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徒歩旅「知多の最果て」

陸がある限りどこまでも歩いて行ける。
陸をただ延々と歩き続けると、最後には陸の先端となる岬に行き着くこととなります。海に飛び込んで泳ぎでもしない限り、それ以上進むことはできない陸の最果てです。

愛知県に知多半島という地域があります。
愛知県南西部に突き出た地域で、中京工業地帯の東海コンビナートや中部国際空港セントレアが位置する半島です。
その南の果てには「羽豆岬」という岬があります。今回は陸の最果てを目指す旅として、歩いて知多半島を縦断し、羽豆岬を目指してみたいと思います。

昔から「最果て」という言葉に惹かれ、本土最南端の佐多岬まで歩いて40日かけて踏破したり、鈍行列車で4日かけて本土最北端の宗谷岬へ訪れたりと、最果てを目指す旅は何度か行ってきました。
今回のコンセプトは「日帰りで最果てへ」
自宅から日帰りで帰って来れる場所として、知多半島の羽豆岬を目標に据えました。

日帰りで最果てへ

【歩く条件】
○日帰りで羽豆岬へ行って帰ってくる
○Googleマップ使用禁止

事前に調べたところ、自宅がある名古屋から羽豆岬は50kmを越える行程になります。ただGoogleマップは使わずに道路標識や案内図だけを頼りに羽豆岬を目指すため、道を間違えると更に時間がかかる可能性があります。

また羽豆岬にバス停はあるものの、最終バスが20時半とかなので、それより遅くなると帰って来れなくなります。距離と帰りのバスのことを考えると、途中で寄り道したりダラダラ歩くことはできないことが前提となります。

名古屋市から東海市へ

新尾頭

朝5時に自宅がある金山を出発。

一昨日から三日三晩雨が降り続いていますが、限られた休日の中で活動している会社員としては、雨だから日を改めるなんて考えはありません。

熱田神宮

まずは知多半島の町の1つである半田市を目指すため、国道247号線を目印に進みます。

早朝でしかも雨の熱田神宮には誰もいません。織田信長が桶狭間の戦いの前にここで戦勝祈願したように、旅の成功を祈って手を合わせておきました。

1時間ほど歩いて南区に入る頃には空が明るくなってきました。今日のゴールとなる南知多町まで名鉄が走っているので、線路を見失わず辿って歩けば迷うことはないでしょう。

天白川を渡れば名古屋市は終わりです。

小雨が続いているだけなのでわりとスムーズに歩けてますが、安物の防水パーカーはすでに雨が染み込んでビチャビチャです。

東海市

7時過ぎ、金山から2時間ほどで東海市に入ります。名古屋市内から知多方面の工業地帯へ向かう人が多いのか、東海市方面の道路は通勤ラッシュで渋滞しています。

半田市を目指して

名和北交差点

ええ感じにお腹が空いてきたので、名和で朝マックしてコーヒー飲んでから歩きます。

半田を目指して南へ向かいたいので、ここからは線路と並行して県道55号線を進みます。

長距離を歩くならもちろん晴れているに越したことはないですが、雨は雨で景色に風情が出て良いですね。あくまで景色の話ですよ。体力と気持ちの消耗に関しては最悪です。

南加木屋駅

名鉄の駅があり、県道55号線を逸れて線路に隣している道路を進むことにします。

名鉄の線路に沿って歩いているので仕方がないのですが、今日は名鉄が写り込んでいる写真が多いです。

こんな整備されたサイクリングロードがあるのかと驚きました。半田や武豊を自転車で観光しながら回れるようです。関西の熱い若者が琵琶湖を一周することは誰しも通る道であるように、愛知県では知多半島を一周することは青春の1ページなのかもしれません。ただあいにく自転車は大学生の頃に盗まれて以来10年近く持っていないので、指を咥えて見ているだけです。太秦のヤンキーの人、早く返してください。

東海市を抜けたことに気付かないまま知多郡阿久比町へ。雨が強くなる中、線路に並行して半田市を目指して進んで行きます。雨と田園の中を走る名鉄電車がなんかエモかったです。

阿久比町役場

歩いている道は田畑に囲まれ、雨ということもあって人通りが少ないですが、阿久比町の主要道路であるため車通りは多いです。阿久比町役場の周辺に差し掛かると、雨も弱まり人通りも増えてきました。時刻は11時を過ぎ、半田に着いたら何を食べようかと昼飯のことばかり考えだしていました。

新美南吉生家

正午には半田市に入りました。

市境の近くに「ごんぎつね」を書いた童話作家の新美南吉の出生地があり、少しだけ立ち寄りました。新美南吉の両親は畳屋と下駄屋を開いていたそうで、建物を道から見ると平屋に見えますが、実は裏に高低差があるので裏から回ると二階建てになっています。

半田市街と映りたがる名鉄

知多半島の中心とも言える半田市街は栄えており、駅前にはホテルや高層マンション、商業施設が立ち並んでいます。

今日は名鉄と共に歩いているので、景色を撮るたびに名鉄がすぐ映り込んできます。映りたがりなんでしょうか。「なんか名鉄の写真ばっかやな、、」と思われた方もいるかもしれませんが、名鉄紹介サイトを書いているつもりはありません。

知多半島の南部

半田市で昼食を終え、13時頃に知多郡武豊町に入ると知多半島もいよいよ後半です。午後になると天気予報通り雨もやみだし、また強くなる前に一気に南知多町まで進みたいところです。

河和と内海の地理感をイマイチ分かっていないのですが、羽豆岬の最寄駅が名鉄の終点である河和駅なので、更に真っ直ぐ南を目指して河和に向かって進みます。

※知らなかったことで迷わず済んで幸いでしたが、名鉄には内海駅という終点もあり、こちらも羽豆岬にアクセスできる駅だということを旅が終わってから知りました。

午後から雨は止むという天気予報は当たらず、再び雨脚が強くなってきました。昼ご飯を食べて普段なら眠くなる頃ですが、雨にさらされ続けているので今日は全く眠くなりません。

武豊の町中を抜けて静かな田園地域に差し掛かると、人通りどころか車通りも少なくなり、わりと大きめの声で歌いながら歩くことができます。

東海市から何の疑いも持たず真っ直ぐに歩き続けてきた道が突然どんつきに差し掛かりました。のんきに歌なんか歌っているうちに名鉄の線路からも離れてしまったので、とりあえず河和の標識に従って左へ進むことにします。

富貴駅の近くから国道247号線に乗り、しばらく進むと知多郡美浜町に入ります。気のせいかもしれませんが、少し潮の匂いがしてきたような気がします。そうでなければ濡れたアスファルトの匂いと、雨特有の錆びた鉄みたいな匂いしかしません。

潮の匂いは気のせいではありませんでした。
知多湾を臨み、海沿いの道を岬を目指して歩きます。
対岸は霧で何も見えず、微かに西尾市か碧南市と思われる陸地が薄っすらと見えるだけです。また海岸に降りて近くで見ると分かりますが、この辺りの海水は透き通っていて綺麗です。

16時に名鉄の終点である河和駅付近に到着。
名鉄という旅の案内人を失い、どちらに向かって歩けば良いのか分からないので、羽豆岬へのルートを調べるため河和駅の案内板を探してみます。

河和駅

夕方なので河和駅と駅の中のスーパーマーケットは地元の客で賑わっています。

案内マップを見ると、羽豆岬は師崎港の港内にあるようなので、道路標識にもある師崎を目指して歩くことにします。

羽豆岬

師崎まであと11km。

ウォーキングアプリによるとこの時点で既に歩いた距離は50kmに達しており、体の疲れも感じ始める頃ですが、あともう一息の踏ん張りは気持ちで乗り切ろうかと思います。

何日か前に会社の先輩に羽豆岬の話を聞いたところ、近くの魚太郎という市場が楽しいよと教えてもらっていました。大あさり焼きに惹かれ、少し休憩に立ち寄ろうとすると営業は終わっており、従業員の方が片付けでバタバタされてました。大あさり焼きを逃して残念ですが、まあ昼飯にロースカツ定食を食べてそんなにお腹減ってないからええかと割り切って先を急ぎます。

17時に今日の旅の最後となる南知多町へ。

鹿児島の佐多岬の時もそうでしたが、陸の最果てへ近付けば近付くほど人の気配が少なくなり、孤独との戦いになります。
ここでも岬に近いからか車通りも少なく、海風と雨にさらされて心細いですがもう一息です。

県道を逸れて海を見ながら歩こうと思い、堤防沿いの道を選びました。木と土の匂いに懐かしくて落ち着くのは自分が田舎で育ったからでしょう。しかし歩いてすぐに立ち入り禁止看板に塞がれ、渋々引き返すハメになりました。この辺りは潮干狩りの密猟禁止の看板がちょっと景観を損ねるぐらい立っており、密猟する不届者が多いみたいです。

田園に挟まれた道を地元の高校生か自転車で何人か走り抜いて行きました。

少し休憩したくても、晴れた日ならベンチやその辺の岩に座って休むこともできますが、雨の日は屋根があるベンチ以外に座ることはできないので、必然的に休憩が少なくなります。体力はある方だと自信はありますが、流石に50kmを越えてくると座りたい気持ちが強くなります。雨だとしんどい理由はそこにもあります。

大井漁港

静かな漁港に辿り着く頃には日が暮れ始めました。小さな漁村なので地元の方が何人か歩いておられましたが、時間帯的にも外を出歩く人は少なく、心細さを感じながら岬へ向かってラストスパートをかけます。

師崎に辿り着いた頃には18時半を回っており、岬への道を探して周辺を散策してみます。

常滑まで33kmの標識を見て少しワクワクしました。今回はルートから外れていますが、セントレアがある常滑市も知多半島です。

数少ない街灯を頼りに、薄暗い海辺の道を進んで行きます。たまに来る車の光が非常にありがたいです。足元がよく見えず、海藻で滑って5回ぐらいコケそうになりました。

羽豆岬
羽豆岬大鳥居

19時に羽豆岬へ到着しました。

灯りがないのでスマートフォンの懐中電灯で照らしながら岬を散策します。SKE48が「羽豆岬」という曲を歌っているらしく、石碑には歌詞が刻まれています。

岬の丘の上には灯台と神社がありますが、暗くて怖いし、バスがあと20分ほどで発車するので今回はやめておきます。

最後に 〜最果て〜

一日で歩いた距離としては、今回の60.6kmは過去最高記録となります。常滑を経由して西ルートで羽豆岬を目指してみるのも面白いかと思いますが、地形的に少し遠回りになるのでもう少し時間と距離が増えそうです。

陸の最果てを目指すことは旅人の夢だと20代の頃思っていました。旅のコンセプトとしてもシンボリックであることでも岬はゴールになりやすいです。これまでに本土最端では佐多岬と宗谷岬へは行ったことがありますが、東と西の最果てである納沙布岬と神崎鼻へは行ったことがありません。更に本土ではなく日本最端も含めると、残る6つの岬へはいつか必ず足を踏み入れてみたいものです。本土四極の残り2つと、日本四極の到達を30代のうちにやりたいと思います。

おまけ

内海駅

師崎港からバスで40分、内海駅から名鉄を乗り継いで1時間で名古屋へ帰りました。
名古屋から師崎港と羽豆岬へのアクセスは、名鉄河和線で河和駅まで行き、そこからバスで向かうのが一番早いかと思います。皆様もぜひ羽豆岬へ。

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