幻聴妄想カルタ

ハーモニーの一日

「愛の予防センター」が、毎週水曜日の昼過ぎに世田谷上町にあるハーモニーで立ち上がる。ハーモニーには、統合失調症や躁鬱病、パーソナリティ障害、発達障害など約30名のメンバーが利用登録をしている。「愛の予防センター」は、新澤施設長の絶妙な仕切りで、それぞれの近況、苦労話、自らの幻聴や妄想を報告する場である。がしかし、それだけではない。話した本人にとっては、幻聴や妄想と本当のことは連続的につながっていて、区別ができない。それを周りのみんなが「本当のこと」として受取り、字札をつくり、5分間くらいでハガキ大の絵として表現する。「幻想妄想かるた」はこうして出来上がっていく。現在三作目を製作中。

幻聴妄想は美しいものもある。例えば、宇宙人の女の人が「宇宙一美しい風景を見せてあげる」とか。でも、辛いものの方が多いようだ。それを他者が受取り、相対化してくれることによって、本人は「それ」と曲がりなりにも付き合えるようになる、「幻聴妄想かるた」は魔法の仕組だと思う。

「平和さん」は、右肩に柳刃包丁をもったおばさん、左肩には両親、右前方にはバレーボール大の蚊、そして目の前を、着物の女性、ランニングを着たおじさん、子どもなど数人が浮遊し回っているそうだ。私たちには、もちろん見えないが、そこにいると感じることで、ごく自然に彼女と話ができるようになる。

「ジェイソンさん」は平和さんのところに3年も通い、ゆっくりと理解しあって、ごく最近結婚した。人生でとても重要である、との思いのもと、毎日リュックと肩掛けカバン、手提げ2つに、大学教授が編集したような活字ぎっしりの本を詰めこんで持ち歩く。平和さんからの結婚の条件は「本は、この本棚に入るだけ!」だったそうだ。

二人は、お互いを気遣い、ゆっくりと、スロープで上がっていくようにコミュ二ケーションしている。平和さんは、結婚してからフト気がつくと、目の前を浮遊していた数人の小さな人は、ランニングのおじさん一人になっていたそうだ。

今日の「愛の予防センター」では、平和さんが「だんなに月曜日に呪いをかけられ、(まる二日間)まだ解けていない」という夫婦喧嘩の話から始まった。ROさんは、お気に入りのスーパーマーケットに行くと身体がかゆくなる話。アーティスト深澤孝史さんが、「かゆい粉」をまくとたちまち伝染するというパフォーマンスを発案。伝染したものは、誰かにまた「かゆい粉」をまいて、その場の全員がパフォーマンスに巻き込まれていく。次の展開では、平和さんの周りを何人かで「呪いを解く言葉」⇒「平和さん、愛してる!」「鉄火丼つくれ!(柳刃包丁をもったおばさんに向かって)」を言いながら、まわり始める。

ハーモニーのメンバーが所持している、妄想か現実か定かでないものを巻き込みながら、鼻笛隊も加わってパフォーマンスが続いていく。

ハーモニーに遊びにくるたびに、私は胸が一杯になり、そして偏見から自由になっていく。












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