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連続小説MIA (73) | Chapter Ⅳ

漢字で不動産会社と読めた。よく見ると英語でもReal estateって書いてあることが分かった。「あとで入ってみようか。まずは小籠包だ」小籠包を腹いっぱい食べ中国ビールを飲み終えたジェイコブは見るからに落ち着いていた。街の活気は人に活気を与えてくれる。ジェイコブとは会って間もない間柄だが、どことなく馬が合う。元気がないときはその通りに見えるし、反対もまたしかり。表裏の無い性格が晶馬には心地よかった。不動産会社に入ると、店員は、晶馬の顔とジェイコブの顔を順番に見くらべた。それから、英語で「いらっしゃいませ」と言った。それを聞いたジェイコブが安心して、僕たち家を探しています、と店員に話しかける。紹介される物件を見ていくと、チャイナタウン周辺は平均的に賃料が安いということが分かった。全体として物件自体に過度な快適さを期待できないが、オペラハウス付近でパフォーマンスをしたいジェイコブにとって地下鉄のあるセントラル駅まで近いことは重要だったし、晶馬にとっては家賃が安いことは何よりもありがたい。その中でも目を引く物件があった。週390ドルで2ベッドルーム、この物件もチャイナタウンの中にある物件だ。「ここなんかどうかな、ジェイコブ。家賃も安いしさ」「そうだね、いいかもしれない。ベッドルームの広さはどんなのかな」話を聞いていた担当者は「これから見に行ってみますか?」と提案した。百聞は一見に如かず。僕らは頷くと、担当者が物件のオーナーに電話をかける。こちらを振り向きオッケーサインを二人に送った。歩いて5分程度の距離にその物件はあるようだった。チャイナタウンのマーケットのど真ん中。この付近は商店が立ち並ぶばかりであり、見る限りアパートメントのような建物はない。担当者も地図を見ながら場所を確認している。迷ったのか、ちょっと待っててくださいと言い、晶馬とジェイコブはチャイナタウンの喧騒の中に残された。本当に大丈夫なのかよ、と不安をこぼすジェイコブ。反対に晶馬は喜んでいた。中国語や英語、ビニール袋の擦れる音。2ストバイクの排気音。人々の活気とそれらが発する音々の只中にいることに喜々としていた。土地の雰囲気に影響されやすいことを晶馬は自覚している。しばらく経つと額の汗を拭きながら不動産会社の担当者が戻ってきた。

つづく(※平日の正午ごろに連載を更新します)

 (*The series will be updated around noon on weekdays * I stopped translating into English)

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