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津田詩織について

 リリィシュシュのすべての津田詩織について。(⚠️かなりおおよそのネタバレを含みます。)







 津田詩織ちゃんは私にとっての「あの娘」だ。いつも心の中に津田がいて、いつも考えている。津田詩織ちゃんの人生をずっと追悼している。
 
 詩織ちゃんは蓮見のことが好きだった。その蓮見は久野さんのことが好きだった。
 詩織ちゃんは作中で唯一、リリィシュシュのエーテルを感じずリリィシュシュを聞いた子なのかもしれない。彼女にとってリリィシュシュの呼吸は好きな人から借りたCDだったのだ。
 
 星野に強要された売春で得たお金を地面に叩きつけて、何も言わない蓮見を蹴って、泥だらけの川に入った津田詩織が好きだ。彼女の人生はその日以来狂ってしまったのだ。女性の方なら容易に分かるだろう。想像したくないくらい辛いことだ。そのシーンを見て、彼女はしばらくしたら自死してしまうんだろうなと思った。一生取れない汚れと傷ができた現実に対して、彼女の行動は美しすぎる。泥だらけの制服を庭のホースで流して、久野と違って髪も切らない。開き直ったような明るさを持ちながら売春相手からお金を奪って蓮見と身の丈に合わないレストランに行く。蓮見に「久野さんのことが好きなんでしょう。」「あの子は大丈夫だよ。」「きっと大丈夫だよ。」と言う。恋心を寄せられているクラスメイトに対しては「私はもう汚れちゃったから私と釣り合わない。」というようなことを言う。彼女はどういう気持ちだっただろうか。もうすべて諦めてしまっていたんじゃないだろうか。もうすでにすべて諦めて、直視したらまともではいられない現実に開き直って、ただ好きな人と会話してるということが楽しかったんだろう。

 作中で一番変わらなかったのは彼女なんじゃないかと思う。暗い現実や青春の行き場のない鬱屈や緊迫感のある苛立ちにのまれて星野や蓮見や久野は変わった。津田はリリィシュシュを笑顔で「良かった。」と言い、カイトに目を輝かせながら鉄塔から身を投げてしまう。他の人物とは違って彼女は純朴な少女のまま、14歳のままで終わる。津田の言う通り久野さんは強い人だった。久野も想像を絶する辛い悪に襲われるが、彼女は髪を剃り、しゃんとした姿勢のまま放課後にピアノを弾く。彼女もそういう、自分を貫く強さは変わってないといえるのかもしれない。津田は自分がそうはなれないことを分かっていた。津田はそうやって変わりながら生きていくことはできなかった。儚く優しいまま、周囲には明るいやつと思われていたんだろう、明るいまま一番はじめにいなくなってしまった。

 なんて美しいんだろう。私にとっての「あの娘」は津田詩織に他ならない。彼女だけ笑顔で終わった。彼女に一度も辛い目に合わずに生きてほしかった。絶望だけが支配して、その中のわずかな幸せとか、自分の好きなものとか、美しいと思ったものとか、そういうのに囲まれて……ってそれが全部報われてほしかった。

 「大丈夫だよ。」と蓮見に言ったとき、彼女はどんな気持ちだったんだろうか。もう自分の死期が迫っているのを感じたんだろう。蓮見や自分が生きてきた世界にお別れを言うように、丁寧に片想いの相手の片想いを応援したんだろう。自分とは逆の久野さんのことも尊敬しながら。

 



 こういう風にいつも津田詩織のことを考えているわけです。いつか津田詩織ちゃんのことを曲にしたいと思う。美しいから。

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