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8/26~28 限界への挑戦 幌尻岳。

岳人憧れの地・幌尻岳。

日高山脈。
それは北海道の背骨とも呼ばれる、山を愛する者を魅了してやまない山域です。そんな日高山脈の主峰であり、北海道では大雪山系を除けば唯一の2000m峰であるのが幌尻岳です。
幌尻岳についてネットで調べると「百名山最難関」などと出てきます。確かに今回行ってみて本当に遠くて疲れましたし、生半可な気持ちと準備で挑むことは許されない山であることが分かりましたが、幌尻の頂に立ったものにしか与えられない素晴らしい絶景が見られました。2泊3日に及ぶ壮大な登山の記録をお届けします。

戦いは登山口の前からもう始まっている。

今回使ったコースは、新冠陽希コース。このコースは幌尻岳に登る主要3コースの中で最も距離が長い一方で渡渉は少ない(通常時なら飛び石で渡れ、他の山の登山道と何ら変わりない)ため、技術的な難易度が低めに抑えられ雨にも比較的強いということで登頂成功率が高く、登山ツアーに人気の高いコースなんです。このコースの登山口に至るには距離40㎞の林道を2時間かけて新冠市街地から走る必要があります。車のタイヤがパンクしては大変なことになるので集中して運転することが求められ、山歩きが始まる前から戦いは始まっています。
40㎞の林道を走りきるとイドンナップ山荘に到着します。ここに車を停め、登山をスタートします。

イドンナップ山荘横にあるモニュメント。

このコースの名の由来はプロアドベンチャーレーサーの田中陽希氏。日本各地に存在する日本百名山に選出された山に登りながら、全行程7800㎞を徒歩とカヤックのみで人力踏破する「日本百名山一筆書き」に氏が挑戦した際、幌尻岳にこのコースを使って登ったことを記念し命名されました。全部徒歩ということは我々が必死こいて車走らせた林道まで歩いている…凄すぎますね。
登山道入り口にはモニュメントがあります。「幌尻の頂へ 自らの脚で さあ 一歩をここから踏み出そう!」 勇気をもらえるお言葉です。再び、無事ここに帰ってこれることを願い、いよいよ幌尻岳への挑戦が始まります。

長い林道歩き。根気強く。

このコースの特徴は、長い林道歩き。我々の持っていたGPSの測定では17.5kmあり、初日は4時間以上歩いて宿泊所である山小屋を目指す必要があります。

登山道入り口のゲート。

登山道入口にはゲートがあり、車両の進入を防ぐために人1人程度しか通れないようになっています。先に荷物を降ろして、反対側に渡してからくぐると良いでしょう。先ほどのモニュメントにもありましたが、このコースは「自らの脚で」歩かなければなりません。登山道は北海道電力のダム管理用道路であり、登山者の通行も北電が厚意で認めてくれているのであって、自転車含む車両での通行やそれに起因する事故が発生すると今後コースが使用禁止になってしまう可能性が高いので絶対にやめましょう

さて、林道歩きですが、単調で面白みのないコースが続きます。重たい荷物を背負いながらアップダウンも結構ある道を歩かなければならないため、舐めてかかると痛い目に合うかもしれません。山1つ登る、とまではいかないですが結構消耗するよ、ということを頭に入れていく必要があります。根気強く、着実に進んでください。日高山脈はヒグマもたくさんいます。本当にどこにでもいます。林道で出会う可能性も十分あるので、熊鈴や熊スプレーなど、対策は最初から抜かりなく。また、この林道はアブがひどいという報告を事前調査ではよく目にしました。しかし我々がいったときはアブは全然いなかったような…でも報告あるのは間違いないので虫対策グッズもあるといいです。

林道の途中、新冠ポロシリ山荘まで残り15㎞、5㎞、2㎞の地点に距離看板がありました。ペース把握などに使えると思いますし、看板に書かれた残り距離が減ると元気になれます。

奥新冠ダム。ここからもう一息!

林道を15km近く歩くと奥新冠ダムが見えてきます。北海道電力管理の発電用ダムで、新冠市街地から80km近い奥地にあるため殉職者も多く出した相当な難工事の末にできたダムなんだとか。今から60年近く前にこんなものをこんな山の中に作ったとは…
ここまで来れば、山小屋まではあともう少し。もう少しと言っても40分~50分位はありますが…ここに来るまでに4時間近く歩いているので、それを考えれば本当にもう少しです‼‼

山岳会の方によって小屋は管理されている。

新冠ポロシリ山荘に到着。

林道歩きを終えた先にあるのは幌尻岳登山の拠点となる新冠ポロシリ山荘です。小屋に入ると沢水はじゃぶじゃぶ出ているので、煮沸または浄水して使うことができます。北海道の沢水はエキノコックスのリスクがありそのまま飲んではいけませんので、本州から来られる方は注意してくださいね。
小屋の横には簡易水洗のトイレも用意されています。トイレの貼り紙に書かれていることがすごく面白かったので、気になる方は是非行って読んでみてほしい
手入れは行き届いており、快適に過ごすことができます。次に使う人も快適に使えるように、ゴミや物品を小屋に捨てるなどのマナー違反はしないようにしなければなりません。
どうやら我々が最後の到着者だったようで、小屋はもうすでに登山者でにぎわっていました。持ってきた食べ物を食べて、明日に向けての英気をチャージします。やっぱ山の中で食べる食い物うまいですよね。
当然ですがこんな山の中に電波はありません。インターネットが発達し情報過多の中で生きる現代人にとっては、ネット・スマホから離れて自然の中で過ごす時間も必要なのかも、と思ってみたり。

2日目。山頂へのアタックです。

2日目です。いよいよ幌尻岳の山頂に挑みます。必要な物品のみを持って残りは山小屋においていきます。

登山道の序盤は基本緩い傾斜の道が続きます

登山道が始まってしばらくは基本緩めの傾斜の歩きやすい道が続きます。一部急坂もありますが、まだ序盤なので大丈夫なはず。2022年の大雨で登山道が破壊されたためか、今年は登山道の付け替えが行われていて地図やGPSアプリ上の情報と実際の登山道がずれている可能性がありますので、ご注意を。

幌尻沢の渡渉地点。

しばらく歩いていくと、渡渉地点が現れます。渡渉とはいえ、通常なら丸太橋と飛び石伝いで沢に入らずに難なく渡り切れます。赤丸ペンキで進むべき方向も分かります。雨で増水している場合、渡るのは危険なので引き返しましょう。

突如始まる急坂、勝負の区間。

この沢を渡渉すると登山道は一気に険しさを増していきます。この先の2~3kmは急峻な日高山脈を実感できる急坂が山頂付近までほぼ止まることなく続き、登山者を苦しめます。谷側が崖のようになっていて、登山道を踏み外すと危ない箇所もありますので、集中して登ってください。

急な登山道ですが、山岳会の方によって笹刈りはされていて進行方向や足元が見えなくなるレベルの藪漕ぎはありません。一部の危険箇所にはロープも用意されていました。

急坂をハアハア言いながら登っていくと中間点なる看板があります。標高1430m付近にあり、山小屋の標高が800m、幌尻岳山頂が2052mであることから標高ベースでの中間地点であると思われます。この看板の先も、急な登りは続いていきます。

標高1650m付近の沢。

標高1600m~1700m付近で森林限界に到達し、大きな木は無くなり眺望が良くなります。標高1650m付近には沢があり、どこが正解の登山道かやや紛らわしくなっています。沢の右端に登山道が付いていて、そこを登っていくとピンクテープとロープのある正規の登山道を発見できます。
この沢付近には水場があります。沢横の登山道から右上に逸れた辺り(場所、かなり分かりにくいです)に湧き水が出ているところがあります。最初は我々も発見できなくて、他の登山者の方が教えてくれた。ここの水は浄水しなくても飲めるのだそう。心配な方は念のため浄水してもいいかもしれません。流れている沢の水を取る場合は浄水必要です。

振り返れば日高山脈と通ってきた奥新冠ダム。元気が出ますね‼
沢を越えるとこの新冠コースのシンボルでもある大岩が見えてきて、そこを目標に登っていくのですが、近いように見えて、遠いんですよね。登れど登れど中々たどり着かない!
でも永遠にたどり着けないなんてことは無くて、ちゃんと登っていけば到達できました笑
大岩に続く登山道は岩場も多くなります。急峻な道ですから滑落すると死亡事故につながってしまいます。特に段差が急な箇所などは三点確保を意識して、慎重に登っていきます。また、落石のリスクがある箇所もあります。実際我々も一回石を下の方に落っことしてしまい、幸い登山道とは別の方向に転がっていったので被害などは無く済んだのですが…石を落としてしまった場合、下にいる登山者に知らせるために「ラック!」などと叫びます。石を落として黙っているのは重大なマナー違反行為です。

大岩。新冠コースのシンボル。

大岩までこれば、稜線に出るまであともうひと踏ん張りです!標高2000mを越えると振内コース(平取からくるコース)との分岐地点があります。ここではナキウサギを見ることができました。シャッターを切ろうとした瞬間に逃げられてしまい写真に収めることはできず…残念。

ついに頂点へ。

分岐地点からは最後のウイニングロード。5~10分程度歩けば、幌尻岳山頂に到達です!山頂では電波も通じますよ。Insta映え狙いましょう

幌尻岳山頂の看板。
美しい日高の山々。

天候が荒れるのではないかとの予測もありましたが、幌尻岳の神は我々を歓迎してくれました。山頂からは美しい日高の山々と、遥か先には噴煙を上げる十勝岳、トムラウシ山、二ペソツ山など大雪山系の名峰を見ることができました。

七つ沼カール。

幌尻岳山頂から往復70分くらい歩けば、日本の地質100選にも選ばれた七つ沼カールを見ることができます。日高山脈は氷河によって形成された、スプーンでえぐり取ったような地形であるカールが特徴で、この地形は日本では日高山脈と日本アルプスでのみ見ることができる希少性の高いものです。

幌尻の肩と山頂をつなぐ登山道。
山頂に続く稜線。

下山も気が抜けない。

美しい日高山脈の絶景を十分に堪能した後は、下山が始まります。しかし、これまでの写真や文章から分かるように、急峻な日高山脈。疲労も蓄積してくる後半戦、登り以上に慎重を期さないと事故を起こしてしまいます。管理人、下り方が悪いのか下山時は膝の痛みに悩まされる登山者で、急な下りは例によって膝に負担がかかり今回も痛くなった。植物同好会には下山時になぜか毎回顎を痛める変種もいるよ

この急斜面を下っていかねばならない。

3時間半くらいで下りきって山小屋へ。人によっては一気に2日目に下界まで行きますが、我々は山小屋でもう一泊することに。やっぱ、山小屋で食べる飯はうまい!ただのレトルトカレーと春雨スープのはずなのに。地球に生まれてよかったー!

最終日。お世話になった山小屋にお別れ。

3日目。新たに幌尻の頂を目指す勇者たちが山小屋を発つのを見届けた後、我々は再び17㎞の林道歩きを始めます。この日も晴れ、山小屋から山頂が良く見えていました。我々の挑戦を歓迎してくれた(であろう)幌尻岳と山小屋に別れを告げ、最後の戦いを始めます。
これまで2日間、すでに30㎞近く歩いているので、下り坂の区間は良いものの上り坂の区間では思うように足が進まず。それでも何とか歩を進め、イドンナップ山荘まで戻ることができました。

アイツの落とし物だ。

登山道の最後に嫌なブツを見てしまったのでおまけとしてのせておきます。多分ヒグマの糞だ。終始、ヒグマのことは頭の中にありましたが今回出逢わずに済んでよかったなー、と。時々でっかい鳥がバサバサと羽音を立てて飛んで行ったり、日高山脈上空を通過する飛行機のエンジン音が聞こえたりしてビビりましたが…

あとがき。

歩きが終わったら40㎞の林道走行でしたが、帰りも事故らずに終わることができました。温泉は新冠レコードの湯。幌尻岳から下りてきた人はここに行くのがお約束の流れなのか、我々の後ろを歩いていた登山ツアー客も、我々の1時間くらい後にやってきて、また会いましたね、となった笑。

レコードの湯。

実は新冠町は管理人の出身地です。やっぱ生まれ故郷の名山に登れるというのは、他の山に登るときとは一味違う良さがありますね。
最後に新冠ポロシリ山岳会が発表している幌尻岳での10のルール『ポロシリ・コード』のリンクを貼っておきます。コードの内容に関しては様々な意見があるようですが、幌尻岳に行くのであれば一度は目を通すべきと管理人は考えます。
このnoteが、幌尻岳に挑む人の目に触れ、参考となりますように。

次回投稿は『9/3~4 リベンジマッチ 雨竜沼湿原』の予定です。昨年は濃霧に阻まれ、全く景色が見えなかった雨竜沼湿原。今年こそは晴天の湿原を見たい…ということで行われるリベンジ企画の様子をお届けします。


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