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いま面白いマンガをご紹介!2019/前半(歴史編) [読書感想]

以前オススメ歴史漫画についての感想を書きましたが、追加版です。現在進行中の作品のみに絞っています。個人的な好みのヒトコト紹介ですが、気になった作品がありましたら、お読みいただけると嬉しいです。

『昭和天皇物語』 既刊3巻 能條純一,半藤一利(著)

漫画という形式で、天皇の視点から歴史を描くという試みは、初なのではないか。あくまで文献・資料をベースにした「物語」なんだけど、読み物として、とても面白いですね。もちろんあの昭和天皇の人物そのものを描いているので、慎重さや緊張感をもって描いていると思うんですが、『哭きの竜』『月下の棋士』で知られる能條純一の作画と非常に良い味を出していて、人物たちが輝いています。物語は昭和20年、昭和天皇が連合国総司令官・マッカーサーと対峙する描写から始まるのですが、この冒頭にヒロヒト天皇の人格が簡潔に、そして力強く「表現」されている。そして舞台は明治、少年時代へ。東郷平八郎、乃木希典、杉浦重剛といったクセが強すぎる指導者たちに囲まれて教育を受けつつ、繊細で心優しい内面を持った少年であることも描かれる。その絶対唯一の立場ゆえの孤独感も感じさせる。また、とにかく明治の巨人たちの迫力が凄い。3巻はお妃候補内定に猛反発する山縣有朋なんかが出てきて・・・ 我々が知っている「はず」の'未来'がどう展開されるのか。先が楽しみですね。

『阿・吽』 既刊9巻 おかざき真理(著)

ひとことで言うと、空海と最澄の大巨人ふたりを軸にした仏教漫画です。読むにあたって、仏教や歴史についての知識は特に要らないと思います。僕も知識はほとんど無いんだけど、十分楽しめます。マジメで繊細で、穏やかな秀才肌の最澄と、豪放豪胆、気性の激しい天才肌の空海。ふたりの人生が描かれるんだけど、人生なんていう言葉にはおさまらない、もっと大きな力のようなものに挑み、分け入り、打ちのめされ、翻弄され、倒れ立ち上がる様が、とんでもなく芸術的な画力で表現される。
この、絶対に漫画というジャンルにしか不可能な、鬼気迫るような表現の迫力は、文章では伝えられないんですよね。歴史物語としても面白いですし、この、人の意識の、深いところに降りていく求道者たちの領域に、自分の感性でついていく感覚を、味わってみてほしいですね。著者が天才肌でないと、こんなん描けないですわ。

『新九郎、奔る』 既刊2巻 ゆうきまさみ(著)

北条早雲物語です。北条早雲というと、小田原北条家の開祖、「野蛮で豪快な成り上がり武将」というイメージでしたが、これは最近の研究結果を反映しているのでしょうか、室町幕府政所・伊勢一族のお坊ちゃんという設定でスタートします。そしてその頃京都で起こった巨大な政治的出来事とは何か、というと、応仁の乱ですね。というわけで本作はここまで、幼い、聡明で正義感の強い北条早雲=伊勢新九郎から見た応仁の乱、が徹底的に描かれます。なんて説明の多い(文字の多い)マンガなんだ、と思いましたが、応仁の乱を事細かに描こうとしたら、マンガでもムチャクチャ複雑になってしまう、ってことなんでしょうね。。
どういうペースで進むのか、まだわかりませんが、今のところ「漫画で学ぼう応仁の乱」という感じになっています。ちょっとこの時代に興味がある人でないとついていくのは難しいかもしれません。

『ハーン ‐草と鉄と羊』 既刊6巻 瀬下猛(著)

チンギス・ハーン=渡海した源義経説を採用した、歴史冒険漫画です。「はー。。w」と思われることでしょう。しかし侮るなかれ。当時の(今のモンゴル)あの地域の覇権争い、文化などを綿密に描いていて、冒険活劇として単純に面白い。義経設定じゃなくても描けたんじゃないの?と思わないでもないけど、やっぱり、祖国では敗者として「終わった」「カリスマ」義経が、異なる文明の知識や戦の方法を持ち込んで、グングンと勢力を増していくのは痛快だ。オン・ハーンやジャムカといった敵キャラの造形も秀逸で、「こいつには勝てないんじゃないか」と思わせる敵を出して、窮地をキッチリ乗り越えさせる手腕の描き方もうまい。
周知のようにチンギス・ハーンというのは凄まじい勢いでありえないほどの範囲を支配した覇者の中の覇者で、まだヤサ男なところもあるテムジン(義経)がどう成長していくのか、先が楽しみだ。

『ヴラド・ドラクラ』 既刊2巻 大窪晶与(著)

かの有名な吸血鬼ドラキュラ伯爵のモデルとして知られ、串刺し公とか暴君と恐れられた、15世紀のワラキア公国君主・ヴラド3世が主人公の歴史ロマン。主人公は無表情で冷徹、笑顔のない青年。これも、僕はこれまた知識が無いんだけど、当時のワラキアは、有力豪族たちが政治や経済の実権を握っていて、君主は承認のハンコを押すだけ、という立ち位置になっている。若きヴラドはけっして熱くならず着々と権力を取り戻していこうとするんだけど、抵抗勢力の貴族たちもハンパじゃない。エグい闘争になっていきます。
何を考えているのかわからないが、とにかく頭脳が明晰で、一旦行動に出ると迷いなく冷血になれる、という魅力的な主人公。イケメンだし、女子に人気が出る漫画ですねコレは。
こういう、言ってしまえば「地味」な歴史漫画を見つけるのは、楽しいです。

以上。次回の漫画紹介は、「格闘&ファンタジー編」です。全8タイトルの進行形漫画を紹介してみまーす。

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