オーケストラストリート

映画「ストリートオーケストラ」のマタイ受難曲

この映画は、ブラジル、サンパウロの最大のファヴェーラ(スラム街)エリオポリスに誕生したエリオポリス交響楽団の実話が基になっている。NGO組織「バカレリ協会」が細々と運営していた音楽教育の場で、バイオリニストのラエルチが先生となるプロセスが描かれ、ファヴェーラの子供たちの生活=音楽への無理解や、家族の面倒をみる姿、親との対立、ギャングの意志で町が動き、犯罪と隣り合わせ・・・・を描きながら、楽器と共に生活するように、というラエルチ先生の言葉どおり、楽器を離さず、オーケストラを生きる支えとしていく姿が2重写しになって進行する。

自らの手で人生を切り拓いていくことさえ困難な状況を、日本にいては中々想像できない。そのこどもたちの中で音楽が一筋光る。クライマックスでこどもたちがファヴェーラで演奏するバッハのマタイ受難曲は、宗教性、救い、絶望の中の一条の光、与えられるのではなく、獲得していく生、などが一緒になってこちらに伝わってくる。長年モンチアズールの町でボランティア活動をされてきた小貫大輔先生は、「路地のカビ臭さとビールとマリワナの匂いが、崇高な音楽と相まって頭を抜けるときの情動がわかるでしょうか。」と表現した。エリートのものとして完成されたはずの芸術が、民衆と出会って民衆の慟哭と悲しみを表現するように変容する。ファヴェーラがマタイ受難曲をみずからの表現として獲得していく。

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