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この街に暮らして

引越しの話が出ている。
まだ決まったことではないけれど、
この街を去るかもしれないと考えた時、
大切な何かが失われる。
そんな危機感を覚えた。

それは、目に見えないもので、
利便性とか住環境とかでもない。
住む場所によって徐々に培われる
人の価値観みたいな
そういうものだと思う。

この街の好きなところは、
たくさんあるけど。
一番好きなところは、
男性の育児参加率が高いところ。

ある日、地下鉄に乗っていて、
一人で首も座っていない赤ちゃんを
抱っこ紐で抱っこして連れている
若いお父さんを見た。

お母さんはいなくて、お父さんが一人で
外に連れ出しているようだった。
慣れた様子であやしている。

この人はどこで降りるのだろう。
何となく見ていたら、
この街の駅で降りた。
帰路を急ぐ若いお父さん。
抱っこ紐で颯爽と歩く姿を見て、
この街に住んで良かったと思った。

同じマンションに住む車椅子の若い男性も、
結婚して奥さんに赤ちゃんが生まれてから、
一人で赤ちゃんを連れて散歩している。

車椅子に、付き添いはいない。
抱っこ紐で赤子を抱えて車椅子に乗っている。
私はそれを初めて見た時、あまりに驚愕して
それをできることだと捉えていなかったことに気づいた。

でも、本当はできるんだよね。
お父さんも、きっとそうしたかったんだと思う。
すごく勇気をもらった。
あまりに嬉しくて、夫に報告したのを覚えている。

保育園に送り迎えするお父さんの割合の高さ。
保育園の男性保育士さんの数の多さ。
そういうのが大好きだった。

若くて、柔軟で、愛があって、
新たな困難にも果敢に挑戦しようとする人達から、
勇気と元気をもらえる街。
世間一般とは、少しだけ違う。
時代の先を行こうとする人達の姿を感じていた。

この街しか知らない娘達が、
他の地域に行った時に、
今までの環境をどう思うのか。
夫婦の力関係にも、どう影響するのか。
怖くもある。

この街に暮らして、
当たり前ではないことを
当たり前だと感じるように
育ててしまったこと。
後悔するのかな。
ただ懐かしく思うのかな。

それとも、やっぱり帰りたくなるのかな。

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