、わざわざHUAWEI製のパソコンを買わないでしょう。

どこまでアメリカ政府がHUAWEIを締め上げていくのか先が見えませんが、逆に中国政府としてはどこまでサポートするでしょうか。

世界中に輸出することで中国に富をもたらしているHUAWEIは、中国政府にとっても大事な大企業ではありますが、トランプ政権との米中貿易協議の取引材料に使われるくらいなら切り捨てる、という選択肢も出てくるかも知れませんね。あるいは、HUAWEIをかばってアメリカからの譲歩を取り付ける代わりに、事実上の国有企業化をHUAWEIに迫るかも知れません。どちらにしてもHUAWEIはこれまでのような西側自由市場における栄華を失うことになるでしょう。

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