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世界は甘く、つながってる

ちょっと得した気分の休日にその本を開いた。
ページをめくるごとに、フィルムに収められたシーンを一つ一つみているような、そんな感覚があった。少しずつ動き出す一人ひとりの世界はなんというか自然で、自由だな、と思った。自分の枠を目いっぱい使って、きっと笑いながらこの光景を描いていて、その中に幸せが詰まっている。

当たり前だけれど、幸せのかたちはそれぞれで、鮮烈的に色濃い幸せもあれば、淡く柔らかい水彩のような幸せ、無彩色だけど確固とした幸せもある。みんな違ってみんないい。

だから、一つ一つ感想を述べていきたい。それぞれの幸せに対して、まとめてコメントするなんてもったいない気がする。

『ファミレスのボタンを長押しするように甘く』伊藤紺さん

一言でいうと、とてもカッコいいと思った。日常の中に「キラッと輝く幸せ」が自分の中で確固たる意志を持っていて、その幸せは、一瞬で大きくなっていく光のようで、過ぎ去っても目の奥で息づいている。そんな感じもするし、ペンキをぶちまけるようにして、自分を素直にさらけ出しているようにも感じる文章だった。抵抗感を感じるような鮮烈さではなく、「好き」とか「うれしい」とかが語尾にすっと入ってくるから、あ、この方は純粋なんだな、と素直に受け入れられた。

『永遠には続かない』生湯葉シホさん

エピソードの端々に昔の自分の面影を見つけてしまって、読み終わった後、優しく、とても懐かしい気持ちになった。繊細な表現の中にゆるやかな時の流れを感じて、ああ、こうしてゆっくりと振り返ることができる記憶が幸せってことなのかな、と思った。語られるエピソードがどれもセリフまで魅力的ですごく引き込まれた。記憶の全てが儚く過ぎ去っていくけれど、そのどれもが愛しくて素敵だった。個人的に、机上の短歌のエピソードがとっても好き。

『検索結果は見つかりませんでした』こいぬまめぐみさん

自分の中にある言葉の秘密、特別を愛しているのがひしひしと感じ取れた。一つ一つが本当にこれが好きでたまらないんだなという熱意が伝わってくる。コミカルだったり、美しかったり、いろんな感情が孕んでいて面白かった。もしかしたら秘密にしているワクワク感と知ってほしいジレンマを楽しんで生きている方なのではないかなと思った。私も「検索しても見つからない」特別な言葉の意味を探してみたくなった。

『幸せでない話』いつか床子さん

タイトル通り、「幸せ」じゃない話ばかりだったけど、ユーモアにとんでいて、すごくライトに読めた。くすっと笑ってしまうようなエピソードが逆に読んでいるこちら側を束の間の幸せに浸らせてくれているなと感じた。一つ一つがすごく面白かった。

『私の庭』mao nakazawaさん

文章が写真に寄り添って、詩的なハーモニーを奏でている感じがして、読んでいて穏やかな気持ちになれた。一つひとつの表現が可愛らしくて、つい笑顔になってしまう、とても微笑ましい文章だなと思った。欲を言えば、写真をカラーで見たかったけれど、文章の雰囲気で色彩を想像するのも楽しいなと思った。

『ここにいていいよ』菅原沙妃さん

この本を読む前に、ドア一枚越しに聞こえる泣き声に出くわした。「うわーん」というフレーズがぴったり当てはまる泣き方で、私は読み終えた後、あの人にこれを読んでほしかったな、と思った。本当に落ち込んで、傷ついている時、こうするといいよ、と投げかけてくれる。大丈夫、と優しく声をかけてくれる。ちょっとだけ気持ちを前向きにさせてくれる文章だなと思った。

『大人になるのは、きっとそれから』西平麻依さん

この感想を書こうと思った時、全ての作品をもう一度読み直して、心に刺さった文章を書き出す作業をしていたのだけれど、まいもさんの文章は全てが琴線に触れて鮮やかな音色を響かせるものだから、ノート1ページでは足りなかった。改めて、私はこの人の文章がすきだなぁと思った。どんなことでもまいもさんの手にかかれば魔法のように魅力的に変わる。一つ一つを大切に、大切に胸の中にしまっておきたくなる本当に素敵な言葉たち。甘いお菓子に味つけされたエピソードをとても美味しくいただきました。

『夜の散歩から』渡邉ひろ子さん

景色が脳裏に浮かび上がってくるくらい情景描写が綺麗で、本当に夜の街を散歩しているような感覚になった。「受け身の営み」は創作者としてすごく素敵な意識だなと思った。この作品を読んで、何気なく歩いている時に普段は気にかけない草花や星月の綺麗さを改めて実感することができて、それを積極的に表現したいなと思えるようになった。

『愛すべき孤独に』エヒラナナエさん

小説を読んでいるみたいに引き込まれる文章で読んでいてすごく楽しかった。どこかもの寂しく、孤独を抱えながら日々を過ごしているけれど、人からもらった幸せを大切に書きとめながら、孤独とともに未来に進んでいく。添えられた花々も美しく、柔く日々を輝かせる。まだまだこの方の人生の続きを読んでみたくなった。

先程、みんな違って、みんないい、と言ったけれど、皆さんの幸せの世界はどこかで確実につながっている。
走馬灯、花、風、涙、日記、水、そして、言葉。
言葉の仲間たちが手をつないで輪っかをつくる。その中で、それぞれの幸せを混ぜ合わせながら、甘い香りを漂わせて。大丈夫。ひとりじゃない。世界はどこかで甘く、つながっている。そう思わせてくれる一冊だった。

読んだ本📖『でも、ふりかえれば甘ったるく』

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