見出し画像

井戸の桶になりたかった

あの日から三回目の木曜日は穏やかに過ぎた。

唐突だが先日、友人の家にてジャニーズ鑑賞会を行った。メインはSexyZoneとHey!Say!JUMPである。4時間YouTubeとDailymotionを巡り続けた。マリちゃんは天使で、けんとっとは尊くて、TimeとCome On A My houseは神だなと思った。ちなみに友人はJr.担であり、私はKドルしか追っていない。

若い。そしてきらきらしている。大きな会社のアイドルとして愛されて、頑張っている輝きを感じた。

なんでこんなことをしたかというと、クリスの事件がつらすぎて、ジャニーズのふわふわきゃっきゃしてるアイドル活動を見れば癒されるかと思ったからである。

友人はジャニーズやEXILEは聞くがK-POPは全く知らない子だったので、自分の衝撃を何とか伝えようと、
自担のシンメ(と私が思っており、おそらく本人たちもそのつもりだったのではないかと思われる人)が脱退したのだと話すと、ものすごい顔で心配してくれた。シンメとは偉大な共通言語である。


またまた話は変わるが、クリスがいなくなって一週間くらいだったかの時期に、TOKIOのダッシュ島を見た。ちょうど井戸が完成しようとしているところで、井戸の水の汲み上げを楽にするためテコの原理を使うべく、山口くんとリーダーと長瀬くんがスタッフさんと一緒に一生懸命、桶の反対側に巨大な重りのようなものを設置していた。


10数人で何とか巨大な杭を打ち立てて、その仕組み(はね釣瓶というらしい)が完成したのだが、リーダーがいそいそ水を汲み、楽だ楽だ四十肩でも片手で汲めるぞ~と山口くん長瀬くんと共にきゃっきゃしていたら、水を失い軽くなった桶がポーーーーンと空に飛んで行った。ものすごい勢いだった。

あまりのことに三人とも呆然と飛んで行った桶の方を見つめ、そして次の瞬間笑い転げ始めた。ありえねー!と叫びながら三人でヒーヒー爆笑していた。

こいつなに言ってんだと思われるかもしれないが、それを見た瞬間唐突に泣けてきた。

爆笑してるアラフォーのおじさんを見てボロボロ泣く女というのはよく考えなくてもあまりにシュールだが、もうひたすら泣いた。宙でぶらぶらしてる桶を何とか捕まえようと三人で悪戦苦闘しだすのとか超泣いた。一番背の高い長瀬が道具で引っ掛けろ!と長瀬くんが桶に届くようにリーダーと山口くんが一生懸命装置を抑えてるあたりマジ泣けた。


私はK-POPの素敵なところは人生かけてアイドルしてるところだと思う。宿舎でメンバーとマネージャーと共に暮らして、歌も踊りも完成度の高いカムバックを求められて、毎日どこへ行こうとファンの子が撮ったプライベート写真が上がってくる。ステージなんか命懸けで、○○ってグループの××が音楽番組の撮影で倒れたとか、コンサートで無理しすぎて倒れたとか、そんな話も時々聞く。それでも、頑張ります大丈夫ですステージを楽しんでください、と倒れた子たちが口にしてたというのも、時々聞く。

ただでさえ顔が綺麗で、スタイルが良くて、生き馬の目を抜く芸能界でデビューを掴む才能があった自分の好みの子たちがそんな覚悟でパフォーマンスに挑んでくれるなんて、もうファンとしてこんな追いかけ甲斐のあることはないし、命を削るように全力で行われるパフォーマンスを見ると、背筋がゾクゾクして今すぐにでも推しや推しのグループの名前を叫びながら街を駆け回りたくなる。

だけど命を削ってるのは私と同じ、普通の人間なのだ。

覚悟がなかったとは思わない。覚悟が足りなかったかな、とは思う。練習生期間も長かったんだから、という意見もあるけれど、私はみんながみんな、時間の長さや重大な責務を前にするだけで心を強く決められる訳ではないと思う。自分と比べるのも身の程知らずではあるが、私は人生規模の重大な決断を前にしても、そこまで悲壮で確固とした意思を築き上げきれずにとりあえず流れのある方向へ雪崩れ込みがちな人間なので、ちょっとだけ、クリスもそんな感じでデビューしたのかなあと思った。
そのときそのときの曖昧なつらさを受け流して行くのは得意だけれど、正体の分かってしまった苦しみを前に歩き続けるのは耐えられない人だったのかもしれない。

どのくらい悩んだのかなぁ、とあの後ぼんやり想像しては、分からない、と当たり前の結論に辿り着く。クリスは優しくて、いつも誰にどう思われるかを気にしているように私には見えた。だからきっとすごく悩んだと思うんだけど、俳優になりたくて、辛いアイドル業にさっさと見切りを付けただけと言う人もいる。永遠に分からない。誰もクリスじゃないし。


一緒に歳をとっていた。仲良く、楽しく、些細なことで騒いで過ごしていた。TOKIOが私に見せてくれたそれは、永遠にEXOでは叶わなくて、だからとてもかなしい。


私は自担とシンメ(仮)に無人島で井戸を掘ってほしかった。それで自分は空に吹っ飛んで行く桶になりたかったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?