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補助金でかえって弱まる競争力

米中貿易摩擦はトランプ大統領がHUAWEIに対して融和的な対応をしたことでいったん小康状態のようになっていますが、完全な終結とまでは行っておらず、まだまだ続きそうな気配ではあります。

トランプ大統領が対外貿易、特に対中貿易において抱えている不満の源泉は、貿易赤字の巨額さに加えて、中国政府が中国企業のみに対して便宜を図りすぎていることです。具体的には、中国国外の企業が中国内で企業活動するにあたり、知的財産権を放棄することや、中国内における新規参入の難しさなどがあります。

その中でも、中国政府が国営企業・国有企業などに与えられている多額の補助金があります。

拡大する中国政府の産業補助金
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190529-00010000-nrin-bus_all

補助金そのものは免税・減税などの形も含めると中国だけではなく日本でもアメリカでも良くある話ですが、中国では景気対策を名目として巨額の補助金が企業に渡っています。

実際のところは、経営が苦しい国有企業を破綻させないために事実上の延命措置として地方政府から税金で救済しているわけですが、この補助金によってそれらの企業が潰れることなく存続し続けられています。

しかし、そういう企業本来の稼ぎ方ではない補助金によって収入を得られてしまうと、上記リンクにあるように、

また、補助金が経済の効率性を損ねるケースもある。景気情勢が悪化すると、企業は政府からの補助金を目当てに、その対象となるインフラ投資関連事業などに乗り出す。その結果、無駄な事業が拡大し、設備過剰問題、供給過剰問題などを引き起こすという。これが、世界の市況を悪化させることで、海外からも批判を集めることになる。こうした補助金制度の問題は、中国経済の安定の観点からも是正されるべきだろう。

ということになります。中国の国有企業が存続するために鉄鋼生産を絞らずに行っているため、在庫が世界的にだぶついて鉄鋼価格が低く抑えられてしまったこともあります。

鉄連会長「中国の鉄鋼再編、過剰能力削減に期待」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46243000Y9A610C1X93000/
北野氏は中国の動向について「中国政府の景気刺激策でインフラ投資が増えている」と分析した。中国からの鋼材輸出は2カ月連続で前年を下回っているが「今後、輸出数量がどう変化していくか注視する」と話した。

補助金によるデメリットは世界的な影響だけではなく、当の国有企業自体にもあるはずです。本来の企業であれば、経営が悪化すれば生産を縮小して在庫を減らし、従業員を解雇・配置転換して人件費を減らすことでバランスシートを健全化し、そして来たるべき好況時に再び拡大する余地を残すのが正しい再建策です。しかし、巨額の補助金をあてに出来る国有企業はそういったリストラ策を行わずに政府からの補助金によってキャッシュフローを潤沢にして生き延びてしまいます。

そうなると、リストラでスリムになるどころか補助金でさらに企業体が肥満化するわけですから、好況時にも利益率は向上しません。好況時に利益を蓄えられずにいるので不況時には経営がすぐに悪化して、再び補助金のお世話になります。

補助金によって巨大化していくことで、かえって中国国有企業は本来の国際競争力を身につけられないままいることになりますが、これはむしろ日本やアメリカやヨーロッパなどの西欧体制の自由資本主義諸国にとってはありがたい話です。いつまでも出し続けるわけにはいかない補助金が途絶えれば、そういう企業は国際市場で戦えなくなるでしょう。

逆に、中国の巨大な市場から立ち上がってくる民間企業の方が、政府補助金をあてに出来ないので西欧の大企業にとっては驚異的な存在になります。その代表がHUAWEI、Lenovo、アリババといった企業です。

トランプ大統領がいの一番にHUAWEIを叩いたのは、HUAWEIが一番やっかいな相手だと認識しているからかも知れません。

恒常的な補助金や政府の後押しで競争力が弱まるというのは中国に限ったことではありません。最近ではジャパンディスプレイの例もあります。

日本の自動車を政治的に叩いて抑えようとしたアメリカのビッグ3も同様です。さらには、日本の農業施策にも通じるところはあると思います。

一方で、じゃあ中国政府が国有企業への補助金を減らして健全化させるのか、というとそれもにわかには難しいです。中国共産党幹部や政府幹部にしてみれば、補助金を出す出さないによって企業経営に口出しすることができます。国有企業を健全化する改革は自分たちの権益を侵害するので受け入れられないのでしょう。しかし、逆に国家そのものや国民全体から見れば、国営企業・国有企業が改革を受け入れて資本主義経済における一企業として正しい在り方になった方が、少なくとも長期的には有利になります。習近平国家主席が狙っているのはまさしくそれでしょう。そしてそれは最終的には中国自体の国力を上げることになるのですが、既得権益を死守したい層からの反発は激しいでしょう。

汚職を無くすことが習近平の目的のように見られがちですが、本当の目的は中国資本主義の健全化であり、腐敗の撤廃はその結果の一つに過ぎないと思います。

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