がまくんとかえるくん

アートプロジェクトからみた「がまくんとかえるくん」

アーティスト藤浩志さんは、「がまくんとかえるくん」の「おはなし」と「おてがみ」を取り上げ、アートプロジェクトを次のように説明しました。◆「おはなし」は、がまくんは、病気のかえるくんのために七転八倒してお話を思いつこうとするのですが、とうとうぐわい悪くなってしまい、今度は元気になったかえるくんが、がまくんの「おもいつこうとする必死さ」を物語として語ってあげる、というお話です。

◆藤さんは「出来上がった作品ではなく、つくろうとする態度そのもの、それと格闘する時間こそがアートプロジェクト。」と語りました。◆それから病気のかえるくんが「ぼくが 休んで いる あいだに ひとつ おはなしして くれないか」とがまくんに頼んだことを取り上げ「違和感を口にすること、言葉にする、形にするのが初め」と語りました

◆「おてがみ」では、がまくんが、「いま 一日のうちの かなしい ときなんだ。 つまり おてがみを まつ じかん なんだ。」「だれも ぼくに おてがみなんか くれた ことが ないんだ。」といいます。それをきいたかえるくんは大急ぎでいえにかえり、がまくんに手紙を書いて、かたつむりに届けてくれるようにお願いし、すぐに引き返します。かたつむりが到着するまで4日間、「ふたりとも とても しあわせな きもちで そこに すわっていました。」

◆藤さんは、「かなしいときを、しあわせな気持ちにかえた」「絶望から希望の時間へと質を変えるのがアートプロジェクト。4日間という時間をつくるかたつむり的役割は何なんだろうといつも思っています。」と語りました。◆「それから『だれとの関係』『誰に届けるのか、◯◯さんに届ける』、リリースがアートプロジェクトでは大切です。かえるくんの手紙は「しんあいなる がまがえるくん。 ぼくは きみが ぼくの しんゆうで ある ことを うれしくおもっています。 きみの しんゆう、かえる。」というものです。私がもらってもうれしくありません。それを「とても いい てがみだ。」といって4日間もまっていられるのは、がまくんだけなんです。」と語りました。

◆「はるがきた」を藤さんのお話を聞いた後、読んでみました。かえるくんが、冬眠しているがまくんを起こすために、11月になっていたカレンダーを4月までやぶいて、5月になったカレンダーを見せます(まだ4月のようです)。時間を過去に遡ったり、進めたり、ちょっと未来の時間を生きたりします。

◆「なくしたボタン」では、がまくんが散歩の途中で洋服のボタンなくしてしまい、かえるくんと探します。肝心のボタンは見つからないのですが、違うボタンを様々な動物とかえるくんが見つけてくれ、そのたびにポケットに入れていきます。「なくしたボタンを探す」という行為のなかに他の人が巻き込まれていくプロセスが描かれ、目標であったはずの「なくしたボタンを探す」は、いつの間にか意識から消えて行きます(実際には家の中にありました)。最後にがまくんは拾ったボタンをすべて縫い付け、かえるくんにプレゼントしますが、色々な人が参加することで、別なものができてきます。

アーティストの藤さんの言われたこと、これらの4つのお話を結ぶと以下のようなアートプロジェクトの姿が見えてきます。

①感じている違和感を口にしたり表現をすることからスタート ②誰宛なのか、リリースする先がはっきりとしている ③生み出すために考えたり七転八倒する時間がプロジェクトの中で生み出される ④時間の質を、悲しい時間から期待の時間に変えていくプロジェクトである ⑤そこにいる人、少し遠巻きにしている人を巻き込むことを目的とした「仮の目標」を設定し、参加した人たちの魅力でその場をつくっていく・・・など「がまくんとかえるくん」には、アートプロジェクトの特徴が詰まっていました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?