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Bayreuth バイロイト❷まとめ

旅先ですれ違う人々、何かのきっかけで言葉を交わす接点。バイロイトでは音楽祭ということもあって、いろんな場面でいろんな人との出会いがありました、そういう意味ではやはり特別な感があります、さすがバイロイト。

チャーリー
宿泊先のホテルからバイロイト市内までバスかタクシーを使わなければならなかったので、2日目の午後、バスの時間に合わせてホテルの部屋を出たら、黒スーツの男性とホテルドアで鉢合わせ、バス停に向かって歩く私たちの背後から、「オペラに行くの?それなら一緒に乗っていけば?」と声をかけてくれたのがチャーリー(カール)(男性、?40代 ドイツ人、ミュンヘン在住)でした。その後もオペラの行き帰り、彼の車に便乗するのをを嫌な顔せず引き受けてくれました。

ミュンヘンでITの仕事をしているという彼はITらしく洋服が全身黒。後で黒以外の服は買わないと言っていました、どの服を手に取っても合う合わないに悩む必要もなく、買い換えるのも簡単で、フォーマルにもカジュアルにも合う、汚れも気にならない。
「ペンネアラビアータだって気にせずに食べられるんだ」

彼はワーグナーの大ファンになったのは30代からで、熱心にバイロイトオペラの始まる日の午前中にある説明会に参加していたり、You tubeのビデオクリップを紹介してくれたりしました。

ワーグナー資料館・美術館を訪ねた際に、夕方たまたま、またまたチャーリを見かけたので、声をかけると一緒にお茶をしようとカフェで話が弾み、そのまま彼がバイロイトに来ると必ず食べるというレストランに連れて行ってくれました。

Manns Bräu

チャーリーの大好物はフランケン地方特有の一品らしく、ポークの肩の部分を骨つきでトロトロに煮込んだもの。これにKlößeと呼ばれるポテトの茹で団子=boiled dumplingsにザワークラウトが添えられています。

チャーリーの大好物 Manns Bräuで彼が食べた一品
(人が頼んだものなのに写真を撮らせてもらった)(美味しそう)

我々がベジタリアンなんだよね、魚は食べるけど、と言うと、一生懸命メニューを訳してくれました。

我々が選んだのはベジタリアンメニューから

豆腐でできているというけどお肉みたい 個人的にはポテトの茹で団子が食べられて歓喜
Spazleという卵でできた麺、ちょっとスパゲティみたいで美味しかった

このお店で何杯もビールを飲みながら、見てきてまだ続きが終わっていない壮絶なオペラ、リングサイクルの話をしていたら…

背後からなんとも美声の持ち主の髭面の男性が会話に飛び入り参加してきた。チャーリーが、会話の前半で
「もしかしてオペラのチームの人?」
と鋭い質問を投げかけたら

イェンス・エリック

バイロイトオペラ、リングサイクルのプログラムから、彼のプロフィール写真。彼はFasoltという怖いGiantの役=オペラ内では借金取り立て役だったので、写真はわざとこういう風に撮影しているのだと思う

(オペラ歌手)(この日歌い終わり飲みにきていた)だったのです。イェンス・エリックもチャーリーと同じ豚の肩肉を食べつつ、ビールを飲みつつ、4人で3時間真夜中まで、オペラ(リングサイクル)の話をし続けました。内部事情や彼自身の意訳、考えを聞くことができて、しかも一般人の会話に楽しく参加してくれて、さすがバイロイト、と感嘆。後でオペラの感想を書くときに彼から聞いたこともメモしておきたいと思います。

ドリス&キース
翌朝遅くチャーリーと朝ごはんを食べていたら、同じホテルの他の宿泊客だったドリス&キースご夫婦(?70代、アメリカ人、ドイツ語堪能)が横から参加。アメリカ人なのにドイツ語が堪能。ゆで卵をきれいに上1/3だけ剥いて、小さなスプーンで器用に中身をすくって食べるお二人はそこはかとなくハイソな感じが漂うのです。

色々お話ししているうちにキースは指揮者(カラヤンの教え子の一人)でずっとVienna(ウイーン)に住んでいたとのこと。ワオ、元指揮者ってすごくない!?

https://referencerecordings.com/artist/keith-clark/
googleしたら彼の若い時の写真がすぐ見つかった

今ではリタイヤされたとのことですが、マエストロになるためにはどんな風な道のりなのか、どんな世界に住んでいるのかをちょっとだけ知る良い機会になりました。

ちなみにここで告白させてください . . . その後夜ご飯をご一緒させてもらい、キースはラスカラ座のマエストロ、Riccardo Mutiジョークを披露してくれました。夫はお返しにカラヤンジョークで対応。ジョークを披露する順番が私に回ってきた頃には私はかなりの酔っ払い状態で、思わずロシアのオナラジョークを披露してしまいました(私バカ?)。優しいドリスだけが大笑いしてくれ助かりましたが . . . 後で夫からもう2度とあのジョークは禁止とダメ出しされ、今エディンバラ人のケチケチジョークを練習させられています。

話の流れで自分のオーケストラを作る→いちからメンバーの一人一人を自分で選ぶという話になり、キースはアメリカで自分のオーケストラ:the Pacific Symphony Orchestraを作りあげ、それが妬みやジェラシーで時にはドロドロになる他の有名なオーケストラチームと違い、仲の良いハッピーなチームを作ることができた→その良い前例を友人のIván Fischerが . . .

え?あのIván Fischer?

8月9日にエディンバラで聴きにいったばかりのBudapest Festival OrchestraはIván Fischerがこの友人のキースから勧められいちから作り上げた彼のオーケストラということをここで初めて知りました。Budapest Festival Orchestraで一番驚いたのが、演奏家たちが素晴らしい歌声をも披露したことだったのですが、その特別感を思い出し、納得。こんなところで線と線が繋がった . . . 。

イギリス人女性とドイツ人老夫婦
長丁場のリングサイクルは1週間(間を開けて4日間)オペラ劇場に通います。午前中は一生懸命に資料を読み、午後4時から夜10時前後まで、インターバルを挟みながらの休み休みの脳みそ版エヴェレスト登山みたい。この1週間の間、座席はみんな同じなので、必然的に前後左右の人々とは毎回一緒になります。

持っていく本がたくさんになって重たい

私の右隣はドイツ人老夫婦。小刻みで危なかしく歩く奥様の両手をとり優しくリードし、四六時中気配りを休まない旦那様。奥様はアルツハイマーで、と説明してくれました。結婚したのは50年前、リングサイクルは今回で3回目。奥様は小鳥のように細く痩せていて、オペラの途中で何度か小さな声で旦那様を呼びます。どうも、あまりに長いと家に帰りたいと言い始めるのだそうです(私ももう疲れたよ)。初めは周りの人々もちょっと迷惑そうで、劇場の係の人も振り返って注意をする一歩手前。その係の人に説明する周りの人々、そのパターンにみなさん慣れてくると、アルツハイマーの奥様をみなさん優しく静かに見守るようになりました。コソコソと旦那様に話しかける奥様、それを制する旦那様、目をつむって、音楽だけ楽しもうねと奥様の手ずっと握っていました。

小鳥のような奥様は本当に愛らしくて、私に向かっていつも

「ich bin schweizerisch」

と同じことを言うのです。(私はスイス人です)。
私が何をどう答えても同じことを言うのですが、それが前述のようなインテリ+高度な会話+ワーグナーのリングサイクルで疲れがちな脳みそになんとも心地よいお休みをくれました。

私が

「nicht sprechen Deutsch」

というと微笑んで私の肩をそっと撫でるのです、これ、今調べると意味のない文なんですね、google translateによると ドイツ語は話せません、は

「Ich kann kein Deutsch」

でした。今振り返ってもこの老夫婦には感謝でいっぱい。どうかお二人の幸せな日々を願うばかり。(私が奥様と同じ文を繰り返していい笑い合っている間は隣の夫はイギリス人女性とオペラ談義にいつまでも花を咲かせていたので、放っておくことができました)。

劇場前

フローズンヨーグルトを購入しようと並んでいたら、前のドイツ人男性がくるりと振り返り、「コウモリ飛んでるのみた?」とお茶目に笑いかけてくれたり*、一日観光でNeues Schlossをブラブラとしていたら「ところで、リングはどう思った?」とオランダ人男性が話しかけてきたり、バイロイト音楽祭、人々が最高でした。オペラそのものの感想はまた後ほど書きたいと思います!

*劇場内にコウモリが巣を作っているという噂です。1年に1回しか使われないらしいですし、オペラのバックステージは天井が建物の2倍の高さがあるので、それもありかもしれません。確かにオペラが始まった直後、鳥?コウモリ?が飛んでいるのを劇場内で見たんです。

いつもありがとうございます。このnoteまだまだ続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。