個人の記録

 発酵デザイナー小倉ヒラクさんが「一週間後の自分のためにブログを書く」といわれた。極めて個別性が高いことでも、自らの深いところで起こり感じたことは、村上春樹が描く地下深いトンネルのように、どこかで周りとつながるかもしれない。

 久しぶりに「すばらしさ発見ノート」を手にとった。何の変哲もない手のひらに載るこのノートは、人との関係がうまくいかなくて出口が見つからないとき、相手のすばらしいところを見ようとすることで、乗り切ってきた私の10年来のパートナーだ。

 心を定義することはできないが、自分を偽って相手に接すれば、相手も偽りで返してくる。同じように相手のすばらしいところを見ようとすれば、相手の心にも連鎖する。だから悪意のあるメールを受け取ったとき、一番はじめに考えたのは「私自身の悪意と連鎖させてはならない」だった。心に刺さった毒針が、深く中に入らないよう、相手のすばらしいところを辿れる限り思い起こし「すばらしさ発見ノート」に書き込んでいった。

 病気と向かい合うことに大きなエネルギーを使っているのに、なおも自分を向上させようとしている彼の姿が浮かんだ。だれかに相談しようとするだけでフラッシュバックし、苦しみの追体験が起こり、パワハラを受けた同僚の苦しみがわかるように思った。そして言葉のもつ強さを今までになく感じた。まわりの人のすばらしいところを見ようとした。そして自らのすばらしいところも。これは、次の人生に向かう修行かもしれない。

 メールを受け取ってから9日後、外科手術をするようにカウンセラーが心に刺さった毒針を抜いてくれた。いくつかの出口を示してくれ、4日後にまたお会いすることにした。元気が回復するとき、感情が強く表にでてバランスがうまくとれない、という経験もした。もしかしたら彼は、元気になるプロセスの、その途上にいるのかもしれない。

 


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