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今、私たちがほしいのは、人生の仲間だ

近年、多くのドラマや映画で描かれている「シスターフッド」。中でも、日本のシスターフッドの金字塔というべきドラマが誕生した。それが、『今夜すきやきだよ』だ。

すり減った心を癒す、2人の共同生活

©︎谷口菜津子・新潮社/「今夜すきやきだよ」製作委員会

1人で食べる食事も気ままでおいしい。でも、2人で食べる食事もまたいとおしい。

誰かのために、手間ひまかけておいしいごはんをつくること。誰かがつくってくれたごはんを、おなかいっぱい味わうこと。食卓を囲んで、今日の出来事やモヤモヤを語り合うこと。そのすべてが、すり減った心を癒してくれる。

本作は、あいこ(蓮佛美沙子)とともこ(トリンドル玲奈)という正反対の女性の共同生活を描いた物語。仲良しこよしというわけじゃない。ベタベタ甘え合ったりもしない。でも、一緒にいると居心地がいい。うれしいことがあったら真っ先に報告したい。そんな2人の関係性が眩しく映る。

友達とも恋人とも違う。今、私たちがほしいのは、人生の仲間。『今夜すきやきだよ』は、この社会で頑張る女性たちに捧ぐ希望のドラマだ。

エイジズム、ジェンダー。今考えたいテーマが満載!

©︎谷口菜津子・新潮社/「今夜すきやきだよ」製作委員会

このドラマで描かれるのは、私たちの日常を取り巻く小さな違和感。

たとえば、内装デザイナーのあいこはその将来性を買われ、会社を代表して業界誌の取材を受けることになる。だけど、そのプロジェクトを立ち上げたのは、先輩の五十嵐(河井青葉)。疑問を持つあいこに上司は言う。

「こういうのは若い人が前に出たほうがいいんだから」

スポットライトを浴びるのは、若い人だけの特権なの? 若さを失うことは価値や魅力を失うことなの? この社会に染みつくエイジズム(年齢差別)に、あいこは真正面から向き合っていく。

「この世に永遠などない。だけど、それは何かを失う儚さなんかじゃなくて、積み重ねていく確かさだと思う」

そう心に秘めながら、牛すじ肉まんをかぶりつくあいことともこに私たちも勇気をもらうのだ。

このドラマが、現代を生きる私たちの味方になる

©︎谷口菜津子・新潮社/「今夜すきやきだよ」製作委員会

絵本作家のともこもいろんな違和感にぶつかっていく。

スランプ気味のともこに、担当編集の山木(紺野ぶるま)は「大人向けの恋愛の絵本」を提案する。だけど、ともこは他者に恋愛感情を抱かないアロマンティック。昔から恋愛や結婚を当たり前と信じて疑わない周囲の価値観に馴染めずにいた。

女同士が2人で暮らしたら喧嘩になる。男と女が一緒にいたら、すぐ恋愛関係に結びつけたがる。この世には悪意のない「決めつけ」が溢れている。

「それが普通でしょ?」「一般論として」――そう言われるたびに、サイズの合わない鋳型に押し込められているような気持ちになる人は多いだろう。

『今夜すきやきだよ』は、そんな常識という偏見に「NO!」と宣言する。その潔さが心地よくて、気づけば心強い味方ができたような気持ちになるのだ。

女性だけじゃなく男性にも観てほしい

©︎谷口菜津子・新潮社/「今夜すきやきだよ」製作委員会

本作は、確かにシスターフッドの物語ではある。だけど、欲張りなことを言うと、女性だけじゃなく、男性にも観てほしい。なぜなら、現代の男性に必要な「気づき」がたくさん散りばめられているから。

あいこの恋人・ゆき(鈴木仁)は、あいこと同業の内装デザイナー。だけど、あいこほどは活躍していない。男の方が仕事ができて当たり前。というのもまた、この社会の「決めつけ」のひとつだ。

その根底にあるのは、「男たるもの」という呪縛。家父長制の家庭で育ったゆきは、旧態依然とした「男らしさ」に雁字搦めになっていた。その思い込みからゆきが解放されていくさまに、きっと男性も心打たれるはず。

どうすれば私たちはもっと幸せに自分らしく生きていけるのか。男女ともに考えたいテーマが、『今夜すきやきだよ』には込められている。

Text/横川良明

▼『今夜すきやきだよ』はこちらから

横川良明(よこがわ・よしあき)プロフィール
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画を中心にインタビューやコラムなどを手がける。著書に、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)がある。Twitter:@fudge_2002

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