橋本倫史

1982年広島県東広島市生まれ。物書き。2017年春、『月刊ドライブイン』創刊。

橋本倫史

1982年広島県東広島市生まれ。物書き。2017年春、『月刊ドライブイン』創刊。

マガジン

  • 沖縄のあじ

    沖縄のあじにまつわる営みの記録

  • はじめてのマチグヮー

    今年の春、半世紀ぶりの建て替え工事を経てリニューアル・オープンを果たした那覇市第一牧志公設市場界隈は、「マチグヮー」(市場)と呼ばれています。戦後の闇市に起源を持つ界隈には、迷路のように路地が張り巡らされ、小さなお店が軒を連ねています。観光で那覇を訪れる方や、地元だけどマチグヮーに足を運んだことがないという方に向けて、マチグヮーのおすすめスポットをテーマに分けて紹介します。

  • まちぐゎーのひとびと

    那覇の公設市場界隈に広がるまちぐゎーを巡ります。

最近の記事

上原パーラー

 初めて沖縄を訪れたのは、10歳の春だった。つまり、今から30年前だ。  古いアルバムをめくると、初めての沖縄に浮かれ、ピースサインをする自分の姿が写っている。玉泉洞やひめゆりの塔、旧海軍司令部壕、再建されたばかりの首里城、嘉手納基地、万座毛――2泊3日の旅程で、沖縄各地を巡っている。記憶に残る光景はたくさんあるけれど、何より印象的だったのは沖縄のあじだ。たぶんきっと、沖縄料理も食べたのだろうけど、小学生だった私が惹かれたのは、もっとシンプルなものだった。  ひとつは、サ

    • 立石へ

       7月の終わりに、沖縄に出かけた。珍しく自分が取材をされる側になって、沖縄に出かけることになったのだ。せっかく航空券を買うのだから、取材を受けるだけではもったいない。自分でも何か取材しようと考えたときに、以前から考えていた企画に取り掛かろうと思い立った。  那覇の市場界隈で取材を始めたのは、5年前のことだった。第一牧志公設市場の建て替え工事が決まり、現在の風景が大きく移り変わってしまうのは間違いなさそうだった。今日まで続いてきた風景を、その移り変わりを、書き留めておきたい。

      • マチグヮーで乾杯

         那覇のマチグヮーは、夕方になると表情が変わります。そこかしこに赤提灯がともり、乾杯の音が響き始めます。入り組んだ路地の先に、小さな酒場が軒を連ねているのです。東京・浅草のホッピー通りや、新宿の思い出横丁やゴールデン街といった昔ながらの横丁はでいつも大賑わいですが、マチグヮーもまた、多くの酔客で賑わっています。  市場界隈には現在、数えきれないほどの酒場があります。ひとつのお店に長時間滞在して、じっくりお酒を飲むのも楽しいですが、お店の名物をちょっとずつ堪能しながらハシゴ酒

        • マチグヮーのお土産

           旅に出ると、なにかお土産を買って帰りたくなります。旅先で出会った何かを、身近な誰かと共有したり、自分の生活の中に持ち帰ったりしたくなるのだと思います。旅に限らず、まちなかに出かけると、ちょっと何か買って帰りたくなります。  沖縄土産を買うなら、空港で買うのがいちばん手軽かもしれません。お土産を持ち運ぶ距離も最小限で済みますし、いろんなタイプのお土産が並んでいます。ただ、「県民の台所」と呼ばれる牧志公設市場界隈には、他では買えないお土産があるのです。 はま食品のジーマーミ

        上原パーラー

        マガジン

        • 沖縄のあじ
          1本
        • はじめてのマチグヮー
          6本
        • まちぐゎーのひとびと
          10本

        記事

          マチグヮーとお菓子

           那覇のマチグヮーで取材を重ねていると、「お盆やお正月前になると、まっすぐ歩けないほど買い物客でごった返していた」「日付が変わるころまでお客さんが途切れなかった」という話をよく耳にします。普段の買い物はもちろんのこと、行事のお供物を買いにマチグヮーを訪れるお客さんもたくさんいらっしゃいます。  国際通りから第一牧志公設市場へと続く「市場本通り」を歩いていると、お菓子屋さんを何軒も見かけます。お菓子というのもまた、伝統的な行事と深くかかわりがあります。今回の記事では、マチグヮ

          マチグヮーとお菓子

          マチグヮーで一服

           那覇のマチグヮーには、いたるところにアーケードが張り巡らされています。きっかけは、今から半世紀近く前、那覇の沖映通りにスーパーマーケットの「ダイエー」が出店する計画が明らかになったことでした。  駐車場をそなえた大型ショッピングセンターがオープンすると、マチグヮーまで買い物にくるお客さんが減ってしまうのでは――そんな心配から、それぞれの通り会ごとにアーケードの整備が進められてきたのです。  アーケードに覆われているおかげで、強い陽射しが照りつけている日でも、急な雨に降ら

          マチグヮーで一服

          マチグヮーのお昼事情

           4年近くに及んだ建て替え工事を経て、今年3月にリニューアル・オープンを果たした第一牧志公設市場。「県民の台所」と呼ばれる市場の1階には、食材がずらりと並んでいます。2階は食堂街になっていて、1階の精肉店や鮮魚店で購入した食材を、2階の食堂で調理してもらう「持ち上げ」システムは観光客にも人気で、食堂街はいつも賑わっています。  この5年間、この牧志公設市場界隈を取材するなかで、何軒かの食堂にも話を聞かせていただいてきました。今回はマチグヮーで美味しいランチを食べられるお店を

          マチグヮーのお昼事情

          マチグヮーで朝食を

           この5年、毎月のように那覇に通い、「マチグヮー」と呼ばれるエリアの取材を続けてきました。マチグヮーとは「市場」を意味する言葉で、「県民の台所」として地元の買い物客に親しまれ、最近は観光客でも賑わう那覇市第一公設市場界隈には、自然発生的にうまれた商店街が広がり、小さなお店が軒を連ねています。  旅行で沖縄を訪れるとなると、国際通り周辺や県庁前、安里といったエリアに宿泊する方も多いかと思います。朝食付きのホテルもあるかと思いますが、せっかく那覇に宿泊するなら、朝からこのマチグ

          マチグヮーで朝食を

          那覇の市場と、灘の市場

          「県民の台所」として知られる那覇市第一牧志公設市場は、2019年6月から半世紀ぶりの建て替え工事が始まりました。建て替え工事が始まって、風景が変わってしまう前にと、取材を重ねて、『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』(本の雑誌社)という本を出版しました。  公設市場が一時閉場を迎えると、街並みは想像以上のスピードで変わっていきました。当初は『市場界隈』の出版で取材は一区切りのつもりでしたが、建て替え工事期間のことを誰かが記録しておかなければと思い立ち、琉球新報で「ま

          那覇の市場と、灘の市場

          橋本倫史+粟國智光「マチグヮーの魅力を語る」

          「県民の台所」として知られる那覇市第一牧志公設市場は、2019年6月から半世紀ぶりの建て替え工事が始まりました。建て替え工事が始まって、風景が変わってしまう前に、今の姿を記録しようと、僕は2019年5月に『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』(本の雑誌社)を出版しました。  市場が一時閉場を迎えると、街の風景は想像した以上のスピードで変化していきました。市場は100メートルほど離れた仮設の建物で営業していましたが、人の流れが如実に変わってゆくのを感じました。  そ

          橋本倫史+粟國智光「マチグヮーの魅力を語る」

          橋本倫史+宇田智子「市場に続いた三年九か月のこと」(後編)

          「県民の台所」として知られる那覇市第一牧志公設市場は、2019年6月から半世紀ぶりの建て替え工事が始まりました。建て替え工事が始まって、風景が変わってしまう前に、今の姿を記録しようと、僕は2019年5月に『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』(本の雑誌社)を出版しました。  市場が一時閉場を迎えると、街の風景は想像した以上のスピードで変化していきました。市場は100メートルほど離れた仮設の建物で営業していましたが、人の流れが如実に変わってゆくのを感じました。  そ

          橋本倫史+宇田智子「市場に続いた三年九か月のこと」(後編)

          橋本倫史+宇田智子「市場に続いた三年九か月のこと」(前編)

          「県民の台所」として知られる那覇市第一牧志公設市場は、2019年6月から半世紀ぶりの建て替え工事が始まりました。建て替え工事が始まって、風景が変わってしまう前に、今の姿を記録しようと、僕は2019年5月に『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』(本の雑誌社)を出版しました。  市場が一時閉場を迎えると、街の風景は想像した以上のスピードで変化していきました。市場は100メートルほど離れた仮設の建物で営業していましたが、人の流れが如実に変わってゆくのを感じました。  そ

          橋本倫史+宇田智子「市場に続いた三年九か月のこと」(前編)

          最終回「てる屋天ぷら店」

           あれはたしか、2019年の夏だった。オープン間もない仮設市場をぶらついていると、籠にお弁当を入れて配達する人を見かけた。店名が記されたTシャツを見に纏っている上に、金色に染められた髪が目を引いた。第一牧志公設市場の二階には食堂街があり、そこに出前を注文する市場事業者はよく見かけるけれど、市場の外から出前をとるのは物珍しい光景に感じられた。あれは一体、どこのお店から配達してもらっているのだろう。配達を終えた店員さんは、仮設市場の向かいにある店舗に引き返していく。そこは創業から

          最終回「てる屋天ぷら店」

          第9回「プレタポルテ」

           那覇の市場は“県民の台所”と呼ばれ、沖縄の食文化を担ってきた。公設市場が建て替え工事を迎えた今、新しい潮流も生まれつつある。そのひとつが、のうれんプラザの向かいに昨年オープンしたパン屋さん「ブーランジェリー・プレタポルテ」だ。  店主の高倉郷嗣さん(49歳)は徳島県出身。香川との県境近くに生まれ育ち、小さい頃から母の実家のうどん屋さんを手伝っていた。 「香川に行くと讃岐うどんになるんですけど、徳島だとああいうのをたらいうどんと言うんです」と高倉さん。「もともとは製麺所だ

          第9回「プレタポルテ」

          第8回「大城商店」

           平和通りと、石畳敷きの壺屋やちむん通りのあいだに、数十メートルの路地がある。ここに「大城商店」という日用雑貨を扱うお店がある。店頭には見慣れない商品が並んでいる。目を引いたのは「Coast」と書かれた青いボトルだ。 「それはね、ボディソープ」。物珍しさに駆られて商品に見入っていると、店主の久貝恵一さん(82歳)が教えてくれた。髪の毛も洗える、アメリカ製のボディソープだ。ボディソープが発売されたのはここ20年のことだが、同じ銘柄の固形石鹸は昔ながらの定番商品だという。蓋

          第8回「大城商店」

          第7回「お食事処 信」

           街を取材するとき、まずは界隈を散策する。そこがどんな街か、何が起きているのか、ぶらつきながら観察する。昼間はとにかく歩き、話を聞かせてもらう。日が暮れると酒場に入り、グラスを傾けながらぼんやり過ごす。そこには僕が生まれてもいない時代を知っている誰かがいて、かつてその街で起きた出来事や、そこにあった風景を教えてくれる。そんな行きつけの店が、何軒かある。そのひとつが、公設市場のそばにあった「お食事処 信」だった。  店主の粟國信光さん(79歳)は南大東島に生まれ、小学校に上が

          第7回「お食事処 信」