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イチローから学ぶ木と音のサイエンス

米国メジャーリーグのシーズン最多安打記録や10年連続200安打など多くの記録を保持するイチロー。この努力の天才は、偉大な自然の観察者でもあった。
イチローは、ルーキーイヤーからのバットの基本的な形状はまったく変えていない。つまり、木の長さを変えることで異なる音色を奏でる木琴(口絵)と違って、長さや大きさが全く同じ木を使っている。だから、叩いても音の高さは変わらない(はずである、下図)。

ちなみに比重が変わると、左端のナラは重くて低い音、右端のヒノキは軽くて高い音が出る木琴

イチローのバットの原材料となるアオダモの丸棒は、十分に乾燥させてから削られる。イチローは毎年80本から90本ほどのバットを注文して、その中からさらに厳選して試合に使っていた。ベンチでは天日に干して、さらに打席に入る前にコンコンと叩きながら音を聞いてバットを選んでいた。使えないバットも音を使って見分けていたに違いない。

実は、木を叩いた時に出る音は、3つで決まる。①長さ、②重さ、③比重である。中に節が残っていると音が割れる。
イチローが使うのは長さや形が同じアオダモのバットなので、比重はほとんど変わらない。だとすれば、表面が良く乾いて硬いバットの方が、叩いて高い澄んだ音がする。振り抜けが良く、折れにくく、さらに球をより良く反発させるというわけである。

木材を乾燥させる工程において、現場では非破壊的に簡便に水分量を推し量ることが求められる。丸太の水分量だけでなく桟積みされた状態で天然乾燥している製材板の水分量も、一本あるいは一枚ずつ重さを量ることは容易ではない。桟をばらして木材水分計を押し当てることも簡単には行かない。ナラ類(Quercus spp.)のように天然乾燥に長期を要する木材では特にそうである。
音は、空気中では約340m/s、水中では約1500m/s、木材中では3600~4700m/sの速さで進む。そこで、木材を伝わる音速を利用した木材の水分量を推し量る研究を行った。音は、板の水分量が少ないと高くなった。これは乾いた木材の方が水中を進む音の速さより速いためである。

イチローは、打席に立つ前にバットを叩いてその音を聞いてバットを選んでいたが、科学的にその有効性が検証された。


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